人事部の視点 人材育成・開発

なぜマインド研修では社員の行動は変わらないのか?


日本の多くの企業が勘違いしている社員研修の方法

日本の職場研修は精神論が多すぎる

先日、とある企業の管理職研修に参加する機会がありました。

管理職向けの4時間のロングラン研修で、テーマはリーダーシップについてでしたが、例えば会社から不合理な処遇をされても前向きに受け止めろとか、相手に対するモノの言い方に気をつけろとか、いまひとつポイントがよく定まらない内容だったように感じました。

この研修の趣旨は管理職のマネジメントスキルの底上げのはずでしたが、日本の多くの職場では社員研修といえば実学よりもむしろ仕事に対する心構えなど、精神論な内容ものが非常に好まれるようです。

 

一歩間違えばやりがい搾取のブラック研修

日本の職場において精神論的な研修がはびこっているのは、講師側にとっては経営理論やマネジメントの実例などの裏付けが不要なので、カリキュラムの展開が容易だということもありますが、いまだに労働者は会社に従属するものという旧い考え方から脱却できていない経営者が多いせいもあると思います。

例えば件の研修では、前述したように「会社から不合理な扱いをされても、それをプラスに受け止めて頑張ることが正しい考え方」といった項目がありましたが、これなど一歩間違えばただの「やりがい搾取」のブラック研修ですよね。

たしかに自分の周りに起こる事象を前向きに受け止める習慣のある人は概して充実した人生を送れるものですが、管理職研修でこういう教育を行うことに対してはちょっと違和感がありました。

 

研修の目的は会社に従順で扱いやすい人材に洗脳すること

一方でマインド研修には、従業員を会社にとって従順で扱いやすいように洗脳するという意図があることは否めません。

これは会社が特定の営利目的をもって組織され、そこで雇用される従業員はその目的を実現するために会社の求める行動規範に従って仕事をしてもらわなければなりませんから、ある意味では仕方のないことではあります。

よって会社が行う研修には、一般的なセオリーにプラスして、会社の意図に基づくなんらかのバイアスがかかっていることは認識しておいた方がよいでしょう。

ちなみに件の研修でば、講師が中途採用のある管理職に対し、他の受講者達の前で指導を行うことで、古参のプロパー社員の不満を解消するという別の狙いがあったようです。

 

精神論では人材は育たない

職場を悪くしようと思っている社員などいない

別の研修では、「コロナ禍で企業の業績が軒並み悪化して、史上空前の不景気が到来する、一方で会社には「人罪」と呼ばれる人達がいて会社のリソースを浪費している、さぁあなたは会社にとって貢献している人材と言えますか?」といったことを、講師が数時間かけて長々と説教していました。

この研修については、提示されたデータがいい加減で、ストーリーの展開もあまりにも荒唐無稽なものであったために、人事のプロとしては聴くに耐え難い内容でした。

ゆえに途中でさっさと離脱してしまったのですが、この研修の最悪だった点は、社員達の行動にどのような問題があったのか具体的な根拠や、その問題に対する解決策を一切示さずに、いわれのない罪状でもって社員達を断罪してしまったことです。

そもそも多くの日本の職場において、勤め先に迷惑をかけてやろうと思って働いている人など誰もいません。

会社の業績が上がらない、もしくは職場の生産性が改善しないといった問題の原因は、社員達の心の中にあるのではなく、社員に対してあるべき基本動作をきちんと教えていないからなのです。

 

社員研修の基本はまずビジネスの基礎知識から

なぜ社員が生産的に働いてくれないのでしょうか?

それは多くの社員が、会社がどうやって利益を生み出すのか、という原理原則を知らないからです。

たとえば原価管理を知らずに生産を行っても製品に付加価値は生まれませんし、マーケティングを知らずに根性だけで新規顧客開拓をしても、成約率を維持することは難しいでしょう。

またせっかく頑張って製品を生産し、不断の努力でもって販売できたとしても、コスト・コントロールの手法を知らなければ会社に利益が残りません。

さらに販売、生産、管理といった諸々の事業活動には、それぞれ守らなければならない法律が存在します。

たとえば顧客と新規に取引契約を結ぶためには商法や民法の契約に関する知識が不可欠ですし、また部下を管理監督する立場の役職者は、労働基準法や労働安全衛生法に精通していなければなりません。

そもそも資本主義社会では、会社は市場原理と法律の縛りの中で事業活動を営んでおり、その会社組織の中で働くサラリーマンは極めて行動の選択の幅が限られているものです。

そこをしっかりと教育しないで、「前向きな気持ちがあれば可能性は無限大」などと社員を焚きつけるから、多くの管理職が精神論に走り、現場を疲弊させ、人材が定着しないのではないでしょうか。

 

