労働災害の基礎知識
労働災害と私傷病の違い
業務に起因してケガや病気に見舞われることを労働災害(通称;労災)といい、労災の治療にかかる費用は原則として全額が労災保険から支払われることになっています。
一方で、プライベートでの病気や怪我のことを私傷病(ししょうびょう)といい、私傷病によって医療機関を受診する場合は保険負担が7割で、残りの3割は自己負担となります(後期高齢者は1割負担)。
これらの保険制度は根本的に別物であるので、もし部下や自分が業務中にケガをしたり、もしくは病気になったりした場合には、受診先の医療機関で労災事故である旨を告げ、健康保険証は使用しないように注意が必要です。
労災指定病院とは?
労災によって医療機関を受診する場合、労災指定病院を受診することで、医療費の立て替え払いが不要になります。
労災指定病院は全国各地にあって、札幌市だけでも776病院が労災指定病院の施設認定を取得していますが(2019年10月届出時点)、万一の際に備えて、予め職場付近の労災指定病院を調べておくとよいでしょう。
なお労災指定病院でなくても労災に起因する傷病について受診することは可能ですが、いったん従業員本人が医療費を全額立替払いし、後日、労災保険から立替えた医療費の還付を受けることになるので注意が必要です。
職場で起こりうる主な労災
業務災害
労災は主に2種類あり、ひとつは従事している業務が原因でケガや病気に見舞われる業務災害と呼ばれるもので、労災といえば一般的に業務災害を指すことが多いです。
ただし仕事中であれば全て業務災害になる訳ではなく、例えば私用の行為により負傷した場合や故意に事故を発生させた場合などは対象外となります。
通勤災害
もうひとつが通勤災害と呼ばれるもので、通勤中に事故にあってケガをした場合も労災保険の適用対象となります。
なお通勤災害にも認定条件があり、例えば帰宅途中に自宅と反対側のパチンコ屋に立ち寄り、駐車場で他の客のクルマにひかれてしまったケースなどは通勤災害とは認められません。
通勤災害か否かの判断基準は、事故発生現場が通常の通勤ルートから大きく逸脱していないかどうか?という点がポイントであり、従業員が入社した時や転居した時に、会社に通勤ルートを届出させるのは、通勤手当の算定以外に通勤災害の認定をスムーズに行う目的もあります。
第三者行為災害
本来、労災とは労働に起因した災害なので当事者は労使双方になりますが、第三者行為災害とは自社とは全く関係のない第三者による災害(ケガや病気)のことであり、一般的に多いケースが通勤途中の交通事故です。
例えばマイカー通勤の途中に、知らない相手のクルマと衝突して大怪我を負ってしまった場合などが、第三者行為災害に該当します。
原則として自動車で公道を走る際には車検と併せて自賠責(自動車賠償責任保険)の加入が義務付けられており、通勤途中の第三者行為災害については自賠責保険もしくは労災保険のどちらから治療費を請求しても構いません。
もし労災が起こってしまったら!?
