
スタッフからの出産報告、適切に対応できていますか?
スタッフからご本人やご家族が出産したという嬉しい報告を受けた院長先生。
「おめでとう」とお祝いの言葉をかける一方で、「クリニック側で何か手続きが必要だろうか?」と不安を感じることもあるのではないでしょうか。
出産時に活用できる公的制度の一つに、「出産育児一時金」があります。
これは出産費用をサポートする公的医療保険の給付制度で、手続きは原則としてスタッフやそのご家族が行います。
しかし、スタッフから質問を受けたときに適切に案内できるよう、院長先生も制度の基本と手続きの流れを押さえておくことが大切です。
本記事では、健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)、歯科医師国民健康保険組合(歯科医師国保組合)、国民健康保険など、加入する公的医療保険別に出産育児一時金の手続きを解説します。
出産育児一時金とは?支給額と受取方法の基礎知識
制度の目的と支給要件
出産育児一時金は、出産費用の経済的負担軽減のため、公的医療保険の加入者やその家族が出産したときに一時金が支給される制度です。
支給要件は、次の通りです。
- 出産した時点で、日本の公的医療保険に加入していること
- 妊娠4か月(85日)以上での出産であること(早産、死産、流産、人工妊娠中絶も含む)
支給額
1児につき原則50万円が支給されます。
(産科医療補償制度に未加入の分娩機関での出産、または妊娠22週未満の出産の場合は48万8千円)。
上記に加え、付加給付を行う歯科医師健康保険組合や健康保険組合もあります。
3つの受取方法
出産育児一時金には3つの受取方法があります。
- 直接支払制度(最も一般的)
- 公的医療保険から医療機関等へ直接一時金が支払われます。
窓口での支払いは、一時金の支給額を超えた差額分のみとなります(支給額を下回る場合は窓口負担なし)。
- 公的医療保険から医療機関等へ直接一時金が支払われます。
- 受取代理制度
- 事前に公的医療保険へ申請することで、医療機関が被保険者に代わって一時金を受け取る仕組みです。
直接支払制度を利用できない一部の小規模医療機関等で利用できます。
- 事前に公的医療保険へ申請することで、医療機関が被保険者に代わって一時金を受け取る仕組みです。
- 償還払い制度
- 窓口で出産費用を全額支払い、後で保険者に申請して一時金を受け取ります。
【公的医療保険別】出産育児一時金の申請手続き
受取方法による手続きの違い
出産育児一時金は、どの受取方法を選択するかによって、以下の通り手続きの方法が異なります。
- 直接支払制度
- 医療機関で手続きを行います。
- 出産費用が一時金の支給額を下回る場合は、出産後に公的医療保険に対し差額分の支給申請をします。
- 受取代理制度
- 出産予定日まで2か月以内の期間に、支給申請書を公的医療保険に提出します。
- 出産費用が一時金の支給額を下回る場合は、出産後に公的医療保険に対し差額分の支給申請をします。
- 償還払い制度
- 出産費用を全額支払った後、公的医療保険へ支給申請をします。
ここでは主に「直接支払制度で差額の支給申請を行う場合」と「償還払い制度で支給申請を行う場合」の手続きを解説します。
協会けんぽの手続き
申請期限
出産日の翌日から2年以内に申請します。
提出先
クリニック所在地を管轄する協会けんぽ支部に提出します。
申請書の様式
- 直接支払制度で差額申請する場合:「出産育児一時金差額申請書」
- 対象となる場合、出産後おおむね3か月後に協会けんぽよりスタッフ本人へ送付されます。
- 償還払い制度の場合:「健康保険出産育児一時金支給申請書」
主な添付書類
- 出産費用の領収・明細書の写し
- 直接支払制度を利用する(しない)ことを証明する書類の写し(直接支払制度利用の合意文書など)
- (申請書に医師・助産師の証明を受けられない場合)出産を証明できる書類
協会けんぽから届く「出産育児一時金差額申請書」で申請する場合は、添付書類は不要です。
