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01 人事のしごと

迷える労務ビギナー必読~社会保険と労働保険はなにが違う?

社会保険の手続きが苦手な人に共通する特徴

疲れ果てた女性会社員

労務を初めて担当することになった人が最初にぶち当たる壁といえば、社会保険手続きと年末調整であることに異議を唱える方は少ないと思われます。実際に両者は制度が複雑で法令が頻繁に改正されるため、片手間では務まらない…というのが人事担当者の共通認識です。

私が人事畑のキャリアをスタートしたのは30歳を過ぎてからでしたが、当初は私も特に社会保険事務には苦戦しました。しかし今になって振り返ってみると、社会保険事務を漫然と捉えている人ほど、実務において混乱やミスを生じやすいのではないかと感じています。

そこで本記事では、一般的に社会保険としてひとくくりにされがちな健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険について、それぞれの制度の特徴と事務手続きの相違などを整理してみたいと思います。もし本記事が皆様の理解の一助になれば幸いです。

広義の社会保険 vs 狭義の社会保険

社会保障制度のイメージ

広義の社会保険とはどのようなものか?

事務担当者であっても気にしている人は少ないようですが、社会保険には広義のものと狭義のものがあります。そのうち前者(広義の社会保険)は、日本の社会保障制度を構成する4本柱のひとつとしての社会保険です。

  • 社会保険
    保険原理による社会保障(医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険)
  • 社会福祉
    弱者に対する特別な支援(児童福祉、母子・父子福祉、障害者福祉、高齢者福祉)
  • 公的扶助
    経済的に困窮し自立が困難な人々に対する最低限度の生活保障(生活保護)
  • 公衆衛生
    国民全体の健康保持と増進を目的に実施される予防医療や感染症対策

労務担当者が抑えるべきは狭義の社会保険

狭義の社会保険とは、まさに我々人事労務の実務担当者が取り扱う領域です。狭義の社会保険においては、保険給付の目的や制度の違いにより、次のように分類します。

  • 社会保険
    健康保険、介護保険、厚生年金保険
  • 労働保険
    雇用保険、労災保険

社会保険と労働保険は似て非なるものだった!?

年金事務所のいらすと

社会保険=徴収と給付は各制度で別個に行う

狭義の社会保険の目的は、保険制度ごとにそれぞれ次のようになっています。

  • 健康保険(協会けんぽ、健康保険組合)
    私傷病に対する療養給付および休業時や出産時の経済的保障
  • 介護保険(市町村および特別区)
    要介護状態となった時に自立した日常生活を営むための支援
  • 厚生年金保険(日本年金機構)
    被保険者の老齢や障害あるいは死亡した時の経済的保障

社会保険には、労働者のほか経営者も加入することができます。保険料の算定基礎を賃金ではなく報酬と呼ぶのはこのためです。社会保険料は報酬あるいは賞与を支給する都度、被保険者ごとに計算・徴収し、支給月の翌月末日までに日本年金機構を経由して納付します。

労働保険=徴収は一括・給付は別個に行う

労働保険は次の2つの制度で構成されます。

  • 雇用保険(公共職業安定所)
    労働者の雇用安定や雇用促進のための経済的支援
  • 労災保険(労働基準監督署)
    労災に遭った労働者の療養給付および休業補償、あるいは障害や死亡時の経済的補償

労働保険は労働者を対象としていますので、原則として経営者は加入できません。保険料は先に翌年分を概算払いしておき、翌年6月の年度更新(確定申告)にて、1年間に支払った事業場ごとの賃金総額に、雇用保険と労災保険の各料率を乗じて算定した確定額と相殺します。

なお社会保険は、保険料の徴収と保険給付を健康保険法、介護保険法、厚生年金保険法の各法令にもとづき個々に行います。労働保険の場合、保険給付は社会保険同様に雇用保険法と労災保険法によりそれぞれ行いますが、保険料の徴収は労働保険徴収法で一元化されています。

社会保険と労働保険は同時にもらえるか?

医療保険は傷病の事由によって明確に分かれる

傷病の療養や休業中の生活保障については、健康保険と労災保険からの保険給付が重複しそうですが、そもそも前者は私傷病を、また後者は業務災害と通勤災害を保険給付の対象としているため、原則として同時に保険給付が行われる余地はありません(例外あり)。

なお健康保険の療養の給付と労災保険の療養補償給付の内容(診察や検査、処置、入院等)は概ね同一のメニューです。どちらも医療サービスの現物給付方式で行われますが、健康保険は保険診療医療機関、労災保険は労災指定医療機関を受診する必要があります。

厚生年金保険と労災保険は同時にもらえる事も

厚生年金保険の障害厚生年金と遺族厚生年金は、労災保険の障害補償年金と遺族補償年金によく似ています。労災保険の障害保障年金と遺族補償年金は、労災によって労働者が障害あるいは死亡した場合に給付されますが、実は厚生年金保険は業務性の有無を問いません。

ここが前述の健康保険と大きく異なる点であり、厚生年金保険においては業務上だろうと業務外だろうと、所定の要件を満たせば障害年金あるいは遺族年金が給付されるのです。ただし一定の割合(12%~27%)で労災保険を減額調整した上で併給されることになります。

労務を担当したらまず保険料の徴収を抑えよ

できるビジネスパースン

社会保険手続きの主要業務といえば、被保険者資格の得喪届出や、傷病手当金や育児休業給付金などの保険給付申請を思い浮かべる人は少なくないでしょう。しかし労務管理ビギナーが真っ先にマスターすべきは保険料の徴収と納付の事務であると考えます。

各種届出業務に比べて保険料の徴収&納付は一見すると単調な作業に見えるかもしれません。しかし社会保険と労働保険に固有の徴収ルールを正しく理解していなかったために、納付した保険料に過不足が生じたり、会計帳簿との不整合が露見する事例は枚挙に暇がありません。

すでに解説したように社会保険も労働保険も保険料の発生と徴収&納付の時期にタイムラグがあります。基本をしっかり抑えていないとミスに気づかず、対応が遅れることで不整合がどんどん膨らんでしまい、最後は特別損失で処理せざるを得ない状況に陥ることもあるのです。

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  • この記事を書いた人

山口光博

社会保険労務士、人事部長経験者。かつて急性期病院の総務課長や系列クリニックの医事課長として勤務したこともある。歯科・歯科口腔外科の事務局も務め、医療機器や診療材料の購買、電カル&レセコン導入などを担当する。

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