業務改善で人材不足を乗り切る

設備投資に不可欠なファイナンスの考え方(DCF法)


設備投資の判断基準

 

高級ホテル

小売業や宿泊業、また病院業などの「装置産業」と呼ばれる業種においては、高額な設備投資が発生しますが、万が一設備投資の判断を誤ると、金額が大きいだけに経営に与える影響は深刻です。

しかし多くの企業においては、高額な設備投資を行う際に明確な判断基準を持っている訳ではありません。恐らく年間予算の範囲内かどうか確認し、複数の取引先から相見積もりを取って価格や性能を比較する程度ではないでしょうか?

実は設備投資にはきちんとした投資評価の方法があります。今回はその方法についてご紹介します。

 

 

 

 

設備投資のシュミレーション方法

 

 

MRI検査を受ける女性

MRI(核磁気共鳴画像法)装置について

ある医療機関がMRIの導入を検討しているという設定で、その設備投資が果たして採算に合うのかどうかをシュミレーションしてみます。

ちなみにMRIとは巨大なループ状の装置の中に身体を通過させ、体内の断層画像を撮影する装置です。

一見するとCTとよく似ていますが、CTが放射線を利用して透視画像を撮影するのに対してMRIは強力な磁力を照射します。放射線を使わないので被ばくによる侵襲が無いのが特徴です。

MRIの磁力が大きくなるにつれて、撮影画像の鮮明度が増してゆきますが、この磁力の大きさをT(テスラ)という単位で表します。だいたい1Tあたり1億円というのがMRI装置の相場です。

 

 

MRIの調達条件

1.5TのMRIを1台購入します。

購入資金は金融機関より1億5千万円の融資を受けることとし、借入利率は1.75%(年利)、返済は5年償却(元利均等償却)とします。

法定耐用年数(税務上の耐用年数)は6年、物理的な耐用年数(実際に稼働できる年数)は10年です。

MRI設備投資シュミレーション




 

医業収入の試算

もしこの医療機関がMRIを導入すると、どれくらいの医業収入(売上高)を上げられるのか試算してみます。なお診療報酬点数は平成30年度の診療報酬点数表を用い、2年ごとの診療報酬改定は考慮しないこととします。

 

MRI設備投資シュミレーション

 

 

医業費用の試算

続いて医業費用を試算します。MRIの運用に直接的にかかる費用は材料費、外注費、その他経費です。人件費についてはMRI専従職員というのはあまり無いので、次項にて別途見積もりました。

MRI設備投資シュミレーション




 

人件費について

MRI検査に係る人件費は、担当する医療職7名について、それぞれの業務のうちMRI撮影に関わるウエイト(配賦率)を、各自の総額人件費(法定福利費等含む)に乗じて算出しました。

医師A~Cについては外来診察や病棟の回診、手術やリハビリなどにも関わるために、MRI検査の関与は10%程度と考えています。また診療放射線技師や助手についてもCT操作を兼務するという前提で試算しています。

MRI設備投資シュミレーション

 

 

減価償却について

減価償却とは、医療機器などの固定資産の価値を、税務上の法定耐用年数に基づいて毎年少しずつ減価することをいいますが、減価償却の概念がイマイチ解りずらいという方は少なくありません。

会計上は新たに固定資産(10万円以上)を取得すると固定資産台帳に資産価額(帳簿価額)を記帳しますが、1億5千万円のMRIを新品で購入し、10年間使用した後も帳簿価額が新品と同じ…というのはちょっとおかしいですよね。

そこで経年劣化による損耗分として、毎年一定額を1億5千万円から減価し、寿命になった時点で資産価額をゼロにしましょう、というのが減価償却の考え方です。

物理的な製品寿命についてはメーカーによってまちまちなので、税法によって固定資産ごとに減価償却上の寿命年数=「法定耐用年数」が決められています。

減価償却のイメージ

医療機器の法定耐用年数は6年なので、MRIの取得価額1億5千万円を6年で割った2千5百万円を毎年減価してゆき、丸6年経過した時点で帳簿価額をゼロにします。

ちなみに2千5百万円をどうやって資産価額から減価するのかというと、「固定資産2千5百万円」→「減価償却費2千5百万円」に振り替えます。つまり資産が費用に変わって消えていった…ということです。