尊敬される管理職は人柄よりも引き出しの多さ

尊敬される管理職になるためには共感力と思いやりをもって部下と接すべしという話がありました。

たしかに部下との対話は大事です。

例えば人事評価手法のMBOは、「人は一方的に押し付けられたノルマには反発するが、自分が参画した目標であれば自発的に達成へ向けて行動する」という人間の心理を上手く活用したものです。

また現在はファシリテーション型リーダーの時代と言われて久しいです。

昨今の多様化し、複雑化したシビアなビジネス環境においては、ひとりの有能なリーダーが全知全能の神よろしくあらゆる事象に対してトップダウンでもって的確な意思決定をすることなど不可能です。

ゆえに対話でもってメンバーの知恵を上手に引き出して、チームとして適切な判断を導き出せるファシリテーション型リーダーが求められているのです。

しかし対話型リーダーシップは組織の中に一定の秩序が生まれ、メンバーが全社最適の視点でもって思考できるレベルに組織が成熟してからの話です。

その前段階では対話以前に「躾」が必要であり、そこで求められるリーダーの姿とは共感力や気遣いよりも、経営の原理原則に従い、チームをあるべき方向へ毅然とリードしてゆくパターナリズム型のリーダーです。

さらに未成熟な組織のリーダーに必須なのは、問題解決の引き出しの多さであり、それにはやはり管理職に対して基礎的なビジネスの知識を教え込むことが優先課題なのです。

いつもニコニコと部下の話だけは聞いてくれるのですが、それ以上は何も動いてくれない上司と、言い方はキツイものの、常に部下の仕事が滞らないようにどんな問題に対しても的確にフォローしてくれる上司とでは、どちらが部下から尊敬されるのかは言うまでもないでしょう。

 

社員教育に必要なのは実学と論理的思考力

仕事は理屈以外の何物でもない

精神論の好きな職場に共通していることは論理性の欠如であり、圧倒的な実学教育の不足です。

ボキャブラリーが乏しければ思考力が発達しないように、基礎的なビジネス知識がなければ社員の行動は変わりません。

基本的に日本人は素直で勤勉なのですから、どうやったら会社の利益を増やせるのか、もしくはなにをやったら会社にロスが生じるのか、またやってよいことと、してはいけないことはなにか、そういったことをきちんと教育すれば、おのずから社員の行動は変わるのではないでしょうか。

つまり基礎教育こそ生産性の上がらない組織に最も必要な研修なのであり、管理職や実務担当者など、それぞれの立場で職責を遂行してゆく中で、モチベーションが上がらないといった問題が生じたら、はじめてマインド系の研修を導入すべきなのではないかと思います。

 

JOB型雇用の拡大で研修の質が採用を左右する

これまで日本の多くの企業では、自社の社風に合いそうな人材を採用し、いろんな部署をローテートさせながら、協調性や組織貢献性などの人柄を重視して配属や昇進などを決めてきました。

これをメンバーシップ型雇用といいますが、この方法では結局のところ中途半端なスキルをもったアマチュア人材しか育たず、また同質性の強い閉鎖的な組織風土を醸成して、戦前の旧日本軍のように集団愚考に陥って意思決定を誤るリスクも高くなるため、すでに現在の多様化、複雑化したシビアな経営環境にはそぐわなくなってきています。

これからはその道のスペシャリストを専門的なポジションでもって採用し、処遇してゆくJOB型雇用が主流になってゆくと思われますが、職種ごとの専門色の強い組織は例えば医療機関のように「高度先進医療を追求し地域医療の質の向上に貢献する」などといった明確なミッションがなければマインド系の人材研修は難しくなってくるでしょう。

ゆえに日本の経営者はもっと哲学を持つ必要があるのですが、一方で哲学の無い薄っぺらな経営姿勢というものは社員教育に顕著に現れるため、JOB型雇用におけるリクルートの成否に研修カリキュラムの質も大きく影響するようになると予想しています。

 

理想は会社の発展を通じて自己実現するウインウインの関係

冒頭で、社員研修には従業員を自社にとって都合よくコントロールするためのマインドコントロール的な要素があると述べましたが、それはあくまでも従業員が会社に従属する一方的な支配関係が主流だった時代の話です。

今後、労働者は高度専門的なスキルをもつコア人材と、時間単位で労働力を切り売りするフロー人材に二極化してゆくと予想していますが、コア人材とは有能であるだけに諸刃の剣であるということを経営者はよく知っておくべきでしょう。

有能なコア人材に対して中途半端なマインドコントロールをしようとするとすぐに見破られて離脱されてしまいます。

コア人材が望むのは勤め先の発展を通じて自身の自己実現を図ってゆくパートナー的なウインウインの関係であり、一方的に酷使されるだけの職場にわざわざ長く勤めるようなことはよほどの事情でもない限りあり得ないからです。


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