健康保険組合(東京都歯科医師健康保険組合)の場合、申請書や添付書類が協会けんぽとは異なることがあります。
詳細については、加入する健康保険組合に確認しましょう。
歯科医師国民健康保険組合の手続き
加入している歯科医師国保組合により取り扱いが若干異なるため、ここでは一般的な手続きを説明します。
申請期限
出産日の翌日から2年以内に申請します。
提出先
加入している歯科医師国保組合に提出します。
申請書の様式
歯科医師国保組合により異なります。
ホームページに様式を掲載しているケースもありますが、見当たらない場合は歯科医師国保組合に問い合わせましょう。
直接支払制度で差額の支給申請をする場合、対象者に申請書を送付する歯科医師国保組合もあります。
主な添付書類
歯科医師国保組合により異なりますが、一般的に下記のような添付書類が挙げられます。
詳細は加入する歯科医師国保組合へ確認しましょう。
- 出産費用の領収書・明細書の写し
- 直接支払制度を利用する(しない)ことを証明する書類の写し(直接支払制度利用の合意文書など)
- 母子手帳の出生証明欄の写し
国民健康保険の手続き
市区町村により取り扱いが若干異なるため、ここでは一般的な手続きを説明します。
申請期限
出産日の翌日から2年以内に提出します。
提出先
スタッフの住所地の市区町村役場(国民健康保険担当窓口)に提出します。
申請書の様式
市区町村によって異なります。
ホームページに様式が掲載されているケースもありますが、見当たらない場合は市区町村の国民健康保険の窓口へ問い合わせましょう。
主な添付書類
市区町村により異なりますが、よく求められる添付書類には下記のようなものがあります。
- 出産費用の領収書・明細書
- 直接支払制度に関する合意文書
- 母子手帳の出生証明欄の写し
- 本人確認書類
- 振込口座の確認書類
出産育児一時金のよくある質問
手続きにあたりクリニック側が行うことはあるのか?
基本的に院長や事務スタッフが行う手続きはありません。
出産育児一時金の手続きは、スタッフやその家族本人が、公的医療保険や医療機関と直接やり取りを行います。
ただし、スタッフから「どの保険に加入しているか」「手続きの窓口はどこか」といった質問を受けることも考えられます。
その際は正確な情報を提供することが、スタッフの安心感と信頼感につながるでしょう 。
スタッフの家族(配偶者など)が出産した場合は?
協会けんぽの被扶養者や歯科医師国保組合の被保険者である家族が出産した場合も、「家族出産育児一時金」として同額の一時金が支給されます。
手続き方法は、スタッフ本人が出産した場合と基本的に同じです。
妊娠・出産を機に退職するスタッフの場合は?
協会けんぽについては、退職日まで継続して1年以上の加入期間があり、かつ、退職から6か月以内の出産であれば、一時金の支給を受けられる可能性があります。
ただし、その後に家族の被扶養者となったり国民健康保険に加入した場合は、二重給付を避けるため、どちらか一方からの受給となります。
なお、国民健康保険や歯科医師国民健康保険組合では、退職後の支給制度がない場合があるため、注意が必要です。
スタッフの安心と信頼関係構築のために、労務手続きは専門家へ
出産育児一時金の手続きは、基本的に出産する医療機関からの説明に基づきスタッフ本人が行います。
しかし、公的医療保険への手続きが必要となる場合、スタッフから院長先生へその詳細や窓口について質問を受けることもあるでしょう。
その際、制度の概要、手続きの流れと窓口などを適切に案内できれば、スタッフの安心感と職場への信頼につながるでしょう。
ただし、退職を伴うケースなど専門的な判断が必要になることもあります。
また、出産育児一時金以外にも、妊娠・出産に伴う労働保険や社会保険の手続きは多岐にわたります。
これらの労務手続きでお困りの際は、歯科クリニックの労務に精通した社会保険労務士にぜひご相談ください。
適切なアドバイスとサポートで、院長先生の負担を軽減します。
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