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06 賃金支払5原則

2023年11月9日

この記事のポイント

労働基準法は、使用者が労働者に対して賃金を支払う場合に、通貨により、その全額、直接本人に対して、毎月1回以上、特定の日に支払うことを定めている。

ブラックバイトで問題になっている、仕事のミスに対して罰金を徴収する行為は、賃金支払の原則や民法の報償責任の原則に反し、懲戒権の濫用とされる可能性が高い。

給与計算ミスによる過払いの手当を翌月の給与で相殺したり、賞与の支給を支給日に在籍している者とすることは、賃金支払5原則に反する行為とはならない。

賃金支払5原則

賃金は、労働者が会社で働いた対価として支払われるものであり、労働者は、賃金で生活を維持しているため、労働基準法では、使用者が適正に労働者に賃金を支払うように、5つの原則を定めている。

通貨払いの原則

原則
賃金は通貨によって支払わなければならない。

例外
労働者の同意を得た上で、労働者が指定する金融機関への振込みの方法で賃金を支払うことができる。また労働組合のある職場では、労働協約を締結することにより、例えば通勤手当の支給に代えて、通勤定期券を支給することができる。

なお、キャッシュレス決済の普及にともない、令和4年11月の法令改正(施行規則)によって、電子マネーによる賃金支払いも認められることになった。

山口
通貨に代えて商品券などで賃金を支払うことを禁止しています。また給与振込口座は労働者本人の名義でなければなりません。もし家族名義の銀行口座を給与の振込先に指定したとしても、金融機関は受理しません。

直接払いの原則

原則
賃金は労働者に対して直接支払わなければならない。

例外
労働者が病気により欠勤している時に、その家族に賃金を手渡したり、派遣元事業者が、自社の派遣労働者に対して、派遣先の事業者を通じて賃金を支払うことなどは認められている。

山口
高校生アルバイトなど、未成年者の賃金を、親権者や後見人が本人に代わって受領するような労働契約は、労働基準法によって禁止されています。

全額払いの原則

原則
賃金はその全額を支払わなければならない。

例外
社会保険料や源泉所得税など、賃金控除によって徴収する旨、法令に規定されているものや、社内積立金や親睦会費などについて、労使協定を締結したものは、賃金から控除できる。

なお、従業員のミスに対して罰金を徴収するブラックバイトが問題になっているが、民法では、使用者は従業員の仕事を通じて利益を得るのだから、故意または重過失がない限り、従業員のミスによる損失も当然に負担すべき(報償責任の原則)としている。

山口
懲戒として罰金を徴収する場合であっても、労働基準法において減給制裁の上限額が規定されています。そもそも些末なミスに対して、頻繁に罰金を科すことは、懲戒権の濫用となります。

毎月1回以上払いの原則

原則
賃金は毎月1回以上の頻度で支給しなければならない。

例外
賞与や臨時手当、また精勤手当や勤続手当など、1ヶ月以上の算定期間により支払われるものを除く。

山口
年俸制の場合であっても、使用者は、労働者に対し、月割等によって換算した賃金の額を、毎月1回以上、支払う義務があります。

一定期日払いの原則

原則
賃金は一定の支給日を決めて支払わなければならない。

例外
賞与や臨時手当、また精勤手当や勤続手当など、1ヶ月以上の算定期間により支払われるものを除く。

山口
給与支給日を「毎月第3金曜日」などとすることは、月によって支給日が7日間以上変動してしまい、労働者の家計のやりくりが不安定になるため、認められません。

賃金支払5原則の対象外

端数処理

賃金計算の過程で行われる端数処理は、全額払いの原則に違反しないものとされている。

  • 時間外勤務、休日出勤、深夜勤務等の実績の集計において、1時間未満の端数を30分未満切り捨て、30分以上を1時間に切り上げとすること。
  • 時間外手当、休日手当、深夜手当等の金額の計算において、1円未満の端数を50銭未満切り捨て、50銭以上を1円に切り上げとすること。
  • 1ヶ月間の時間外手当、休日手当、深夜手当等の金額の計算において、1円未満の端数を50銭未満切り捨て、50銭以上を1円に切り上げとすること。

調整的相殺

誤って賃金を過払いしてしまった場合に、翌月の賃金から、過払い分を控除して相殺することは、相殺する時期、金額、方法などが労働者の経済生活を不当に脅かすものでない限り、全額払いの原則に違反しないものとされている。

山口
全額払いの原則は、労働者が受け取るべき賃金は、きちんと全額支払いなさいという趣旨です。過払いの相殺は賃金計算ミスの修正なので、根本的に意味合いが違います。

賞与支給の在籍要件

賞与は一般的に過去の勤務成績に応じて算定されるものですが、賞与の支給対象者を、賞与支給日に在籍している労働者のみとする就業規則は、有効であるとされています。

罰則

労働基準法では、賃金支払5原則への違反に対し、30万円以下の罰金を規定している。また賃金支払5原則違反の原因が、時間外手当の未払いだった場合には、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金刑も科される。

山口
罰金は違反事案1件(=労働者1名)あたり30万円です。また違反行為のあった事業所の長(店長等)以外にも、経営者が違反行為を知りつつ黙認していた場合は、経営者にも罰金刑が併科されます。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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