外国人技能実習制度(旧制度)のおさらい
2017年11月に「技能実習法」が改正になり、新たに介護職が技能実習制度に加わりました。そこで今回は新制度は旧制度と比べて何が変わったのか解説します。
その前に旧制度について簡単におさらいしておきましょう。
技能実習制度の目的
技能実習制度とは、日本の技能を開発途上国の研修生に伝え、ひとづくりを通して開発途上国の経済発展を支援するために創設されました。
実習制度の対象職種
主な対象職種には、農業、漁業、建設業、食品製造業、繊維・衣服製造業、機械・金属加工業、そしてその他の職種として介護やビルクリーニングなどが指定されています。
実習期間と在留資格
実習期間は実習目的と習熟度に応じて3段階に分かれており、それぞれに応じた在留資格が与えられます。
・入国2・3年目(〃習熟)→ 〃 「技能実習第二号」
・入国4・5年目(〃熟達)→ 〃 「技能実習第三号」
外国人実習生の受入方法
日本企業が海外の現地法人や取引先から直接実習生を雇用する方法(企業単独型)と、商工会議所などが監理団体となり、加盟企業へ実習生を斡旋する方法(団体監理型)があります。
新制度(介護技能実習)の変更点
制度改正の基本的考え
制度改正に伴い新たに介護職が加わりましたが、介護職特有の業務内容に鑑みて、制度設計の際に以下の3要件を満たすものとしました。
2、 外国人の処遇を日本人と同様に扱いつつ、日本人労働者の処遇が損なわれないようにすること
3、 介護サービスの質を担保するとともに、利用者の不安を招かないようにすること
旧制度との主なちがい
受入要件の追加
日本語能力
「第一号技能実習生」になるには、日本語能力試験の「N4レベル」、そして「第二号技能実習生」は同じく「N3レベル」に合格するか、同等の日本語能力の証明が必須となりました。
ちなみに「日本語能力試験と同等の日本語能力」とは、「J.TEST実用日本語検定」もしくは「日本語NAT-TEST」という試験に合格していることをいいます。
実務経験
団体監理型の場合、第一号技能実習に従事するためには、「海外の介護施設での実務経験」、もしくは「海外の介護士、看護師等の資格」が必要となりました。
入国後講習科目の追加
日本語講習
従来の技能実習では「入国後講習」として、今後の技能実習についての簡単なオリエンテーションを行っていましたが、介護技能実習については、トータルで240時間の日本語講習の受講が義務付けられました。
(JITCOホームページより転載)
介護導入講習
日本語講習とあわせて、「介護の基礎知識に関する講習」を42時間分受講しなければなりません。
(JITCOホームページより転載)
実習生の受入可能人数
実習生の受入可能人数については、企業単独型も団体監理型もトータルでは変わりませんが、その内訳がより細かく設定されました。(表は団体監理型のもの)
この黄色の部分が介護技能実習で新たに細分化された規制枠です(従来の技能実習制度では赤枠部分がひとくくりになっています)。
介護指導員の人員配置
従来の技能実習では実習指導員の人数についてのルールはありませんでした。しかし介護技能実習においては、実習生5名に対して介護福祉士もしくは看護師資格者を1名以上配置することが義務化されました。
制度改正点のまとめ
改定点を整理すると以下のとおりです。
(JITCOホームページより一部加筆して転載)
EPA介護士受入制度との違い
介護職の外国人材受入制度については、「EPA(経済連携協定)による外国人材受入制度」もありますので、EPAと介護技能実習制度との違いを簡潔に整理しておきます。
制度の目的
介護技能実習制度はあくまでも日本の介護技術を母国へ伝えることで、EPA介護士受入制度は日本での就労が目的となります。
介護技能実習制度 | 日本で介護技能をマスターし、その技能を母国へ持ち帰る |
EPA介護士受入制度 | 日本の介護福祉士の国家資格を取得し、日本で就労する |
在留資格と期間
技能実習制度とEPA介護士受入制度は、従事する業務内容は一緒ですが、在留資格の種類が異なります。
介護技能実習制度 | 「技能実習」資格で合計5年間(第一号1年+第二号&三号は各2年) |
EPA介護士受入制度 | 「特定活動」資格で原則4年間(特例で1年間の延長が可能)、国家資格取得後は長期就労可能 |
介護技能実習の不都合な真実
目的との矛盾
なぜ実務経験が必要なのか?
日本の介護技能を海外移転するための技能実習であるはずが、受入の時点で実務経験を要求すること自体、制度の趣旨と矛盾しています。
介護技能が必要なのはどこの国か?
そもそも日本が受入を期待している東南アジア諸国の多くが高齢社会になるのは30年以上先の話ですが、それらの国々になぜ今、介護技能の移転が必要なのでしょうか?
むしろ喫緊の課題として高齢社会対策が必要なのは、韓国、シンガポール、中国などですが、これらの国はすでに「アジア先進国」であって開発途上国ではありません。
日本語能力のハードル
某新聞によると、一昨年の11月に介護技能実習制度がスタートして以来、一年間に来日した実習生はわずか247名にとどまっているそうです。
そして制度がうまく機能していない最大の要因が日本語能力のハードルで、技能実習第二号の要件である「日本語能力N3」に不合格だった時の帰国リスクを懸念して、各国が人材の送り出しに躊躇しているようです。
今年4月から新在留資格である「特定技能1号・2号」制度が施行されますが、介護職にいたっては相変わらず日本語能力の要件がネックとなります。
日本語は言語人口の99%以上が日本人という、国際的に汎用性の低いマイナー言語です。
外国人実習生からすれば、苦労して日本語をマスターしても数年で母国に帰されるのであれば、無理に日本で実習したいとは思わないでしょう。
技能実習制度の実態
介護に限らず、日本の外国人技能実習制度は「開発途上国への技術移転・人材育成」という名目で行われている、事実上の外国人有期派遣事業であることは、すでに公然の事実となっています。
また技能実習といいつつ、3K産業の単純作業に従事させ、違法な低賃金・長時間労働を強要し、それを国家ぐるみで黙認していることに対し、国連などから「重大な人権侵害であり、制度を廃止するよう」に勧告を受けています。
グローバル化といいつつ、近隣諸国に対して戦前の強制徴用のようなことをしているようでは日本の未来は危ういでしょう。ましてや日本が国策として掲げているインバウンド誘引強化の得意先もまた、東南アジア諸国なのですから。
END
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