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003_休日休暇のFAQ

【有休繰上付与】お盆や年末年始の「計画的付与」。付与日前の新人への「欠勤扱い」は適法か?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

首をかしげる医師

当院は、歯科医師3名、歯科衛生士4名、歯科助手・受付3名の計10名が勤務する歯科クリニックです。当院では毎年、お盆(8月中旬)の3日間と、年末年始(12月末〜1月初旬)の5日間を「夏季・冬季休診日」として、クリニックを完全に閉鎖しています。

福利厚生とスタッフの休養を目的として、就業規則に「年次有給休暇の計画的付与(5日分)」を定めており、スタッフ達には休診期間中に有給休暇を取得してもらう運用にしています。

しかし、最近問題になっているのが、4月や5月に採用したばかりの新人スタッフの扱いです。労働基準法どおり、入社から6ヶ月が経過するまでは年次有給休暇を付与していないため、8月のお盆休みの時点では、新人にはまだ有休が1日もありません。

そのため、これまでは慣例として、有休のない新人スタッフについては、休診期間中の3日間を「無給の欠勤」として処理してきました。本人たちからは今のところ不満は出ていませんが、今後さらに採用を強化していくにあたり、以下の点について教えてください。

  1. 有休がない新人スタッフを、クリニックの閉鎖に伴って「欠勤扱い(無給)」とすることは、法的に問題があるのでしょうか?
  2. もし問題がある場合、休診期間中も新人にだけ出勤して事務作業をさせるべきでしょうか。あるいは、何か別の支払い義務が生じるのでしょうか?
  3. コンプライアンスを守りつつ、スタッフ間で不公平感が出ないような解決策があればアドバイスをお願いします。

ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックにおいて、お盆や年末年始に一斉休診(事業所閉鎖)を行うことは一般的ですが、有休を持たないスタッフへの対応を誤ると、労働基準法違反となるリスクが非常に高いです。結論から申し上げますと、有休のないスタッフを「無給の欠勤」とすることは違法性が高く、原則として「休業手当」の支払い義務が生じます

「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の判断

労働基準法第26条では、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならない」と定められています。

貴院のように、クリニック全体を閉鎖し、スタッフが「働きたくても働けない状態」にするのは、たとえそれが夏季・冬季休暇という名目であっても、経営上の判断(事業主の都合)による休業とみなされます。

年次有給休暇の「計画的付与」は、労使協定を締結することで、事業主が有休の取得日をあらかじめ指定できる便利な制度ですが、これはあくまで「有休を持っているスタッフ」が対象です。有休を持っていない新人スタッフに対しては、計画的付与を適用する余地がないため、クリニックを閉鎖して休ませる以上、会社都合の休業として「休業手当」を支払う法的義務が発生するのです。

新人だけを出勤させるべきか

「休業手当を払うくらいなら、新人にだけ出勤して片付けや事務作業をさせればよいのではないか」という考えもありますが、以下の点から現実的ではありません。

  • 安全管理の欠如: 院長やベテランスタッフが不在の閉鎖されたクリニックで、新人だけで作業させることは安全配慮義務の観点からリスクがあります。
  • モチベーションの低下: 周囲が連休を満喫している中で、新人だけが孤独に作業を強いられることは、早期離職の引き金になりかねません。

推奨される解決策:「有休の前倒し付与」

コンプライアンスを遵守し、スタッフ間の不公平感を解消するために最も有効な実務対応は、「年次有給休暇の前倒し(繰上)付与」制度を導入することです。

具体的には、入社後6ヶ月を待たずに、入社初日や夏季休暇前の時点で、夏季・冬季の計画的付与日数(例えば3日〜5日分)をあらかじめ「特別に前倒しで付与」する仕組みです。

この制度を導入する際のポイントは以下のとおりです。

  • 就業規則への明記: 「年次有給休暇は、法定の付与日に関わらず、計画的付与の実施のために必要があるときは、入社時に〇日を限度として前倒しで付与することがある」といった規定を設けます。
  • 出勤率計算の特例: 年休を前倒し付与した場合、本来の基準日(入社6ヶ月後)より繰り上がった期間については、次年度の付与判定における出勤率の計算上、「全期間出勤したものとみなして」計算しなければならない点に注意が必要です。
  • 不利益取扱いの禁止: 有休がないことを理由に「欠勤控除」を行い、賞与の査定などでマイナス評価を下すことは、年次有給休暇を取得したスタッフとのバランスを欠き、不適切な取り扱いとされる可能性があります。

暫定的な措置としての「特別休暇」

もし、既存の有給休暇の管理体系を崩したくない場合は、新人スタッフに対してのみ、その年度の休診期間に限定して、クリニック独自の「有給の特別休暇(夏季・冬季休暇)」を数日付与する運用も考えられます。これにより、休業手当(6割)以上の「通常の賃金(10割)」が保障されるため、スタッフの満足度は高まり、法的な休業手当支払い義務も同時にクリアできます。


本件のポイント

気づきを得た白衣の男性
  • 年次有給休暇の計画的付与による一斉休診時に、有休を持たないスタッフを「無給の欠勤」扱いにすることは、労働基準法第26条(休業手当)に抵触する。
  • クリニックを閉鎖してスタッフを休ませる以上、有休のないスタッフには平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う義務がある。
  • 「有休の前倒し(繰上)付与」を制度化し、新入スタッフにも計画的付与日に充てられる有休を与えることが、最もクリーンで不公平感のない実務対応である。
  • 前倒し付与を行う場合は、就業規則の改定と、労働者代表との「計画的付与に関する労使協定」の締結が不可欠である。
  • 適正な休暇管理は、歯科衛生士や助手などの専門職採用において、「法令を遵守する誠実なクリニック」というブランディングにも繋がる。

新人スタッフにとって、入社後初めての長期連休はリフレッシュの貴重な機会です。法的リスクを回避するだけでなく、「安心して休める環境」を整えることが、結果としてスタッフの定着と、質の高い歯科診療の提供に寄与します。

当サイトは診療所運営に関する法令や制度などを、できるだけ平易な表現で簡潔に解説することを目的としています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ処理願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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