外国人労働者と働く 外国人在留資格制度

EPA(経済連携協定)看護師・介護士受入制度


EPA(経済連携協定)による海外人材の受入

 

LNGタンカー

EPA(経済連携協定)とは?

EPAとはEconomic Partnership Agreement(経済連携協定)のことで、「幅広い経済関係の強化を目指して、貿易や投資の自由化・円滑化を進めるための協定」(外務省HPより引用)のことです。

簡単にいえば、特定の国同士がお互いの発展のために、ヒト、モノ、カネ、情報のやりとりについて、より活発に連携しましょう…という意味です。

 

 

FTAやTPPとの違い

「FTA」が特定の国同士が関税引き下げなどの貿易自由化協定であるのに対し、「EPA」はさらに人材や情報など、さまざまな分野での緊密な連携を目指しています。

「TPP」はEPAの一種で、EPAが二国間の協定であるのに対し、「TPP」は環太平洋地域の複数の国々による多角的なEPAです。

FTA(Free Trade Agreement)=自由貿易協定、TPP(rans-Pacific Partnership Agreement)=環太平洋パートナーシップ協定

 

 

EPAの発行状況

シンガポール(2002年)、メキシコ(2005年)、マレーシア(2006年)、チリ(2007年)、タイ(2007年)、インドネシア(2008年)、ブルネイ(2008年)、ASEAN(2008年)、フィリピン(2008年)、スイス(2009年)、ベトナム(2009年)、インド(2011年)、ペルー(2012年)、オーストラリア(2015年)、モンゴル(2016年)、EU(2019年)※2019年2月時点
チリ産の良質なワインが格安で飲めるのは、チリとのEPAによって、輸入ワインにかかる関税が、チリ産は3分の1に引き下げられているためです。

 

 

EPAによる海外人材の受け入れ

前述のEPA締結国のうち、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国については、日本の看護師と介護福祉士の国家資格を取得させるための外国人受入制度が設けられています。

 

 

 

EPAによる看護・介護人材の受入

 

インドネシア国旗 フィリピン国旗 ベトナム国旗

 

 

3か国とのEPA締結の背景

インドネシア、フィリピン、ベトナム3か国と日本は貿易の規模が大きいために、互いに重要な経済的パートナーとなっています。

日本はこれら3か国との間で、貿易にかかる関税のうちおよそ9割以上を相互に撤廃しましたが、看護や介護も含めた外国人材の受入についても積極的に行えるようにしました。

 

 

応募要件

看護師候補生

インドネシア インドネシアの看護師資格+実務経験2年以上
フィリピン フィリピンの看護師資格+実務経験3年以上
ベトナム  ベトナムの看護師資格(3~4年制卒)+実務経験2年以上

 

介護福祉士候補生

インドネシア 高卒+インドネシアの介護士資格または看護学校(3年制以上)卒
フィリピン 4大卒+フィリピンの介護士資格または看護大学(4年制)卒
ベトナム 看護学校卒(3年制以上)

 

 

看護・介護候補生受け入れの流れ

受け入れまでの流れ

これは看護師・介護福祉士候補生の募集から、マッチング(採用)を行い、日本語能力試験を経て、日本に入国して就労するまでの流れです。

 

(厚生労働省ガイドラインよりGIGWORKS作成)


受入先となる日本の医療機関や介護施設は、「JICWELS(国際厚生事業団・ジックウェルズ)」通じて候補生を採用することになります。

EPAでは「技能実習制度」と異なり、受入先が候補者を直接リクルートすることは認められていません

 

ちなみにEPAによる看護師・介護福祉士候補生を受け入れようとする医療機関もしくは介護施設については、一定の施設基準を満たす必要があります。詳細はJICWELSのホームページをご参照願います。

参考




 

日本語能力試験について

EPAによる看護師や介護福祉士の受入制度は、あくまでも日本での就労が最終目的なので、就労前に日本語能力試験の一定レベルに到達している必要があります。

日本語能力試験のレベルについては、難易度の高い順にN1からN5まで5段階が設定されています。

 


なおインドネシアおよびフィリピンと、ベトナムとでは日本語能力研修の流れが異なります。

また日本語能力研修を行う業者は、国が指定して委託します。インドネシアとフィリピンは(一財)海外産業人材育成協会が、ベトナムはアークアカデミーという団体が受託しています。

