人事部の視点 人材育成・開発

これからの人材教育のあり方について考察した


まずは実学から始める

実学を軽視しない

ビジネス理論を実学で学ぶ

実学とは実用性を重視する学問のことであり、会社組織においては実務の知識やスキルを学ぶことを意味します。

説によっては実学と理論を対義とするものもありますが、恐らくそれは「理論=学術」という認識なのかもしれません。

当然ながら実学にも理論は必要なので、ここでは実務のための理論的知識と実践的技能を総称して実学という言い方をさせて頂きたいと思います。

 

業績の伸びている企業は実学を軽視しない

さて、多くの日本の職場の研修を見ていて感じるのが、きちんと業績を上げている会社ほど実学を重視し、一方でスローガンばかり掲げているような会社では、精神論的な研修がはびこっている傾向が強いということです。

 

精神論は百害あって一利なし

精神論研修がダメな理由

ひとつは、精神論は問題解決の科学的アプローチを妨げ、職場における建設的な議論を封殺し、生産的な活動を阻害してしまう点です。

たとえば精神論好きの上司には「気合と根性があれば、1+1は3にでも4にでもなる」といって部下を煽って潰してしまう人がいます。

しかし物理的に1+1は2にしかなりません。

 

気合根性は具体的なプロセスで発揮せよ

もし3にしたいのであれば、足りない1を自前で製造するのか、取引先から購入するのか、もしくはリースで調達するのか等々、現実的な手段を検討すべきです。

そして手段の実行において上司を説得したり、関係者の協力を取り付けたり、また取引先と交渉を行ったりすることに気合と根性を発揮すればよいのであって、それらのハウツーについての教育を行った方が組織にとってよほど生産的ではないかと思います。

 

思考力はボキャブラリの量に比例する

精神論は組織の思考停止を招く

精神論は社員の思考を停止させ、組織全体を集団愚考に陥らせるリスクがあります。

集団愚考とは「みんながそういうから」「自分だけ反対意見を述べたら浮いてしまいそうだから」といって思考や議論を放棄することです。

集団愚考に陥る原因には日本の職場特有の同調圧力が強く作用することもありますが、やはり実学の知識が乏しいことも大きいと考えます。

 

実学でもってボキャブラリを充実させる

人類の知能は言語を手に入れた時から急速に進化しました。

また夫婦の会話の質が高い家庭の子は、幼少期から豊富なボキャブラリを身につけることで、そうでない家庭の子に比べると思考力が発達する傾向があるという調査結果もあります。

しかし精神論のはびこる職場では健全な議論に乏しいため、社員の成長の機会を奪ってしまう恐れがあります。

経験則的にいっても「ウチの社員はイマイチ・・・」などと嘆いている経営者ほどマインド研修に傾倒し、社員に対する実学教育を行っていないように思えます。

自社の社員が育たないのはその社員の性根が腐っているのではなく、仕事をする上で基本的なことを教えられてこなかっただけの話ではないでしょうか。

 

効果的な人材育成プログラムのつくりかた

多様化の時代だからこそ理論を学ぶ

大手スーパーAEONの社員教育プログラム

流通小売業国内最大手のAEONの社員教育プログラムは、新人から課長級までを対象に、階層に応じた52週におよぶ教育訓練コースの受講を義務づけています。

これらのコースでは週ごとに学習課題が設定されており、社員各々がOJTやOFF-JTを通じて教育訓練を受け、週の最終日に上司の確認テストをクリアすると次週のステップに進むことができるようになっています。

これをAEONの全国の店舗で統一運用しているのですから、それにかかる労力やコストは相当なものではないかと思います。

 

AEONが社員教育システムを重視する理由

ではなぜAEONがこれほどまでに人材教育に力を入れているかというと、そもそもAEONの前身であるJUSCOとは、Japan United Stores Company(日本小売店連合会社)という意味であり、全国各地のスーパーが合併してできた多国籍軍だからです。

多国籍軍がゆえに、個々の社員がこれまで学んできた仕事のやり方がバラバラなので、そのままの状態では現場で無用なコンフリクトやエラーが発生してしまい、日本全国への店舗拡大などままなりません。

そこでAEONグループの急速なドミナント戦略を実現するために、これら異なる常識を持つ社員をいったん初期化し、AEON式の行動規範を高速インストールしてから、最前線へどんどん人材を投入できるような短期集中型の教育プログラムの確立が必須だったのです。

 

