大企業の就活は売り手市場感がない!?
戦後2番目に高い有効求人倍率
ここ数年、経済界では人材不足が叫ばれて久しいですが、一昨年頃からついに有効求人倍率は1.6倍を超え、現在に至るまで高止まりした状態が続いています。
厚生労働省「一般職業紹介状況(H30年分)」より転載
これは厚生労働省が毎月発表している「一般職業紹介状況」の有効求人倍率です。これを見ると平成21年度はリーマンショックに端を発する世界同時金融恐慌の影響で一時的に有効求人倍率が急落しますが、以後は急ピッチで上昇し続けています(左グラフ)
平成29年以後は有効求人倍率が1.62倍前後で高止まりしたまま推移しており、我が国の経済において深刻な人材不足が続いていることを表しています(右グラフ)
ちなみにバブル景気の時も新卒採用では「超売り手市場」と言われており、就活生が他社へ流れないように、内定時期には企業各社が就活生をディズニーランドへ招待したり、連日「焼肉接待」漬けにしたものです(これを当時は「拘束」といっていました)。
このバブル景気の超売り手市場の時ですら、有効求人倍率は1.40倍程度ですから、いかに現在の人材不足が深刻なのかおわかり頂けると思います。
依然と厳しい大企業の就活
ところが最近読んだある就活関連の記事によると、大企業を志向する就活生の間では、大企業の就活においては「売り手市場感が全く感じられない」とのこと。
空前の超売り手市場なのに「売り手市場感が無い」とはどういうことでしょうか?
実はこれは有効求人倍率の見方に原因があります。現在の有効求人倍率は確かに1.6倍と高水準ですが、企業規模別の内訳でみると、大企業が0.4倍、中小企業が2.8倍とおよそ7倍もの開きがあります。
有効求人倍率とは求職者1名あたりの求人企業数です。大企業の有効求人倍率が0.4倍ということは、求職者1名に対して求人が0.4社しかないという意味ですから、現在でも大企業では依然として「買い手市場」が続いているのです。
有効求人倍率の見方
有効求人倍率は全国一律ではない
都道府県別有効求人倍率
これは「RESAS(リーサス)」と呼ばれる経産省と内閣府が提供している「地域経済分析システム」から集計した全国都道府県別の有効求人倍率です。(有効求人倍率は2017年の8月時点)
筆者の住んでいる北海道を基準に、北海道より求人倍率が高い都府県をオレンジ色、同等もしくは低い県を青色でマークしました。
2017年(平成29年)時点で全国・全業種平均の有効求人倍率は1.6倍を超えていましたが、中でも東京都の1.78倍および中部や中国の各県が突出して高く、全国平均を大きく押し上げました。
一方の北海道は1.1倍で、辛うじて求人数が求職者数を超えた程度です。
【コラム】北海道から人材が流出する本当の原因
北海道では貴重な稼ぎ手である労働力人口の本州流出が深刻な問題となっており、道経連や道経済部が躍起になって「北海道で働こうキャンペーン」と称して地場企業や地域での生活の魅力をPRしています。
筆者は長年、札幌圏や地方圏の地場企業にて人事マネージャーとして色々な企業で働いた経験がありますが、多くの地場企業では官と地縁に依存した非効率な経営を行っているために収益性が低く、関東圏の企業に比べると人材投資が極めてチープです。
また道内では転職先の受け皿が少なく、人材の流動性が低いことを逆手にとって、企業コンプライアンスをなおざりにしている企業も目立ちます。これは労働者数あたりの労災発生件数および労災隠しの摘発数の多さからもよく判ります。
北海道から貴重な労働力が流出し、歯止めがかからない原因はまさにこの2点にあり、決して北海道の魅力や地場企業のPR不足などではありません。
北海道からの労働者人口の流出を食い止める唯一の手立ては、「おらが村」のPRなどではなく、外資系や本州企業の進出を積極的に受け入れて厳しい市場競争を誘導し、地場企業の新陳代謝を促進することです。
そして道内の地場企業は、上場企業の内部統制に準拠したガバナンス体制を構築すべく積極的にISOを導入し、企業コンプライアンスを徹底して経営の質を高め、本州勢や外資系とライトファイト(切磋琢磨)することです。
もちろんISOの導入には多額のコストがかかりますが、本来、人材が定着するようなガバナンス体制を構築し、維持してゆくためには相応のコストが必要なのです。
また道外勢との競合に敗れて淘汰される地場企業も現れる可能性があります。
しかしまともな競合に勝てない企業というものは、これまで地域の政官財が癒着して仲間内への利益誘導ばかり行い、消費者や従業員などのステークホルダーに対してきちんと企業責任を果たしてこなかった企業です。
このようなゾンビ企業を延命させたところで北海道の経済に未来はありません。むしろさっさと市場から退場してもらった方が世の中のためです。
業種別有効求人倍率
有効求人倍率が地域別に差があるように、業種別にも有効求人倍率の高低があります。
読者の皆さんはすでにニュースなどでご存知とは思いますが、建設、介護、ホテル業界では他の業種に比べて著しく人材が不足しており、また就労内容が厳しいことから定着率も非常に悪くなっています。
有効求人倍率では建設業が6.09倍、介護業が4.28倍、ホテル業が4.00倍と、全国平均の1.6倍を大幅に上回っています。
