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12_人事に関する経理処理

決算書のつかいかた

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決算書とはどのようなものか?

決算書の目的と役割

決算書とは、事業年度ごとの企業の経営成績を一定のルールと様式にもとづいて集計した計算書であり、企業の経営者は、決算書を通じて自社の業績の良し悪しを判断する。これによって来年度以降の事業計画の方向性を誤らないようにしたり、法人税などの納税額を計算したりするだけでなく、投資家が有望な投資先を選ぶ際の目安にしたり、金融機関が融資先の経営安全度を審査する時の判断材料としても用いられる。

資本主義経済においては、企業が永続的に事業活動を行うことを前提にして、様々な経済および社会システムが構築されている。このような経営の永続性をゴーイング・コンサーンというが、企業にとって決算書とは、経営という長く険しい道のりを走り続けるためのダッシュボードであり、またカーナビゲーションのような存在といえる。ゆえに経営者はもちろんのこと、店長などの管理職においても、決算書の知識は必須である。

決算書の作成ルール

決算書は経営にとっての羅針盤であるが、一方で投資家や債権者などの社外のステークホルダーの利害にもダイレクトに関係してくるため、その作成方法について一定のルールと様式が定められている。その代表的なものが、財務会計、税務会計、管理会計の3つであり、中でも財務会計の会計7原則は、全ての会計ルールに共通する、原理原則となるものである。

<会計7原則>
①真実性の原則(決算書に嘘偽りを記載するな)
②正規の簿記の原則(決算書は複式簿記で作成せよ)
③資本取引・損益取引区別の原則(出資と利益を混同するな)
④明瞭性の原則(わかりづらい決算書を作るな)
⑤継続性の原則(会計処理の基準やルールを頻繁に変更するな)
⑥保守主義の原則(儲けの予定は控えめに、費用の予定は多めに見積もれ)
⑦単一性の原則(二重帳簿を作るな)

財務会計は主に投資家や金融機関に提出する決算書であり、他の決算ルールのスタンダートとなるものである。一般的に決算書といえば、財務会計によって作成されたものを指す。

税務会計は、法人税や法人事業税などの納税額を計算して、税務署に提出するための決算書である。概ね財務会計と同じルール・様式だが、財務会計における利益と費用をそれぞれ益金、損金と呼び、対象とされる範囲や金額が異なる。よく経費で落ちる、落ちないといっているのは、税務会計の損金のことである。

管理会計は、社内における業績管理のために作成される決算書で、社外に提示するものではないため、自社が何を重点的に管理したいのかによって、会計期間や勘定科目の括り、集計部門などを任意で設定することができる。通常は予算や過去の実績と比較して、今の経営状態の良し悪しを判断し、早期に対策を講じる。

余談だが、これら基本的な会計ルールの他にも、各業界の特殊性に応じて、銀行会計や建設業会計、医療会計、農業会計、社会福祉法人会計などがある。小売業ではこういった特別な会計は必要とされておらず、アパレル業界に見られるSPA(製販一体)業態を除き、商業簿記の知識さえあれば、店舗マネジメント実務において、困ることはないと思われる。

主要な財務諸表

通常、決算書と呼ばれているものは、様々な財務諸表の集まりである。ここでは法人税の確定申告に必要とされる4つの財務諸表の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、資本変動計算書について、それぞれの特徴などを簡単に解説してゆく。なおこれらの様式は定型パターンがあり、これを覚えておくだけでも決算書を読み込むのがラクになる。

簿記を学び始めた時に、借方と貸方がわからなくてつまづく人が多いが、ここは深く考える必要はない。決算書の左側、右側というようにスルーしてよい。

損益計算書

損益計算書のイメージ図

損益計算書は、1年間にいくらの費用を使い、いくら売り上げ、その結果いくらの儲けを得られたのか、ということを表す財務諸表である。一般的にPL(Profit and Lpss)と呼ばれているもので、販売部門のメンバーは、適正な収益コントロールを行うために、損益計算書の仕組みやそれぞれの勘定科目の意味をきちんと理解しておかねばならない。

なお利益欄は売上や費用の性質によって階層化されている(後段の決算書参照)。例えば売上総利益は商品部のバイングパワーや店舗のロス管理の精度が反映され、営業利益は販促プロモーションの巧拙や店舗スタッフの人時生産性の良し悪しが現れる。一方で経常利益は店舗が関与する要素が無いため、むしろ財務部門が責任をもってコントロールしてゆかねばならない。