上から下に押し付ける研修は時代にそぐわない

パターナリズムはこれからの時代にそぐわない

今後はどのような職場においても人材の多様化が進んでゆくことは間違いありません。

人口減少と経済環境の不確実化も進むことで、人材の確保も難しくなりますから、従来のような「嫌なら辞めろ」的な一方通行の社員教育では社員が定着せず、会社のマンパワーを大きく毀損してしまうでしょう。

よって経営者がパターナリズム的に上から目線でもって従業員にあるべき教育を押し付けるのではなく、社員と共に生産性改善や組織活性化などの教育プログラムを構築してゆく必要があるのではないでしょうか。

 

まずできるところから教育プログラムを作ってみる

先のAEONの社員教育プログラムは、AEONグループの膨大な資金力と豊富なマンパワーによって高度かつ大規模に運用されていましたが、多くの中小企業にはAEONのような圧倒的なリソースはありません。

しかしお金をかけられない代わりに、経営規模的には小回りが利きますので、時代や経営環境の変化に合わせて柔軟に社員教育プログラムを方向転換することが容易ではないかと思います。

日本のカイゼン活動の草分け的存在である東澤文治先生はかつて「改革は莫大な投資と労力が必要なので失敗は許されないが、カイゼンはお金を使わずに知恵を出すことなので、誰でも気軽に参加できるし、失敗しても何度でもやり直しが効く」と仰っていました。

中小企業における人材育成もそのくらいの気軽な気持ちでもって、社員と共に作り上げてゆくような考え方が必要でしょう。

 

暗黙知を形式知化して共有する

さて、実学的な社員教育プログラムの設計方法ですが、例えばマーケティングや生産管理などの一般的な理論は社外のセミナーなどのOFF-JTでもって、そして社内の実務についてはOJTの教育プログラムに落とし込み、経験年数や職責に応じて段階的にマスターしていけるように体系化するとよいと考えます。

この時、OJTの教育プログラムの策定にあたっては、実務担当者にも協力してもらって、現場に転がっている「暗黙知」を拾い集めて「形式知」にデータ変換し、全社的なノウハウとして共有できるような仕組みを、社員教育プログラムの開発を通じて実現することができれば、現場の生産性は飛躍的に改善するでしょう。

「暗黙知」とは長年の経験や匠の技といった、その人固有の知識やノウハウのことをいい、「形式知」はマニュアルや解説動画など、言動やビジュアルでもって他者と共有できる状態になった知識やノウハウなどの情報をいいます。

そして暗黙知のような属人化した知恵を、マニュアルなどに落とし込んで全社的に共有できるようにして、活用してゆこうという考え方がナレッジ・マネジメントです。

 

理論と実践のバランスよく取り入れる

筆者がかつて在籍した医療経営士の勉強会では「理論と実践」というスローガンのもとに、会員が定期的に勉強会を開いて互いに切磋琢磨していたものでした。

これは病院経営に携わる事務方は、医療法や診療報酬制度などの理論的な勉強は当然のこととして、それらの知識を現場で活かしてナンボである、という協会の理念によります。

確かに事務方は医師や薬剤師などの国家資格者と違って医療ライセンスは持っていませんが、そえゆえに専門の壁に囚われず、全体最適の視点でもって、部門横断的に院内を縦横無尽に動き回り、病院経営の質改善に貢献することができます。

筆者についてはファシリテーション手法を学び、医療職を巻き込んで色々な取り組みを牽引することで実践力を研鑽してきたつもりですが、例えば一般的な企業においても、問題解決のフレームワークをテーマにして社内ワークショップを開くとか、それぞれの職場の抱える事情に応じ、適切なトレーニングを取り入れ、まず管理職が率先して実務の現場で実践してゆけばよいのではないでしょうか。

 

人材育成を継続させる仕組み

人材教育プログラムを構築できたら、人事評価と処遇(昇進や昇給)制度なども併せて整備しておくことで、永続的に人材育成のサイクルを回してゆくことができます。

評価の基準が明確でなければ、人材育成の方向性が定まりませんし、育成の成果についての検証もできません。

また評価に対して役職や報酬でもってきちんと報いてあげなければ、特にオッサン世代の「やりがい搾取」にウンザリしている若手社員のモチベーションは絶対に上がりません。

そして教育、評価、処遇の3つの基盤となっているのは、自社の経営理念であり、行動規範です。

経営理念とはその会社が社会で果たすべき使命であり、行動規範とは経営理念を実現するために、社員が持つべき考え方や採るべき行動のことですが、これらは教育、評価、処遇の3つの制度を束ねる扇の要のようなものであり、扇の羽がガタガタと緩むか、ビシッと引き締まるかは、経営理念すなわち経営者の哲学次第ではないでしょうか。


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