人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師2名、歯科衛生士4名、歯科助手2名が勤務する歯科クリニックです。スタッフとは1年ごとの有期雇用契約(4月1日〜翌年3月31日)を締結しており、今回で3回目の更新を迎える歯科衛生士がいます。
このスタッフは現在、私傷病(適応障害)により療養中で、半年前から休職しています。当院の就業規則では私傷病休職の期間を最大1年と定めており、彼女の「休職満了日」は今年の11月末となります。
今回の契約更新(4月1日〜)を行うことは決めていますが、通常通り1年間の契約で更新すると、契約期間の途中で休職満了日を迎えることになります。院長としては、もし11月末の時点で復職が困難な場合は、契約期間の途中であってもその日をもって円満に退職(自然退職)としてもらいたいと考えています。
そこで、トラブルを避けるために、今回の更新契約に限り、あらかじめ本人の合意を得た上で契約期間を「11月末まで」に短縮することは可能でしょうか?また、もし11月末までに体調が回復して復職できるようになった場合、その翌日から改めて再契約を結ぶという進め方に問題はないでしょうか。
ご相談への回答

歯科クリニックのような小規模な組織において、スタッフの長期休職は人員配置に大きな影響を与えます。契約期間と休職期間の終点を合わせたいという経営者側の意向は理解できますが、有期雇用契約の期間短縮は「不利益変更」のリスクを伴うため、慎重な対応が求められます。
合意による契約期間の短縮は「法的には可能」
結論から申し上げますと、労使間で真摯な合意があれば、次回の雇用契約期間を休職満了日に合わせて短縮(例:4月1日〜11月30日)したり、更新の有無を「更新なし」に変更したりすることは、法的に可能です。
また、もし短縮した契約の満了日(11月末)までに本人の体調が回復し、歯科衛生士としての業務に復帰できる状態になった場合には、その翌日から改めて新たな有期雇用契約を締結し直すという実務も認められます。
「不利益変更」とみなされる実務上のリスク
ただし、法的に可能であることと、実務上推奨されるかどうかは別問題です。
これまで1年更新を繰り返してきたスタッフに対し、休職中であることを理由に契約期間を短縮することは、スタッフにとって「次回の更新が保障されない」「雇い止めの布石ではないか」という強い不安を与えます。たとえ形式的な「合意書」を交わしたとしても、後になって本人が「休職中で断れない状況下での強要だった」と主張した場合、不利益変更として無効と判断され、労使紛争に発展するリスクがあります。
特に3回以上の更新がある場合、労働契約法第19条の「雇止め法理」により、労働者には契約更新への合理的な期待が認められる可能性が高いため、期間短縮の提案には細心の注意が必要です。
推奨される解決策:現行期間の維持と「自然退職」の適用
リスクを最小化するための最も安全な進め方は、雇用契約期間は従前通り「1年間(翌年3月末まで)」として更新し、就業規則の「休職満了による自然退職」条項をそのまま適用することです。
就業規則に「休職期間が満了しても復職できないときは、満了日をもって退職とする」という規定があれば、契約期間の途中であっても、休職期間の終了とともに雇用関係は自動的に終了します。この「自然退職」は解雇ではないため、解雇予告の手続きも不要であり、解雇権濫用のリスクを伴うことなく円満に退職処理を進めることができます。
復職後の再契約の進め方
もしスタッフが休職期間内に回復し、産業医や主治医が復職可能と判断した場合は、現在の契約条件のまま勤務を継続させます。
この際、もし契約期間を無理に短縮していたとすると、復職と同時に「再契約の手続き」という煩雑な事務作業が発生します。最初から1年契約を維持しておけば、復職後の手続きはスムーズであり、スタッフの心理的な安定(=当院は自分を必要としてくれているという安心感)にも繋がり、結果として再発防止や定着率の向上に寄与します。
本件のポイント

- 本人との合意があれば契約期間の短縮や更新条項の変更は可能だが、不利益変更とみなされるリスクを伴う。
- 休職中という不安定な立場での「合意」は、後の紛争において真意によるものか疑問視される恐れがある。
- 実務上は契約期間を短縮せず、就業規則に定める「休職満了による自然退職」の規定を活用して雇用関係を整理するのが最も安全である。
- 復職を前提とした支援を行う姿勢を示すことが、歯科衛生士などの専門職との信頼関係を維持し、法的リスクを回避する最善の策となる。
休職期間中の社会保険料の徴収方法(本人負担分の振込依頼など)についても、あらかじめ書面で確認し、エビデンスを残しておくことをお勧めします。
当サイトは診療所運営に関する法令や制度などを、できるだけ平易な表現で簡潔に解説することを目的としています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ処理願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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