外国人技能実習制度の概要
新在留資格創設にむけて
現在、日本では労働力不足を補うために外国人材の活用が期待されています。
そしていよいよ今年4月から新しい在留資格「特定技能」が施行されましたが、今回は従来の外国人技能実習制度についてポイントをざっくりとおさらいしておきたいと思います。
外国人技能実習制度とは?
制度の目的
この制度の目的は、「日本独自の技能や知識を開発途上国へ実習制度を通して伝え、開発途上国の人材育成に寄与することで、経済発展を支援する」ことです。
これまでの経緯
1960年代に海外の現地法人において行われていた、現地採用社員を日本へ連れてきて、技能研修を行う制度に政府が目をつけ、これを国の事業として1993年に制度化されました。
法令
外国人技能実習制度には「技能実習法」という法律があり、技能実習の適正な実施と、外国人実習生の保護のために、様々なルールが設けられています。尚、現行法は2017年11月に改正され、「新外国人技能実習制度」として再スタートしました。
受入対象となる職種
第一号技能実習
第二号技能実習
・漁業(漁船漁業、養殖業)
・建設業(土木、建築、設備、内装、建具制作)
・食品製造業(農水畜産食品の加工、缶詰製造、パンや総菜などの製造)
・繊維、衣服製造業(紡績・織布・染色作業、衣類・自動車シートの縫製)
・機械、金属加工業(プレス加工、板金・めっき、電気・電子機器の組み立て)
・その他(介護、リネンサプライ、ビルクリーニング、印刷・製本他)
第三号技能実習
・実習生の技能検定合格率
・技能実習指導員等の講習受講歴
・技能実習生の賃金待遇
・労基法等の法令違反の状況
・実習生の相談&支援体制
・地域社会との共生支援
・実習の監査体制
・実習生の技能検定合格率
・労基法等の法令違反の状況
・実習生の相談&支援体制
・地域社会との共生支援
実習期間と在留資格
「技能実習期間」と「在留資格」は、目的や習熟度に応じて1~5年の間で3段階に分かれており、それに応じた在留資格が与えられます。
・入国2・3年目(〃習熟)→ 〃 「技能実習第二号」
・入国4・5年目(〃熟達)→ 〃 「技能実習第三号」
外国人技能実習制度の運用スキーム
技能実習生の受入方式
企業単独型
日本企業が海外の現地法人や取引先から直接外国人職員を受け入れる方式ですが、実際は企業単独型は極めて少数派で、技能実習生のうち3.6%にすぎません。なお、この方式での在留資格は技能実習第1~3号の「イ」となります。
(JITCOホームページより転載)
団体監理型
商工会議所等の監理団体が外国人技能実習生を受け入れ、加盟企業に対して実習生を斡旋するもので、現在、日本で行われている技能実習のほとんどがこの方式です。団体監理型の在留資格は技能実習第1~3号の「ロ」となります。
(JITCOホームページより転載)
技能実習生の入国から帰国まで
外国人技能実習生が入国すると、「技能実習第一号」の在留資格を得て、基礎級(初級)から技能実習をスタートします。
そして段階に応じて「技能検定試験」と「技能実習評価試験」を受け、基礎級(初級)→3級(専門級)→2級(上級)へとステップアップしてゆくことになります。
(JITCOホームページより転載)
なお技能検定試験は「職業能力開発協会」が行い、技能実習評価試験は(一社)全国農業会議所や(一社)シルバーサービス振興会などの、受入先の属する業界団体が行います。
技能実習生の受入可能人数
外国人技能実習生の受入人数は、受入方式によって、それぞれ人数枠が定められています。
企業単独型
(JITCOホームページより転載)
団体監理型
(JITCOホームページより転載)
主務官庁と運営団体
外国人技能実習制度に関わる省庁は法務省、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省と多岐にわたりますが、主務官庁は厚生労働省になります。
外国人技能実習制度運用の実務を担っているのが「国際研修協力機構(JITCO=ジツコ)」で、外国人技能実習生の窓口となっている機関が、「外国人技能実習機構(OTIT=オーティット)」になります。
(JITCOホームページより転載)
数字でみる外国人技能実習の現状
外国人技能実習生の推移
2010年にはおよそ10万人だった外国人技能実習生は、わずか10年足らずで2.8倍の28万人強にまで増加しています。
内訳をみると、団体監理型の第1号と第2号が圧倒的に多いですが、本来であれば2015年頃から増えてくるはずの第3号は2018年にわずかに存在する程度です。
技能実習生の出身国
外国人技能実習生の出身地域はアジア圏に集中しています。南米やアフリカからの外国人技能実習生も若干数存在しますが、99%以上がアジア圏です。
その内訳は、1位がベトナムで実習生の約半数を占めています。次いで中国、フィリピン、インドネシア、そしてタイやミャンマーなどのその他東南アジア諸国が続きます。
在留外国人に占める技能実習生の割合
日本に在留している外国人のうち、技能実習生の在留資格は12.2%です。
技能実習生の受入先(都道府県)
2016年度の統計データを元に、都道府県別の外国人技能実習生の受入先ランキングを作成しました。上位10位には一次産業と二次産業を基幹産業とする地域が集中しています。
技能実習制度をめぐる問題
失踪する技能実習生
外国人技能実習生の失踪事件が相次いでいることは、連日ニュースで報道されていてご存知の方も多いと思います。JITCOによると、第2号実習生だけで毎年およそ3,000人以上が失踪しています。
尚、1号実習生の失踪については、監理団体や実習実施機関がJITCOに報告するルールがないため、JITCOでは「把握していない」との事ですが、実際には1号を含めると年間で6千人以上の失踪者がいると指摘する調査報告もあります。
また統計データのところで「第3号がほとんどいない」と述べましたが、実習生の失踪が原因である可能性もあります。
技能実習法違反の実態
なぜ外国人技能実習生の失踪者が続出するのでしょうか?
厚生労働省の外国人技能実習制度に関するホームページに、興味深いトピックがあったのでご紹介しておきます。
不当労働行為
今年1月に、雇用先の会社に不当解雇された21名のベトナム人技能実習生が、札幌地域労組に加入し、解雇撤回を求める団体交渉を行いました。
ところが会社が実習生達に労組からの脱退を強要したために、札幌地域労組がその会社に対して、不当労働行為として損害賠償請求訴訟を起こしました。この事件については別の記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
外国人技能実習制度の実態
外国人技能実習制度は日本から開発途上国への技能移転というタテマエをとっていますが、その実態は国内3K産業のための外国人「低賃金」労働者の有期派遣事業です。
しかし外務省によるASEAN諸国への対日世論調査によると、日本語に興味のある人は全体の61%ですが、その目的は「日本への観光旅行のため」が60%で、日本への就労目的で日本語を学びたいと考える人はわずか35%にすぎません。
すでに東南アジア諸国の大部分は、多くの日本人がイメージしているような発展途上の貧しい国ではありません。また外国人労働者にとっては、日本は決して魅力的な就労先ではありません。
それは外国人技能実習制度にみられるような詭弁や、日本特有の長時間&低賃金労働が、多くの東南アジア諸国の労働者に敬遠されはじめてきたからです。
我々日本人はそろそろこの事実を謙虚に受け止め、日本優位のおごりを捨てる時期にきています。
END
[affiliate_tag id="1631"]