ちなみに職種別では介護業の4.28倍のうち、そのほとんどが介護福祉士に対する求人需要です。一方、職種別で求人倍率が高いのは医師ですが、今や医師と介護福祉士の求人倍率は拮抗しています。
一方で就活生の事務職人気は根強いものがあります。しかし事務職の有効求人倍率はわずか0.2%です。狭き門である大企業から採用内定をもらうよりも2倍難易度が高いということになります。
有効求人倍率によってリクルート戦略も変わる
求人側の戦略
有効求人倍率の高止まりによって多様化する採用戦略
一口に有効求人倍率といっても少し掘り下げてみるとその内訳は事業規模や地域、業種によって事情はまちまちです。空前の人材不足といっても大企業は依然として買い手市場ですから例年通りのリクルートでも問題ありません。
一方の中小企業は大学に求人票を送り、就活フェアにブースを構えて漫然と就活生の来場を待っているだけではダメです。すでに一昨年には多くの中小企業が四大卒を諦めて短大生や高卒採用にシフトし、昨年は専門学校に採用担当者が殺到していたようです。
また第二新卒専門の就活サイトを立ち上げたり、ホテル業界では海外留学からの帰国組を狙って秋採用に切り替えた企業もあると聞きます。このように採用戦略を見直し、自ら就活生を獲得に行くくらいでないと新卒採用は難しいでしょう。
人材難の企業こそきちんとした採用戦略が必要
有効求人倍率が2倍を超えると新卒採用はほぼ絶望的です。そこでなぜ自社(業界)は求職者に不人気なのかしっかり分析し、それをカバーするだけのインセンティブを用意する必要があります。
もし可能であれば新卒採用にこだわらずに外国人材や国内におよそ60万人以上いると言われる中高年ニートの積極的な活用に乗り出すべきでしょう。
労働力として活用できるまでに相応の投資が必要ですが、すでに”完成品”の人材を採用できる時代は終わり、むしろ人材を短期間で自社仕様に育成するノウハウを構築しないと、今後は新卒・中途を問わず必要な人員数すら確保できなくなります。
多くの業種では、自社の業務を細分化し、ルーチンを確立することで外国人や中高年ニートを労働力として育成することは充分に可能ですし、そのような取り組みはむしろCSR(企業の社会的責任)活動の好例として自社イメージの向上にもつながります。
それらの取り組みに際してはマーケティング手法が不可欠です。本サイトでも実話ベースのビジネス小説仕立てで関連記事をアップしておりますので、ご興味があればそちらもぜひご覧ください。
就活生の戦略
就活生の取るべき戦略
一方の就活生ですが、有効求人倍率が高い業界というのは「慢性的な人材不足」ということですから、人材を確保できない何らかの隠れた事情があります。そこをきちんと分析せず、単純に就職のしやすさだけで安易に飛びつくと必ず後悔します。
ポイントは自分は「どこに就職(就社)するのか?」ではなく、「何でもって飯を食べてゆくか(就職)」という視点でキャリア設計を考え、キャリア形成の機会を提供してくれるような企業を選ぶことです。
今の就活生は企業研究が浅く、メジャーな企業に飛びつく傾向がありますが、実はBtoB型の「その業界では有名」といったビジネスを展開している企業に優良企業が多いものです。
よってまず30歳までにひとつのキャリアを完成させるつもりでしっかりと職業および企業研究を行い、30歳までに必要なキャリア(実務経験、資格、人脈)を手に入れられるような企業に就職すべきでしょう。
事務職採用の厳しい現実
人気の事務職についてはすでにキャリアが二極化しています。ひとつは非正規雇用中心の事務作業員と、もうひとつは経営の中核を担う管理部門の推進職です。
30歳で営業部門から管理部門へ転身した筆者の経験から申し上げると、「内向的だが几帳面なので事務職が向いている」というのは企業側にとって採用する動機にはなりません。
そもそも事務作業は付加価値を生みませんので単価の安い非正規雇用の仕事になります。
また正規職員であっても2~3年のうちにRPA(ロボテック・プロセス・オートメーション)が急速に各職場に浸透すると予想されますので、従来のホワイトカラーの仕事は大幅に合理化され、事務職はますます狭き門となるでしょう。
筆者は10年前から各大学の就職課に警鐘を鳴らしていますが「事務職」はすでに死語です。
今の事務部門において必要なのは「社内コンサルタント」であり、社内の業務プロセスの流れを俯瞰してボトルネックを発見し、有効な対策を立案して経営者へ改善提案を行い、社内の関係部署と調整を行って改善活動を推進できる人材です。
よって事務部門スタッフに要求される能力も生真面目さや几帳面さより、経営マネジメント理論の知識や経営者に対する企画・提案能力、現場を巻き込むファシリテーション能力、そして経営者を補佐するフォロワー能力などに変わりました。
また現在の事務職は営業職並みに転職が多くなっています。これは事務職の役割が「社内の便利屋さん」から「社内コンサルタント」に変わってきたためです。
そしてコンサルタントの世界では「アップオアアウト」常識ですから、人材の出入りが激しくなるのは当然と言えるでしょう。
END
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