貸借対照表

貸借対照表のイメージ図

年度末における会社の財産目録が貸借対照表である。貸借対照表は必ず借方と貸方の残高が一致するため、バランスシート(BS)とも呼ばれているが、借方が会社が保有している資産で、貸方がこれら資産の調達手段(借金or自己資金)を表している。貸借対照表のうち、店舗側で管理しなければならないのは、商品在庫(棚卸資産)と什器備品(償却資産)である。

商品在庫は日頃から赤伝黒伝処理を正しく行い、定期的な棚卸しを行って不明ロスを極力少なくすること、また什器備品は備品台帳を作成して、新規購入や除却の都度、きちんと備品台帳を更新する必要がある。特に毎年1月末は償却資産税の申告期限なので、できれば年末の繁忙期前には店舗側で什器備品と備品台帳の付け合せチェックなどを済ませておきたい。

キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書のイメージ図

キャッシュフロー計算書は、1年間にいくらのキャッシュの出入りがあって、その結果、年度末にいくらのキャッシュが残ったのかを表す財務諸表である。例えば信用取引では、売り上げた月の翌月に代金が入金となるケースが少なくない。もし売掛金を回収する前に、仕入代金や給与、社会保険料などの支払いがあると運転資金が不足(資金ショート)する恐れがある。

日本では多くの企業が金融機関に当座預金(企業間の取引専用の口座)を開設して事業活動を行っているが、資金がショートすると金融機関が当座預金を凍結するため、黒字企業であっても事業継続が不可能となる(黒字倒産)。これが「勘定合って銭足らず」という状態であり、キャッシュフロー計算書によってキャッシュ残高と今後の見通しをチェックする必要がある。

資本変動計算書

資本変動計算書は1年間の資本金などの増減を表す財務諸表であり、経営陣が好き勝手に利益剰余金を配当して、特定の株主の利益を損なうようなことがないように、株主資本(出資金)の増減を明らかにするために作成する。なお資本変動計算書については、店舗オペレーションに直接影響しないため、本記事では解説を割愛させて頂く。

決算書のつかいかた

決算書単体を眺めていても経営の良し悪しは判断できない。決算書は他の何かと比較することで、はじめて自社の経営状態を把握することができる。これを財務分析というが、ここではそのうち初歩的なものについて簡単に紹介したい。

計画との比較

予算実績コントロールのイメージ図

事業計画(年度予算)と実績を付け合わせて乖離を把握する方法で、予算実績コントロールと呼ばれているもの。計画と実績が大きく乖離している項目について原因を分析し、早期に改善策を講じるために活用される。販売部門でコントロールできる黄色い項目について、事業部別、店舗別、売場部門別に落とし込んでそれぞれの責任者に数値責任を負わせる。

過年度との比較

過年度決算書の比較イメージ図

直近3年間の業績を横並びで比較することで、売上高や費用の増減を時系列のトレンドで把握する方法。小売業の決算書は日頃の地道な販売活動の積み重ねの集大成であり、期末ギリギリのタイミングで一発逆転ホームラン!など不可能な業種なので、定期的に業績トレンドを把握し、業績下降トレンドが続くようであれば、早期に有効な対策を打ってゆく必要がある。

同業他社との比較

同業他社との決算書比較イメージ図

株式公開している企業であれば、その企業のホームページのIR情報から決算データを閲覧することができる。また中小企業実態基本調査の統計データから、自社の企業規模に近い同業者の平均的な決算数値を入手することもできるため、これらと自社の業績を比較し、自社の強みや弱みを発見し、改善の手がかりとすることも可能である。

同業他社と比較する場合、企業規模や商圏特性が異なるため、金額ベースでなく百分率で比較した方が、それぞれの特徴を把握しやすい。

決算書のつかいかたまとめ

決算書の仕組みについては日商販売士検定でも学ぶことができる。ただし会計分野に限っていえば、販売士検定の学習内容は総花的すぎて、簿記の基礎知識が無い人がいきなり理解するのは難しいかもしれない。そこで日商販売士試験と並行して日商簿記3級を学習することをオススメしたい。会計の基本についてより深く理解することができるだろう。

なお簿記は経理担当者だけのスキルではない。店舗の収益コントロールや商品部での価格交渉、そしてプライベートにおいても株式投資の銘柄選定や、家計の管理など、幅広く応用することができる万能資格である。そして複式簿記は世界共通のルールであり、また会計仕訳はそれぞれが原因と結果の関係なので、論理的な思考力も養われる優れモノなのだ。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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