労災保険が適用されるもの
療養(補償)給付
業務災害や通勤災害による傷病の療養費を支給するものであり、労災指定病院を受診した場合は「療養(医療サービス)」そのものが給付されるので本人の立替払いはありません。
一方で労災指定病院以外を受診した場合は、いったん本人が療養費を全額立替払いし、労災保険に対して「療養の費用」の給付を請求することになります。
休業(補償)給付
業務災害もしくは通勤災害によって就労不能となり、給与の支払いを受けられない場合に、休業補償給付を申請することで、休業4日目から給付基礎日額(1日あたりの平均賃金)の60%程度がもらえる制度であり、さらに労働者の社会復帰促進のために、休業特別支給金として、給付基礎日額の20%が上乗せされます。
なお休業初日から3日目までは、会社が平均賃金の60%の休業補償を行わねばなりません(労働基準法第76条)
障害(補償)給付
業務災害または通勤災害によって障害等級第1級~7級の後遺障害が残った場合には給付基礎日額の313日分~131日分の障害年金が、そして第8級~14級の後遺障害が残った時には給付基礎日額の503日~56日分の障害一時金が支給されます。
さらに障害給付の内容と程度により、障害特別支給金(一時金)、障害特別年金、障害特別一時金が加算されます。
遺族(補償)給付
業務災害もしくは通勤災害により死亡した場合は、死亡した労働者に生計を維持されていた遺族の人数によって遺族年金が、また生計を維持されていない遺族しかいない場合には遺族一時金が支払われます。
なお障害年金同様に、遺族特別支給金(一時金)、遺族特別年金、遺族特別一時金がそれぞれの支給要件に応じて加算されます。
葬祭料・葬祭給付
業務災害もしくは通勤災害により死亡した場合、315,000円に給付基礎日額の30日分を加算した額が葬儀費用として遺族に支給されます。
傷病(補償)年金
業務災害もしくは通勤災害により傷病に見舞われ、1年6ヵ月経過しても傷病が治らず、もしくは後遺障害1~3等級に該当した場合、給付基礎日額の313日~245日分の傷病年金が支給されます。また障害の程度によって、傷病特別支給金もしくは傷病特別年金がもらえます。
介護(補償)給付
障害年金もしくは傷病年金の受給者のうち、精神・神経障害第1級~2級および胸腹部臓器に障害があり、現在介護サービスを受けている場合、介護サービス費用が支給されます(上限あり)。
二次健康診断給付
会社の定期健康診断において、血圧、血中脂質、血糖値、メタボ検査(腹囲&BMI)に異常所見があり、なおかつ脳血管疾患もしくは心臓疾患が無い場合、これらの改善に必要な特定保健指導を無料で受診できます。
労災保険の請求方法
業務災害の場合
労災保険によって支給される療養費は、医療機関の診療(検査、診断、手術、入院、創傷処置など)費用、お薬代、また通院費(原則として片道2km以上)などです。
労災指定病院であれば「療養の給付請求書(第5号様式)」を病院窓口に提出することで、療養費やお薬代を支払う必要がありませんが、労災指定病院以外を受診した場合は、いったん自分で医療費を立替払いし、「療養給付の費用請求書(第7号様式)」を会社の住所地を管轄する労働基準監督署へ提出して医療費全額の還付を受ける必要があります。
なお院外処方(病院内に自前の薬局を持たず、院外の調剤薬局などに病院からもらった処方箋を提示して薬をもらう)方式の病院では、5号様式、7号様式ともに病院とお薬をもらった調剤薬局の両方の分を作成しなければなりませんのでお忘れなく。
通勤災害の場合
通勤災害については「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を労災指定病院に提出するが、労災指定病院以外であれば「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」を会社の住所地を管轄する労働基準監督署に提出します。
なお労災保険の給付内容や申請手続きの詳細については、労災保険給付の概要をご確認願います。
労災保険料の計算方法
労災保険料の加入対象
労災保険は雇用保険と合わせて労働保険と呼ばれており、労働保険は正社員、パート・アルバイトなどの名称や雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇用している会社は加入が義務化されています。
そして雇用保険が週20時間以上の勤務でなおかつ長期的に雇用される者を加入条件としているのに対し、労災保険は勤務時間や雇用契約の長短に関わらず、全ての労働者が加入対象となります。
労災保険料の納付方法
雇用保険料が労使で一定の割合をそれぞれ負担しているのに対し、労災保険料は全額会社負担となっています。
また労災保険料は業種ごとに細かく決められており、最も高い料率は危険な坑内労働を伴う鉱業の8.8%であり、最も低い料率はオフィスワーク中心の金融・保険業の0.25%です。
労災保険料は従業員の賃金総額に業種ごとの保険料率を乗じて計算し、雇用保険料と合わせて毎年7月10日までに当年度の概算保険料を前納しますが、その際に前年度の確定保険料と概算保険料の差額を相殺して納付します。そしてこれを労働保険料の年度更新(確定申告)と呼んでいます。
中小事業主特別加入制度
労災保険は労働者のための保険ですが、従業員と一緒に現場に出る機会が多いため、労働者同様に労働災害のリスクの大きい一部の中小企業経営者についても、特別加入を認めています。
補償内容は労働者の場合とほほ同様で、一部制限があるものの、業務災害、通勤災害、障害補償、遺族補償などを受けることができますので、中小企業の事業者でまだ加入がお済みでなければ、この機会にぜひご検討されたら宜しいかと思います。