企業が健康診断を実施する3つの理由

理由1)法律で義務付けされている
厚生労働省の調査によると、2019年の国内企業における定期健康診断の実施率は97.1%と高い水準となっています。
これは会社が従業員を雇う際には、従業員が安全かつ健康的に働けるように健康診断を実施したり、衛生的な職場環境に配慮したりすることが法令で義務付けられているからです。
理由2)政策的な医療費コントロール
少子高齢社会の急激な進行による医療財政の逼迫が社会問題となっていますが、特に団塊の世代が一斉に後期高齢者に到達する2025年に、日本の医療費がピークに達すると言われています(2025年問題)。
国は医療財政破綻を回避するために、日本人の死因トップ3である脳梗塞、心筋梗塞、がんなどの生活習慣病の予防医療を推進し、医療費支出を抑制する政策をとっていますが、食の欧米化などもあって、なかなか芳しい成果は上げられていません。
理由3)労働者の高齢化対策
高齢化の進む日本の労働者を活用してゆくために、日本健康会議が主体となって、従業員の健康管理に戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営優良法人」に認定する制度が普及しつつあります。
労働力不足の解消とホワイト企業のお墨付きの一石二鳥の効果を狙えますので、自社のCSR活動や競合との差別化戦略の一環として認定取得に取り組む企業が増えることが予想されるでしょう。
健康診断に関係する法令はどんなものがあるか?
労働安全衛生法
労働関係法令といえば、多くの人が「労働基準法」をイメージするのではないでしょうか?
「労働基準法」は会社が労働者を就労させる時に守らねばならないルールを定めたものですが、そのうち労働安全衛生に関する条項をスピンアウトさせたものが「労働安全衛生法」です。
健康診断に関するルールは、概ね「労働安全衛生法」および「労働安全衛生法施行規則」の中に規定されており、違反した企業に対する罰則も設けられていますので、事業者のみなさんは「たかが健康診断・・・」などと軽く考えるべきではありません。
労働契約法
いわゆるサラリーマンとは雇用契約でもって生計を立てる働き方ですが、大雑把に解説すると、その雇用契約を結ぶときのルールを定めたものが「労働契約法」です。
「労働契約法」では、企業は従業員が安全かつ衛生的な職場環境で、安心して就業できるように配慮しなければならないと定められており、これを「安全配慮義務」といいます。
最近は「安全配慮義務」には、メンタルヘルスへの「健康配慮義務」やハラスメント防止措置への「職場環境配慮義務」も含まれると解されています。
一般健康診断のしくみ
一般健康診断には5種類ある
多くの企業で定期的に実施されている健康診断です。
みなさんにもおなじみだと思いますが、一口に一般健康診断といっても、厳密には次の5種類があります。
- 新たに従業員を採用したときの健康診断
- 毎年1回定期的に全従業員に対して実施する健康診断
- 夜勤者など特定の業務に従事する人に対して実施する健康診断
- 海外に長期赴任する従業員に対して実施する健康診断
- 給食を作る仕事に従事する人に対して実施する健康診断
ここではオーソドックスな①と②についてざっくりと紹介しておきます。
雇入れ時健診
会社は従業員を採用したら、採用日から3ヶ月以内に、会社の費用負担でもって「雇入れ時の健康診断」を受診させなければなりません。
健診項目は「法定11項目(通称;法定健診)」といって、これが全ての一般健康診断に共通する基本メニューとなります。
- 既往歴および業務歴の調査(事前問診)
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査(診察)
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力検査(身体測定)
- 胸部エックス線検査(レントゲン撮影)
- 血圧測定(同左)
- 貧血検査(採血)
- 肝機能検査(同上)
- 血中脂質検査(同上)
- 血糖検査(同上)
- 尿検査(採尿)
- 心電図検査(採血)
なお新規採用者に対し、選考書類のひとつとして、採用日の直近3ヶ月以内に実施した健康診断結果票を提出させ、雇入時の健康診断に代えることができます(労働安全衛生規則第43条)。
定期健康診断と生活習慣病予防健診
毎年1回、全従業員に対して実施する健康診断で、前述の法定11項目プラスアルファの検査が一般的です
費用負担は原則として会社負担ですが、法定11項目以外のオプション検査については、誰が費用を負担するかはその会社の方針次第といったところでしょうか。
なお法律的な義務はありませんが、35歳以上の従業員に対しては法定11項目に付加検診をプラスした「生活習慣病予防健診」を受診させるケースがほとんどです。
付加検診とは生活習慣病に関係する肝機能や血液機能等の検査、さらに眼底検査や腹部エコーなどをプラスしたものです。
生活習慣病の予防は国の医療政策でもあるため、中小企業の多くが加入している協会けんぽでは受診費用の一部助成なども行っています。
なお「人間ドック」は高度先進検査機器を用いた一泊二日の精密検査で、主に都市部の大企業が福利厚生の一環として行っていますが、費用負担の点で、地方の中小企業ではまだまだ一般的とはいえません。
<健診と検診>
どちらも「けんしん」と呼びますが、「健診」は健康診断、「検診」は検査診断のことで、前者が予防医療的な意味合いの保険外サービスであるのに対し、後者は治療の一環として行う保険診療行為を意味します。
健康診断を受診した後はどうなるか?
有所見者へのフォロー
健康診断の結果、なんらかの異常が見られた人のことを有所見者といい、異常の程度の度合いによって、「要医療」、「要再検査」、「要精密検査」に区分されます。
稀に健診の結果、即時入院を要するような異常が見つかるケースがありますが、この場合は健診を行った医療機関から、ただちに本人宛に連絡があります。
一方で、「要○○」に対しては、企業側から有所見者になんらかのアクションを強制することはできません。あくまでも本人の任意でもって対応して頂くことになります。
安全配慮義務上の措置
会社は有所見者について産業医から意見を聴き、必要であれば有所見者の所属長と人事部および社内の安全衛生委員会などで協議を行い、当該従業員の配置転換や勤務時間の変更など、健康に配慮した措置を講じる義務があります。
所轄労働基準監督署への報告
通常、健康診断の結果票は、本人宛と会社宛に2部作成されます。
会社は本人控を各従業員に配布し、会社控を人事部門で保管することになりますが、従業員が50名以上の事業所については、事業所を管轄する労働基準監督署に対して定期健康診断の受診結果報告書を提出する義務があります。
記録の保存
会社は健康診断の結果を、健診実施日から5年間保存する義務があります。
個人情報やプライバシーの点から、会社が従業員の健康情報をどこまで把握すべきか議論の分かれるところですが、会社の安全配慮義務の観点から、健康情報管理規程を設けた上で、人事部門で厳重に管理する会社が多いようです。
健康診断を実施しないとどうなるか?
労働安全衛生法
定期健康診断を実施しない企業に対しては、労働安全衛生法違反によって50万円以下の罰金が科されます。
また従業員50人以上の事業所は、認定産業医資格をもつ医師と産業医契約を結ぶ義務があり、産業医契約を結ばなかった場合も50万円以下の罰金が科されます。
「ウチは大丈夫か?」と思った経営者の方は、一度、自社の各事業所の人員数をチェックしてみたほうがよいでしょう。
安全配慮義務違反
労働契約法に定める安全配慮義務に違反した場合は、労働関係法令の一般法である民法にもとづいて、会社側が不法行為責任、使用者責任、債務不履行責任に問われます。
もし裁判になった場合は、健康被害を受けた従業員に対して損害賠償を命じる判決が出される可能性が高く、また賠償額も年々高額化しているので、万一のリスクに備えてきちんと従業員の健康対策を見直しておきましょう。
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