この記事のポイント
労災保険給付の種類
労災保険とは?
労働者災害(以後「労災」という。)には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があり、前者は労働者が勤務中に業務に起因して、また後者は労働者が通勤中に通勤に起因して、負傷したり病気に罹ったりすることをいう。
労働者が労災に遭うと労災保険から様々な保険給付が行われるが、そのうち「業務災害」については労働基準法に規定する使用者の災害補償責任を労災保険が代行するものであり、「通勤災害」は労災保険が独自に給付を行うものである。
労災保険を支給目的別に分類する
労災保険制度の全体像については、別途「06 労災保険制度の全体像」を参照して頂きたいが、これら各種労災保険給付を支給目的別に整理すると次のとおりとなる。
- 傷病に対する給付
被災労働者が医療機関を受診したり、介護サービスを利用した場合→療養(補償)給付、介護(補償)給付 - 休業に対する給付
被災労働者が療養のために休業し、賃金を受けられなくなった場合→休業(補償)給付、傷病(補償)年金 - 障害に対する給付
被災労働者が障害状態になり、賃金を稼ぐ能力を喪失・減衰した場合→障害(補償)給付、障害(補償)一時金 - 死亡に対する給付
被災労働者の死亡により、生活保障等を要する遺族がいる場合他→遺族(補償)給付、遺族(補償)一時金、葬祭料(葬祭給付)
労災保険を支給方法別に分類する
労災保険の各種給付を支給方法別に整理してみると概ね次のとおりとなる。なお厳密には障害補償給付差額一時金や障害補償前払一時金、遺族補償前払一時金などもあるが、ここでは基本的な仕組みを理解してもらいたいので派生的な保険給付は割愛する。
- 日払い
支給要件に該当する日ごとに保険給付を行う→休業(補償)給付 - 年金払い
保険給付の額を年額で算定し年金方式で支給する→傷病(補償)年金、障害(補償)年金、遺族(補償)年金 - 一時金払い
保険給付を一時金として一括で支給する→障害(補償)一時金、遺族(補償)等一時金、葬祭料(葬祭給付) - 現物支給・実費支給
保険給付を医療行為として提供したり、実際に利用した介護サービス費用を実費支給する→療養(補償)給付、介護(補償)給付
労災保険給付の単価はどのように算定されるか?
原則的な給付基礎日額
労災保険給付の額は原則として「支給単価」✕「支給日数」で算定されるが、支給単価にあたる部分を「給付基礎日額」といい、計算方法は概ね労働基準法の平均賃金(労災発生日から直近3ヶ月間の賃金総額÷3ヶ月間の暦日数)と同じである。
ただし労災保険における給付基礎日額の算定にあたっては最低保証額が設けられており、計算した平均賃金の額が最低保証額に満たない場合には、自動的に最低保証額が適用される仕組みとなっている(ゆえに最低保証額を自動変更対象額という)。
日払いの給付基礎日額
日払いの労災保険給付は、いったん原則的な給付基礎日額✕60%の額で保険給付を行った後、毎月勤労統計の平均給与の増減に応じて、四半期(1月~12月を3ヶ月ごとに四期に区切る)ごとに給付基礎日額のスライド改定を行うことになっている。
具体的には当四半期の平均給与が前四半期のものに比べ、プラスマイナス10%以上の変動があれば、現在の給付基礎日額に変動した率を乗じた新たな給付基礎日額でもって、翌々四半期から支給する労災保険給付の額を算定する。
参考;通算スライド率(令和6年1月~3月に給付事由が生じた場合)
年金払いの給付基礎日額
年金払いの給付基礎日額の場合は、4月から翌年3月までを一年度とする年単位で平均給与を比較して、給付基礎日額のスライド改定を行う。ただし年金払いの給付基礎日額では、現在の年度と比較するのは常に労災事故に遭った年度の平均給与となる。
また日払いでは前四半期の平均給与に対してプラスマイナス10%以上の変動が無ければ改定を行わないが、年金払いについては1%でも増減があれば、翌年度の8月1日から必ず給付基礎日額の改定を行うことになっている(完全スライド制)。
一時金払いの給付基礎日額
一時金の給付基礎日額は年金払いの給付基礎日額に準じてスライド改定を行うが、平均給与の比較は給付基礎日額の算定事由が生じた年度(=労災に遭った年度)と労災保険給付の受給権を得た年度(障害認定された年度等)において行う。
年齢階層別の最低限度額・最高限度額
年金払いの保険給付と受給開始後に1年6ヶ月を経過した休業補償給付については、給付基礎日額のスライド改定を行った後に、年齢階層別の最低限度額・最高限度額表に照らし合わせ、限度額を下回る場合もしくは超過する場合にそれぞれの限度額とする。
参考;年齢階層別の最低限度額・最高限度額(令和5年6月1日~令和6年7月31日適用分)
労災保険給付の概算額
詳細は回を改めて個別に解説するので、この記事では労災保険の各種給付の額がだいたいどれくらいになるのか、大まかに紹介する。
療養(補償)給付
労災による負傷や病気の治療に要した診察、検査、処置、手術、入院、薬剤などの医療費を、医療行為の提供すなわち現物給付として支給する。業務災害でも通勤災害でも、これらの治療に要した医療費は労災保険が全額負担する(つまり医療機関での窓口負担ゼロ)。
休業(補償)給付
療養のために休業し、なおかつ会社から賃金もしくは休業手当が支給されない日の4日目から、休業および無給状態が解消されるまで、休業した日ごとに日額払いの給付基礎日額が支給される。なお事務上は月ごとにまとめて給付申請することになる。
傷病(補償)年金
「傷病等級ごとの給付日数」✕「年金払いによる給付基礎日額」によって計算した額が年金で支給される。支給月は国民年金や厚生年金と同様に、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月に、それぞれ前2ヶ月分を支給する方式となっている。
障害(補償)年金・障害(補償)一時金
重度障害(障害等級1~7級)は「障害等級ごとの給付日数」✕「年金払いによる給付基礎日数」によって計算した額が年金払いで、また軽度障害(障害等級8~14級)は「障害等級ごとの給付日数」✕「一時金払いによる給付基礎日数」によって計算した額が一時金で支給される。
遺族(補償)年金・遺族(補償)等一時金
労災によって労働者が死亡した場合には、一定の条件を満たす遺族に対して、「遺族(受給資格のある遺族)の人数に応じた給付日数」✕「年金払いによる給付基礎日額」により計算した額が支給される。
もし遺族のうち、遺族補償年金の受給資格を満たす者がいない場合には「1,000日」✕「一時金払いによる給付基礎日額」により計算した額が一時金として支給される。
葬祭料(葬祭給付)
労災によって労働者が死亡した場合に、葬祭を行う者に対して次のいずれか高い方の葬祭料が支給される。
- 「315,000円+30日」✕「一時金払いによる給付基礎日額」により計算した額
- 「一時金払いによる給付基礎日額」✕「60日」
介護(補償)給付
労災保険の傷病補償年金もしくは障害補償年金を受給している者で、なおかつ常時もしくは随時介護を必要とする者は、介護サービスに利用した費用について、労災保険から一定の上限のもとに保険給付を受けることができる。
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