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01 人事のしごと

なぜ医療機関の人事管理は難しいのか?

はじめに

社労士の山口です。早速ですが自院スタッフのマネジメントにご苦労なさっている院長先生は少なくないでしょう。「部下の管理はそんなもの…」と達観なさっている先生もいれば、「なんでこんなに面倒で大変なんだろう?」と悩まれている先生もいらっしゃると思います。

人事の専門家の立場から申し上げると、ヒト・モノ・カネという経営リソースの中で、効果が現れるまで最も時間と労力がかかり、経営者の思い通りにゆかないのがヒトです。しかし上手に育成することで、レバレッジを効かせリターンの極大化を期待できるのもまたヒトです。

とはいえ、世の中の多種多様な産業の中で、医療業界は人事管理が難しい業種として知られています。マネジメントの父と呼ばれるP.F.ドラッカー博士も「病院の人事マネジメントが最も難しい」と述べています。そこで今回は医療業界特有の人事管理の特徴を考察してみます。

価値観の相違と病院特有の組織

医療従事者のイラスト

多くの企業では社長をトップとするピラミッド型組織が一般的です。医療機関でも概ね同様ですが、診療部、看護部、医療技術部、事務部の4部門が職域とライセンスごとの強烈なタテ割り社会を形成しており、院長先生ですら「鶴の一声」とはゆかないケースが多いです。

医療機関でタテ割り意識が生まれる要因は医療職の入職課程にあります。長い養成機関と国家試験合格を経て入職してくる医療職は、一般企業の新入社員と違ってすでに職種特有の価値観に染まっており、価値観の相違が時に職種間のコンフリクトを生じることもあります。

医療機関では診療機能(例;周産期センター)や施設基準(例;医療安全委員会)ごとに、前述の4部門から選出された混成メンバーによるヨコ串のラインも構築します。このように医療機関はタテ組織×ヨコ組織の複雑なマトリクス組織によって運営されるのが一般的です。

歯科クリニック特有の人事課題

診療する男性歯科医師

統計によると歯科クリニックの平均従事者数は4.6人です。就業規則の作成義務はありませんが、院長先生が業務命令権を行使するには就業規則が必要です。さらに個人開業だと社会保険は任意適用です。しかし社保未加入の事業所が有能なスタッフを確保するのは難しいです。

歯科診療スタッフの多くは女性の歯科衛生士なので、円滑なクリニック運営には女性スタッフが働きやすい職場づくりが必要不可欠です。妊娠出産・育児に関する法令および社会保険制度への理解、法改正への迅速な対応は、歯科クリニックの人事管理において最重要課題です。

昨今は歯科技工士の高齢化が申告な問題となっています。歯科技工士の不足によって、定年後も引き続き歯科技工士を雇用するクリニックは少なくありませんが、高年齢雇用確保措置、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付などの知識がないと、思わぬトラブルが生じることも…。

受付やレセプト業務を派遣スタッフにお願いしている歯科クリニックも多いでしょう。しかし派遣先の法的義務を正確に理解している院長先生は多くないと思われます。派遣期間の制限(抵触日)、契約解除時の雇用安定措置、違法派遣の受入リスクなどは要チェックでしょう。

人事戦略と診療報酬は表裏一体

健康保険証

医療機関における人事戦略策定の際に忘れてはならないのが診療報酬制度です。日本の公的医療保険の特徴のひとつは診療報酬制度にもとづく「公定価格」です。おかげで我々受診者は同一の医療サービスであればどの医療機関を受診しても同一の費用負担で済みます。

しかし医療経営の側からすると医療サービスの単価と提供回数が決まっているため積極的に増収増益を追求できません。さらに医療機関の人件費率は50%前後と他の産業に比べて高めです。増収増益の選択肢が限定的なので人件費を抑制しようという動機が働きがちです。

保険医療制度における有効な増収策は加算です。ただし加算の算定には人員配置基準を満たさねばならず、収益増 vs 費用増のジレンマに陥ります。マイクロスコープ加算のように熟練した歯科医師を要する場合もあり、診療報酬制度を見据えた戦略的人事が不可欠なのです。

ところで私が医療機関に勤務していた頃、厚生局への保険医や施設基準に関する届出は私の担当でした。その後、社労士になって初めて知ったのですが、これらは健康保険法上の制度なので、レセプト請求業務以外の書類作成&届出代行は社労士の独占業務です。奇遇ですね…。

病院管理すなわち人事管理です

インプラント診療のイラスト

歯科医師をはじめとする医療従事者に高度な専門性が求められることは、業界関係者でなくとも容易に想像がつくと思われます。自然科学(現代医学)と社会科学(社会保険)の双方を高いレベルで追求してゆかねばならない業種は、世の中広しといえど決して多くありません。

労働集約型産業かつ対面サービス業、さらに高度専門職集団という、人材の質に大きく依存した業種は他の産業に類をみない医療業界特有のものです。どのような人材を採用し、どのような方向へ育成してゆくのかということと、医療機関の成長戦略は密接にリンクしています。

また医療機関は官公署の調査が多いです。医療法第25条の保健所立入調査、地方厚生局の適時調査、医療従事者届出(三師届・業務従事者届)等々、在職中は面喰いましたが、患者さんの生命に関わる職種であり、地域のQOLを担う公益性の強い業種ゆえ行政の監督は必然です。

もちろん医療機関における人事管理も一連の監督項目のひとつです。本日のお話を総括すると医療機関の人事マネジメントは難しいですが、なおざりにできない領域であることは言うまでもありません。最後に東京都福祉保健局「病院管理の手引」の概要をご紹介して終わります。

【参考】東京都福祉保健局「病院管理の手引」

  1. 医療安全・品質管理体制
    1. 医療安全管理
    2. 医薬品・医療機器の安全管理
    3. 院内感染対策
    4. 診療用放射線安全管理
  2. 組織運営と労務管理
    1. 人事・労務管理
    2. 文書・情報管理
  3. 施設・環境衛生管理・災害対策
    1. 防災・災害対策
    2. 環境衛生管理
    3. 廃棄物管理
  4. 業務委託の管理
    1. 委託基準の遵守
    2. 給食業務(患者等の食事提供)
  5. 対外的な責任と情報提供
    1. 情報公開と広告
    2. 患者・市民対応
  • 労働時間等の適正な管理(始業・終業時刻の確認と記録)
  • 時間外労働の上限規制(医師の働き方改革を含む)の遵守
  • 年5日の年次有給休暇の確実な取得
  • 継続した休息時間(勤務間インターバル等)の確保
  • 長時間労働を行う医師に対する面接指導の実施
  • 各種健康診断の実施と結果に基づく適切な措置
  • 就業規則の作成及び届出
  • ハラスメントの防止のための体制整備。

おわりに

社会保険労務士男性のいらすと

歯科クリニックにおいて人事マネジメントの巧拙こそ経営の生命線であるといっても過言ではありません。人事マネジメントをなおざりにすると職員の不平不満が人事トラブルに発展し、万が一炎上してしまうと、院長先生が診療に専念できなくなってしまう恐れもあります。

一方で人事関連の施策は効果が現れるまで時間がかかります。時間がかかるということは、もし人事管理上の懸念や不安があれば、早期に対策を講じる必要があるということです。当事務所は歯科クリニック経営に強い社労士事務所ですので、どうぞお気軽にご相談ください。

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  • この記事を書いた人

山口光博

社会保険労務士、人事部長経験者。かつて急性期病院の総務課長や系列クリニックの医事課長として勤務したこともある。歯科・歯科口腔外科の事務局も務め、医療機器や診療材料の購買、電カル&レセコン導入などを担当する。

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