 

在留資格について

候補生と受入先医療機関・介護施設とのマッチングが終わり、日本語能力試験をクリアして、いよいよ日本に入国する段階になると、特定活動での在留資格を取得することになります。

 

(法務省ホームページよりGIGWORKS作成)

臨床修練制度では「文化活動」、技能実習制度では「技能実習1、2号」資格ですが、EPAの場合は「特定活動」資格になります

 

 

受け入れ後の流れ

看護師候補生

受入後の流れは、看護師候補生と介護福祉士候補生とで若干異なります。

 

(厚生労働省ガイドラインよりGIGWORKS作成)


看護師は就業後3年以内で日本の看護師国家資格を取得することになりますが、一年目から国家試験にチャレンジすることができます。

そして無事に試験に合格すれば、以後はその医療機関で働き続けることができます(在留資格は3年ごとに更新する必要あり)

また3年目の試験で不合格でも、特例で1年間延長して再チャレンジすることができますが、再チャレンジも不合格だと帰国しなければなりません。

帰国後に短期滞在ビザを取得して再入国し、国家試験に再チャレンジすることは可能です

 

 

介護福祉士候補生

介護福祉士は、3年間就労しながら介護実務の研修を受け、4年目に国家試験にチャレンジすることができます。不合格の場合の特例措置や合格後の処遇については看護師のケースと同様です。

 

(厚生労働省ガイドラインよりGIGWORKS作成)

フィリピンとベトナム出身の介護福祉士候補生については、就労せずに養成施設で介護を学び、介護福祉士の国家試験合格を目指すルートもあります

 

 

 

看護・介護人材の状況

 

東南アジア女性の面接

3か国の受入数推移

EPAによる看護・介護の海外人材受入数について、国別・職種別にグラフにまとめてみました。

 

(厚生労働省データよりGIGWORKS作成)


介護福祉士については3か国とも年々受入数が増加していますが、看護師の方はやや減少傾向が見られます。

 

 

国家試験の合格率推移

看護師国家試験

これはEPA看護師候補生の国試合格率の推移です。

 

(厚生労働省データよりGIGWORKS作成)

インドネシアとフィリピンが10%台で低迷しているのに対して、ベトナムは看護師候補生の受入を開始して以来、高い水準を維持しています。

 

 

介護福祉士国家試験

(厚生労働省データよりGIGWORKS作成)


介護福祉士の場合は看護師よりも合格率がグッと上がります。特にベトナムの平成29年度の成績は、初参戦ながら93%と見事ですね。

 

 

 

EPA外国人材受入の展望

 

日本語学校

EPA制度の問題点

データを見る限り、EPA制度は順調に推移しているように思われますが、実際にEPAや技能実習制度を活用して、外国人の介護人材を受け入れている某企業の担当者によると、EPAや技能実習は以下の理由から盛り上がっていないとのことです。

・日本語のハードルが高すぎる
・ある程度日本語をマスターしたら、現地の日本法人へ就職してしまう
・そもそも東南アジアには介護の文化がない(介護ニーズが発生するのは2050年頃です)
・韓国などのアジア先進国の給与条件が改善し、必ずしも日本での就労にこだわる理由がない

 

 

日本は就労先として魅力的か?

先ほど、EPAが盛り上がらない理由のひとつに、アジア先進国の給与水準が改善したと述べましたが、海外のデータベースを元に、アジア諸国の平均月給(手取額)を試算してみました。

 


単純比較でもすでにシンガポールや韓国の給与水準が高いことがわかりますが、これに物価の影響を加味すると、ブルネイやマレーシアなども日本のライバルとなる可能性があります。

ちなみに物価比較においては、各国のコーラとマックの価格ベースで試算しました。(政策的に課税しているケースもあるので、あえて2本立てで試算しています)

日本特有の長時間労働やサービス残業を加味すると、もはや日本はアジアの中において決して魅力的な就労環境とはいえないようです。日本人も含めて、「日本の働き方」を見直す時期にきているのでしょう。

END

関連記事

[affiliate_tag id="1632"]

この記事が気に入ったら
シェアしてくださいね~

Twitter で

-外国人労働者と働く, 外国人在留資格制度