人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師3名、歯科衛生士6名、受付・歯科助手4名が勤務する歯科クリニックです。スタッフの福利厚生とワークライフバランスの向上を目的に、数年前から「時間単位の年次有給休暇」制度を導入しています。
しかし、最近になって運用の難しさに直面しています。例えば、インプラント手術や難症例の外科処置を予定している時間帯に、担当の歯科衛生士から「1時間だけ時間単位年休を取りたい」と申請されるケースや、特定の午後の時間帯に有給取得が重なり、歯科衛生実地指導などの診療報酬算定に必要な人員配置を維持できなくなる懸念が生じています。
歯科クリニックは小規模な組織であり、一人でも欠けると予約制の診療オペレーションに大きな支障が出ます。特に歯科衛生士は、施設基準や個別の指導料算定において代えがきかない存在です。
以下の点について、法的な見解と実務的な対応を教えてください。
- 労使協定によって、歯科衛生士など「特定の職種」を時間単位年休の対象から除外することは可能でしょうか?
- 職種全体を除外しないまでも、「手術の予約が入っている時間帯」や「予約過密時」など、特定の時間帯の取得を制限することは法的に認められますか?
- 診療報酬の施設基準(人員配置)を維持することを理由に、取得を拒否することは「時季変更権」として認められますでしょうか?
ご相談への回答

歯科クリニックにおいて、スタッフの柔軟な働き方を支援する「時間単位年休」は魅力的な制度ですが、属人的なスキルと専門資格に依存する現場では、その管理が経営上のリスクとなる場合があります。結論から申し上げますと、労使協定の内容を工夫することで取得できるスタッフの範囲を限定することは可能ですが、取得目的や特定の時間帯を一律に制限することには慎重な対応が必要です。
労使協定による「対象者の範囲」の限定
労働基準法第39条第4項に基づき、時間単位年休を導入する際には労使協定の締結が不可欠です。この労使協定において、「時間単位年休を与えることができる労働者の範囲」を定めることができます。
実務上、業務の性質や人員配置の都合から、特定の職種や部署を対象外とすることは適法とされています。したがって、貴院において「歯科衛生士は、診療報酬上の施設基準維持およびチーム医療の根幹を担う職種であり、1時間単位の欠員が診療継続に重大な支障をきたす」といった合理的な理由があるならば、労使協定により歯科衛生士を時間単位年休の適用対象外とする運用は可能です。
ただし、注意が必要なのは、特定の職種を一律に対象外とすることがスタッフの不満を招き、採用競争力を低下させる恐れがある点です。
特定の時間帯や目的による制限の可否
次に、「手術時間中」や「予約過密時」といった特定の時間帯のみを取得不可とできるかという点ですが、年次有給休暇の取得目的(私用、通院など)によって取得を制限することは、時間単位であっても認められません。
また、「毎日14時から15時は取得不可」といった時間帯による一律の制限も、労働者の「時季指定権(いつ休むかを決める権利)」を不当に抑制することになるため、原則として馴染みません。
ただし、貴院が懸念されている「予約状況との兼ね合い」については、後述する「時季変更権」による個別対応が現実的な解決策となります。
施設基準と時季変更権の行使
歯科衛生士の配置は、歯科疾患管理料や歯科衛生実地指導料などの算定、さらには「口腔管理体制強化加算」といった施設基準の維持に直結します。
スタッフから時間単位年休の申請があった際、その取得によって「あらかじめ予約されている手術が実施できなくなる」「必要な歯科衛生士の配置が確保できず、診療報酬の算定要件(施設基準)を満たせなくなる」といった事態が生じる場合、それは「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当する可能性が極めて高いです。
この場合、院長は「時季変更権」を行使して、別の時間帯への変更を求めることができます。ただし、時季変更権はあくまで「別の時間帯や別の日に変えてもらう権利」であり、有給休暇の取得そのものを拒否(消滅)させるものではない点に留意が必要です。
実務的なアドバイス
歯科クリニックの円滑な運営とスタッフの満足度を両立させるためには、以下の運用ルールの整備を推奨します。
- 事前申請ルールの徹底: 就業規則において、「時間単位年休の申請は、診療予約の調整が必要なため、原則として前日(または◯日前)までに行うこと」といったルールを明文化します。当日朝の突発的な申請を抑止することで、時季変更権の行使判断がしやすくなります。
- 「時間単位」と「日単位」の区別: 時間単位年休は年5日分(労働日単位)が上限です。日単位での取得申請があった場合を時間単位に振り替えさせたり、その逆を強要したりすることはできません。
- 施設基準の再確認: 歯科衛生士が一時的に離席している間の業務が「手待ち時間(労働時間)」として評価され、常勤換算上の人員配置基準を満たせるのかどうか、地方厚生局の解釈を確認しておくことも重要です。
本件のポイント

- 時間単位年休の対象者は、労使協定によって「歯科衛生士のみ除外する」など職種別に限定することができる。
- 取得目的(私用か否かなど)を理由に取得を拒否することは、労働基準法の「自由利用の原則」に反するためできない。
- 手術予約や診療報酬の施設基準(人員配置)に重大な支障が出る場合は、「時季変更権」を行使して申請された時間帯を変更させることが可能である。
- 小規模な歯科クリニックでは、一律の制限よりも「事前申請のルール化」と「予約管理システムとの連動」による個別調整が、トラブル防止とコンプライアンス維持に有効である。
スタッフには制度の趣旨を理解してもらうとともに、医療の質と安全、そしてクリニックの健全な経営(施設基準の遵守)が、結果としてスタッフ自身の雇用を守ることに繋がるという視点を共有することが大切です。
当サイトは診療所運営に関する法令や制度などを、できるだけ平易な表現で簡潔に解説することを目的としています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ処理願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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