PDCAの実例と4つのヒント
某大型クリニックの事例
業務プロセス改善にはPDCAマネジメントサイクルによる進捗管理が不可欠ですが、今回はある大型クリニックの業務改善事例をベースに、PDCAを成功させるポイントについて解説します。
事例のクリニックは無床診療所ですが、医科診療ブースを23室、歯科ユニットを10台、2階吹き抜けの大きな待合ロビーに中央処置室やMRI室などを備え、医師を含めると常時80名が勤務する大型クリニックです。
一日の外来患者数は500名で、敷地内の400床のケアミックス病院(本院)との連携により、より高度な検査や緊急手術、さらに即時入院対応も可能となっていて、いわば法人グループの急性期医療の最前線基地の役割を担っています。
このクリニックでは以前から患者クレームが多く、その理由の主なものは診察待ち時間の長さでした。そしてそのクリニックの医事課長が、PDCAでもって業務プロセス改善に挑戦したという事例です。
PLAN 完璧な計画にこだわらない
このクリニックは毎朝8時に開館して診察受付を開始し、実際の診察は9時からのスタートです。そして17時に受付を締め切り、診察が終了したら閉館という流れです。
事務部門(1F)の体制は受付係4名、会計係2名、レセプト係4名の計10名です。
当時は完全分業制になっていて、開館時に診察受付の患者さんが受付カウンターに殺到し、カウンター前に長い行列ができていました。一方、会計の2名はカウンターで雑談に興じており、請求の4名は事務所にこもって暇そうにパソコンの画面を眺めていました。
そして診察が終わる頃になると今度は会計カウンターが混雑し始めます。会計カウンターで医療費を精算する前に、請求係が診療内容を金額に置き換える作業が発生しますので、事務所の中も大忙しです。
ところが受付係はさっさと昼休憩に入ってしまいますので、会計待ちの患者さんが並んでいるのにレジ3台のうち2台しか開設できません。(実際のところ開けられない1台は両替用の金庫と化していました。)
そこでこの医事課長さんは、受付係と会計係を一本化してフロント係とし、お昼休みは交代制でもって全員が公平に取得できるようにしました。また請求係からも患者さんの込み具合に応じて受付や会計の応援を出す体制にしました。
これによって朝の受付ピーク時と昼の会計ピーク時に合わせ、柔軟に配置人員を調整することができるようになるはずです。
ここで大事なのは計画の精度にこだわりすぎないということです。計画はあくまでも仮説の立案に過ぎません。Pに続くDCAのプロセスで計画の見直しを行い、施策の精度を向上すればよいのです。
DO 現場スタッフにしっかり動機付けを行う
受付係と会計係の一本化に伴い、2か月間でそれぞれの業務をお互いに教えあうことにしましたが、実はPDCAの中で最も難しく、最も根気が必要なのがDo(実行)のプロセスです。
そもそも人は他人によって自分の馴染んだやり方を変えられることを嫌うものです。打合せでは協力的だったのに、いざ実行となると、現場のベテラン担当者がなにかと「できない理由」をつけて立ちはだかることは日常茶飯事です。
これをトップダウンで強要しても、医事課長が異動した途端に、なし崩し的に元の非効率なやり方に戻ってしまうものです。
Doのプロセスでは現場担当者が自ら「変えたい」と望むように、現場担当者への動機付けをしっかり行うことが重要です。「できない理由」を根気よく丁寧に解消すること、そして小さなテーマから着手してなるべく早期んい具体的な成功事例を示し、現場担当者を納得させねばなりません。
この事例では、朝と昼のカウンター前の混雑が緩和されることで目に見えて患者クレームが減ったこと、そしてお昼休みが交代制になってスタッフ間の不公平感が解消されたことが大きな動機付けとなりました。
CHECK 人を責めずにやり方を攻める
取り組みが始まって1か月経過してから、成果について検証してみました。
目に見える部分では、患者さんから直接寄せられる苦情件数や、投書箱に投函される意見書の改善要望の件数が激減していました。また受付係と会計係の垣根が無くなったことで、スタッフ間の感情的な対立も無くなったという意見もありました。
一方で会計レジを操作するスタッフが増えたことで現金過不足が増えていました。
そこでレジ精算の仕組みとルールを整備し、レジの担当者が交代するごとに前任者がいったん現金残高を確認してから、次の担当者にレジを引き継ぐようにしました。
ここで大事なのは現金過不足に対してレジの担当者を責めないことです。業務のプロセスに何らかの不具合があるからエラーが発生するだけなのです。またカイゼン活動は従前のやり方を否定し、新しいやり方に変えてゆくことですが、アプローチを間違えると従前の担当者は自分のアラ捜しをされているように受け止めてしまうものです。前向きなはずのカイゼン活動が、戦犯捜しになってはいけません。「人を責めずにやり方を攻める」…これこそ業務プロセスカイゼンの本質です。
ACTION 失敗したら気軽にやり直せばいい
新たにレジ精算のプロセスが加わったことで、若干レジの稼働率は落ちたものの、特に患者さんからの苦情は寄せられませんでした。そして次月の検証の時までには現金過不足はほとんど発生しなくなっていました。
もし仮に上手くいかなければ、もう一度検証してやり直せばいいのです。そもそも改善と改革は違います。改革には高額な予算と大きな労力が伴うものですが、改善はお金をかけずに知恵を出し合い、メンバー全員がそれぞれ身近なことから取り組む活動です。手軽に始められる分、失敗しても損失は少ないし、何度でも再チャレンジできるのが業務プロセス改善なのです。
検証の方法
PDCAのC(検証)の方法には「定量評価」と「定性評価」の2つがあります。
「定量評価」とは、売上高や利益率、苦情件数やエラー率などの数値で良し悪しを評価する方法です。
そして「定性評価」とは数値で単純に良し悪しを検証できないもの…たとえば「イメージ」「心象」「雰囲気」などを、患者満足度アンケートなどを利用して評価する方法です。
定量評価と定性評価をどう使い分けるかということについては、業務プロセス改善の目的によります。目的に応じて評価方法を使い分けたり、評価ウエイトをつけたりするとよいでしょう。
END
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