通常は費用が発生すると、その支払いのために現金預金(資産)が減りますが、減価償却では現金預金の代わりに固定資産が減ります。




 

 

損益シュミレーション

これらの医業収入と医業費用でもって損益シュミレーションを行うと、以下の結果になりました。

減価償却費と借入金の支払利息を計上しても、初年度から黒字になります。そして10年分の医業収益を合計すると1億5千万円強の利益が発生するので、1億5千万円の投資は収支トントンであるといえます。

MRI設備投資シュミレーション

 

 

キャッシュフローのシュミレーション

念のためにキャッシュフローの視点からもシュミレーションしてみましょう。昔から「勘定合って銭足らず」というように、黒字か赤字かということと、実際のお金の出入りは別問題だからです。

MRI設備投資シュミレーション

 

医業収入はそのまま入金されるので損益計算書と同額です。また医業費用のうち、材料費、人件費、外注費、電気代、借入金利息の額は、そのまま取引先や職員に支払われます。

減価償却費はMRIの帳簿価格を減らすだけなので支払いは発生しませんが、その代わり1億5千万円の借金の元金返済分として、5年間にわたって毎年3千万円ずつの支払いが発生します。

資金収支計算書においても、1億5千万円の投資に対し、10年間で1億5千万円強のキャッシュが残ることになるので、やはりこの設備投資は問題ないように思えます。

 

 

 

設備投資シュミレーションの落とし穴

 

MRIと診療放射線技師

金利と時間の関係

損益上も資金収支上も、1億5千万円の投資に対して、10年間で1億5千万円回収できますから、投資判断としては何ら問題ないように思えます。しかし実はここにひとつ落とし穴があるのです。

それは長期間に渡ってお金を運用する場合は、金利のことも考えねばならないということです。

 

 

現在価値に換算して比較する

例えば現在自分の手元にある100万円を年利1.75%で運用すると、10年後には100万円×(1+0.0175)^10≒119万円になります。(これを「将来価値」といいます)

一方、10年後の100万円を年利1.75%で現在の価値に換算すると、100万円÷(1+0.0175)^10≒84万円になってしまいます。(こちらは「現在価値」といいます)

このように現在手元にある100万円と、10年後に受け取ることができる100万円の価値は同額ではありません。つまりMRIに話を戻すと、設備投資の1億5千万円と、10年間で回収できる1億5千万円の価値はトントンではないということです。

 

 

DCF法による投資評価

よって実際の設備投資の採算性をシュミレーションする場合には、損益ではなく、毎年の資金収支の残高を現在価値に換算した上で、投資額と回収額を比較しなければなりません。これを「DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法」といいます。

MRI設備投資シュミレーション

 

前述の「資金収支シュミレーション」のキャッシュ残高(表のFCF欄)を金利1.75%で現在価値に換算してみると、10年トータルで1億3千万円強のキャッシュしか残らない(表のPV欄)ということになります。つまりこの設備投資は赤字であると判断できます。




 

 

将来価値から逆算して検査目標を設定する

もっとも実際の病院経営においてはMRI検査は入院や手術などと密接に連携しているので、MRI単体の収支でもってこの設備投資の是非を判断するのは早計です。そこでMRI導入による入院や手術収益への影響を調査する必要があります。

また地域の開業医との連携を強化することで、もし一日平均で4.36件のMRI検査を上乗せすることができれば、10年間で1億7千万円強のキャッシュを稼ぐことができます。

MRI設備投資シュミレーション

 

一般的には高額な設備投資というものは、予算計画や相見積もりなどのコスト面での検証で終わってしまうことが多いのですが、DCF法を用いることで金利と時間軸を加味したより現実的なシュミレーションを行うことができます。

またシュミレーション結果から逆算して、設備投資を行うための稼働目標を導きだすこともできますので、設備投資のみならず事業計画を立案する際にも活用してみてはいかがでしょうか?

END

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