社労士の山口です。今回は、巷でよく「定額はたらかせホーダイ」と揶揄される高度プロフェッショナル制度とその関連制度について解説いたします。病院や診療所のような施設型の業態にはあまり関係ありませんが、雑学程度にご覧になっていただけると幸いです。
高度プロフェッショナル制度はこんな制度

高度プロフェッショナル制度は、「労働時間と仕事の成果に直接的な関連が無い」高度な専門職を対象とした制度です。労働基準法に定められる労働時間、休憩、休日、深夜労働に関する規定が適用除外となるため、「定額はたらかせホーダイ」と俗に呼ばれることもあります。
しかし、この制度の適用対象は以下の職種に従事する労働者でなおかつ年収1,075万円以上のハイクラス人材に限定されています。また労働時間や休憩などが適用除外になるからといって、無制限に働かせることが許されているわけではありません。
| 業務の種類 | 業務の具体的な内容 |
| 1. 金融商品の開発業務 | 金融工学、統計学、数学、経済学などの知識を用いて、確率モデルの作成やこれによるシミュレーション等を行う、新たな金融商品の開発の業務。 |
| 2. 金融商品のディーリング業務 | 金融知識などを活用した自身の投資判断に基づく資産運用の業務、または有価証券の売買その他の取引の業務(ファンドマネージャーやトレーダーなど)。 |
| 3. 市場動向等のアナリスト業務 | 有価証券などに関する高度な専門知識と分析技術を応用した分析・評価を行い、その結果に基づいて投資に関する助言を行う業務(証券アナリストなど)。 |
| 4. 事業コンサルティング業務 | 企業の事業運営に関する重要な事項についての調査・分析、およびこれに基づく当該事項に関する考案または助言の業務(経営コンサルタントなど)。 |
| 5. 研究開発業務 | 新たな技術、商品、または役務の研究開発の業務。新たな技術を導入して行う管理方法の構築なども含む(企業等の研究職など)。 |
健康管理時間(≒労働時間)の上限設定や年間休日数(年間104日以上)の確保、深夜勤務の回数制限など、労働者の健康確保のための細かな規制が厳格に設けられています。
労働時間ではなく成果で評価する働き方を実現するという点では、次に解説する「みなし労働時間制」「裁量労働制」と同じですが、労働時間の管理自体を行わないという点で一線を画しています。この点が高プロ制度を理解する上での大きなポイントとなります。
いずれ消えゆく運命にある事業場外みなし労働

事業場外みなし労働時間制は、業務の大部分を事業場外で行うため、会社のタイムレコーダーに出退勤の打刻をすることが難しい職種を対象とする制度です。例えば、取引先と自宅を直行・直帰する外勤の営業職などがこれに該当します。
事業場外みなし労働時間制の特徴は、就業規則にルールを定めることで、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ定めた所定労働時間を働いたものとみなす点です。これにより、労働時間の正確な把握が困難な外勤メインの労働者の勤怠管理を行うことができます。
なお訪問歯科診療のように、いったんクリニックに出勤し、在宅診療用機器を往診車に積み込み、訪問診療が終了したらクリニックに戻って機器の滅菌などを行うような場合は、始業と終業の時刻を明確に把握できるため、本制度の対象外です。
また、スマートフォンアプリなどで外出先であっても客観的に勤怠を記録できる環境が整っている場合は、この制度を導入することはできません。最近の勤怠システムはタイムレコーダーよりスマホアプリが主流となりつつあるので、いずれ消滅する可能性の高い制度です。
専門業務型裁量労働制は20職種に限定されている

専門業務型裁量労働制は、仕事の進め方や労働時間の配分について、使用者が具体的に指示することが難しい高度な専門業務を対象とする制度です。対象となる職種は、弁護士、公認会計士、建築士、研究開発者など、法令で定められた20職種に限定されています。
- 新技術、新商品等の研究開発の業務
- 情報処理システムの分析または設計
- 新聞、出版、放送における取材、編集
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告などの新たなデザインの考案
- 放送番組、映画などのプロデューサーまたはディレクターの業務
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェアの創作
- 証券アナリスト
- 金融工学などの知識を用いて行う金融商品の開発
- 大学における教授、研究
- M&Aアドバイザー
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士(1級、2級建築士、木造建築士)
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
本制度では、1日何時間就業しようとも、労使協定で定めた時間を労働時間とみなします。労働者の判断に始業と終業の時刻が委ねられるため、専門職としての自由な働き方が可能となります。なお制度実施にあたり、対象労働者の同意と、事業場の過半数代表者との間で労使協定を締結することが義務付けられています。
ちなみに対象20職種には社会保険労務士は含まれていません。これは社労士が労働法令と社会保険の事務手続きの専門家だからです。社労士の取り扱う法令の多くは手続法です。申請から処理完了までのプロセスが明確=使用者も仕事の段取りを把握できるということです。
企画業務型裁量労働の導入のハードルが高い理由

企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門において、企画・調査・分析などに携わるホワイトカラーを想定した制度です。基本的な趣旨は専門業務型裁量労働制と同じですが、対象職種が法令で具体的に明示されていないのがポイントです。
職種が明確に定められていないことから、使用者が制度を拡大解釈して悪用する恐れがあるため、専門業務型よりも厳格な要件が設けられています。労働者の保護のため、労使委員会の設置が必須とされ、議事録を労働基準監督署へ届け出る義務があります。
いずれの「みなし労働時間制」も、「所定労働時間を働いたものとみなす」という点で、先に述べた高度プロフェッショナル制度の「労働時間管理を行わない」という点と対比されます。正確な制度理解と適正な運用が、使用者には求められます。
なぜ医師は高プロや裁量労働制の対象外なのか?

ここまで読み進めてくださった院長先生の中には、「なぜ医師や歯科医師は高度プロフェッショナル制度や専門業務型裁量労働制の対象外なのだ?」と疑問に思われた方もいらっしゃると思います。高度専門職の筆頭格たる医師・歯科医師が対象外とされる理由は次のとおりです。
- 成果と労働時間を分離できない
医師や歯科医師の業務は人の生命や健康に直接関わるものであり、突発的な状況あるいは重症度に応じて、診療時間も変わります。治療の成果に、高度な知識や技術のほか労働時間も密接に関係するため、専門性のみで業務を評価することが難しい職種です。 - 特殊な勤務形態(生命の安全)
医師や歯科医師の業務は一般的にオンコールや緊急手術、救急対応など、特殊で不規則な勤務形態を伴います。しかし高プロや専門業務型裁量労働制を導入することで、長時間労働が常態化し、医療事故のリスクを高めてしまう恐れがあります。 - ホワイトカラー・エグゼンプション
高度プロ制度や専門業務型裁量労働制のモデルは、欧米のホワイトカラー・エグゼンプションです。日本でも国際競争力を高めるために、同制度にならった柔軟な働き方を導入しましたが、ホワイトカラー・エグゼンプションも医療職は対象外です。
以上、今回はいつもと少し趣向を変えて、一般的な歯科クリニックの労務管理にはあまり関係しませんが、ニュースで話題となりがちな注目トピックを取り上げてみました。もし本記事が少しでもご参考になれば幸いです。引き続き他の記事も宜しくお願いします。
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