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01 人事のしごと

歯科医院経営者のための残業・休日労働の基本ルール

社会保険労務士の山口です。さて早速ですが、クリニックの従業員様の残業や休日出勤について、「どこまでが許されるのか?あるいはどういった手続きが必要なのか?」という疑問をお持ちの院長先生は少なくありません。

そこで本記事では、院長先生のその疑問にお答えするため、資料に基づき、労働時間管理の法的なルールと経営上の留意点を解説いたします。労働法の正しい理解は、コンプライアンスの遵守はもちろん、優秀な人材の定着にも直結しますのでぜひご一読ください。

そもそも残業は法律で禁止されている!?

ブラック企業に酷使される男性

実は労働基準法では、従業員を法定労働時間(1日8時間、週40時間※従業員10人未満の歯科クリニックなどの特例事業は週44時間)を超えて働かせること、また法定休日に労働させることを禁止しています。ちょっと驚きですが、労基法の原則では残業=違法就労なのです。

この考え方は、労働者の健康と充実した職業生活・職業人生を守るための大原則であり、時間外労働や休日労働は、あくまでもイレギュラーな働きかたとして、必要最小限に留めるべきであるという考え方が労基法をはじめとする労働法令の根底にあります。

法定労働時間の特例=36(サブロク)協定

しかし、急な診療や長時間にわたる手術など、クリニックの運営上、やむを得ず法定労働時間を超える労働が必要となる場合もあります。また休日診療の輪番制に入っているため、法定休日に診療を行う事例も一般的ですが、これらは労基法違反とならないのでしょうか?

多くの医療機関で残業や休日出勤が行われているのは、この労働基準法の大原則に定められた法定労働時間の特例を適用しているからです。この特例とは、法定労働時間の例外的取り扱いを定めた労働基準法第36条にもとづく労使協定、いわゆる36(サブロク)協定です。

36協定は、院長先生(使用者)と、従業員の過半数で組織された労働組合、または過半数代表者との間で書面による協定を結び、所轄の労働基準監督署長に届け出ることで有効となります(詳細は別記事で解説します)。

労使協定には労基署への届出不要なものもありますが、36協定に関しては届出が受理されて初めて、時間外労働をさせても罰則が適用されないという法的効力(免罰効果)が発生しますので、届出忘れには十分ご注意ください。

36協定さえあれば働かせホーダイか?

PCの前で考える男性ビジネスパーソン

36協定を締結したとしても、残業時間が無制限に認められるわけではありません。労働基準法には、罰則付きの厳格な上限規制が設けられています。原則として、時間外労働は月45時間以内かつ年360時間以内が限度となります。

通常予見できない業務の増大など、臨時的な特別の事情がある場合は、36協定の内容を「特別条項を適用」するものとして作成・届出することで、前述の限度時間を超えて従業員を残業させることができます。

しかし36協定に特別条項が適用される場合でも、残業および休日出勤の時間は次の条件内に収まっている必要があります。

  • 法定労働時間を超える残業は年720時間以内であること
  • 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満であること
  • 連続した2ヶ月~6ヶ月間の残業時間を平均してそれぞれ月80時間以内であること
  • 特例条項が適用される月は年6回以内であること

割増賃金の目的は事業主へのペナルティ

飛んでいってしまうお金

法定労働時間を超える時間外労働や、法定休日に労働させた場合は、通常の賃金に加え、割増賃金を支払う義務があります。具体的には法定労働時間を超える時間外労働には通常の賃金の25%以上、法定休日の労働には35%以上の割増率が適用されます。

また深夜時間(22時~翌5時)の残業は、時間外割増25%以上に深夜割増25%が加算されます。割増賃金の計算方法や、月60時間を超える残業の割増率など、詳細については改めて別の記事で詳しく解説させていただきますが、残業発生=コスト増がこのルールの肝です。

労働基準法が、法定外残業や法定休日出勤をさせた事業主に対し、一定の率以上の割増賃金の支払いを義務づけている理由は、賃金の割増というペナルティを科すことで、イレギュラーな就労を抑制するためです。決して残業奨励のインセンティブではない点にご注意ください。

代休と振替休日の違いを理解しましょう

首をかしげる医師

休日労働に関して、割増賃金の支払義務を左右する重要な違いが「代休」と「振替休日」です。代休は法定休日労働をさせた後に、事後的に代わりの休みを与えるため、法定休日に労働させた時間に対して、法定休日労働の割増賃金(35%以上)の支払いが必要です。

一方、振替休日は、あらかじめ法定休日を他の労働日と振り替える制度であり、労働した日は通常の労働日となるため、原則として休日労働の割増賃金は不要です。ただし、振替により週の法定労働時間を超過した場合は、超過分に対して25%以上の割増賃金が生じます。

なお似たような言葉に代替休暇があります。これは月60時間を超える法定外残業をさせた場合に、通常の時間外割増に上乗せして支払わねばならない割増賃金(25%以上)の支払いに代えて、25%分に相当する有給休暇を与えることで、割増賃金の上乗せを免除するものです。

安衛法上の健康配慮義務もお忘れなく

過労死する男性医師

人事担当者でも意外と見落としがちなのが、労働基準法だけでなく、労働安全衛生法においても残業時間が制限されることです。労働基準法が法定労働時間違反と残業抑制のための上限であるのに対し、労働安全衛生法は労働者への健康配慮義務にもとづく制限です。

まず従業員が50人以上の事業場(病院等)では、事業者(事業主、使用者)は、時間外・休日労働の合計が月80時間を超えた労働者について、自院が選任した産業医へ、該当する労働者の勤務実績を報告しなければなりません。

また、従業員数の多寡にかかわらず、前述の労働者が体調不良を訴え、医師面談を希望した場合には、事業者は医師による面接指導を実施し、医師の報告にもとづいて、適切な就業上の配慮を行う義務が定められています。

労働基準法の労働時間管理は管理職などには適用されませんが、労働安全衛生法の場合は管理職も対象ですので、管理職であっても出退勤時のタイムカード打刻は必須です。ただし割増賃金の支払いは労基法上のルールなので、管理職等への割増賃金の支払義務は発生しません。

労働生産性向上こそが経営存続のカギ

活気ある医療職たち

令和6年4月1日からは、医師の労働時間の上限規制の特例措置も終了し、他の業種と同様に厳格なルールが適用されます。月80時間という時間外・休日労働の合計時間は、過労死ラインの目安と一致しており、労働者の健康を脅かす重大なリスクとなります。

ワークライフバランスや時短推進が叫ばれるご時世、労働時間の長短で仕事の良し悪しを測る時代は終わりました。むしろ労働生産性向上に注力し、働きやすい環境を整備することが、優秀な人材を確保し、クリニックを発展させるために最も有効な人事戦略となるでしょう。

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  • この記事を書いた人

山口光博

社会保険労務士、人事部長経験者。かつて急性期病院の総務課長や系列クリニックの医事課長として勤務したこともある。歯科・歯科口腔外科の事務局も務め、医療機器や診療材料の購買、電カル&レセコン導入などを担当する。

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