就業規則の目的と効果とは?

就業規則の目的
就業規則は、労働基準法に定められている、いわゆる自院にカスタマイズされた就業ルールブックのことです。自院の就業規則は、労働基準法や男女雇用機会均等法などの労働法令に適合していれば、院長先生の任意で内容を決めることができます。
就業規則を定める主な目的は次の3つです。これら3つの要素を確立して労働トラブルを防止し、自院の経営を安定させることで、結果的に良質な歯科診療サービスを、患者さんや地域社会に対して持続的に提供することができるようになるのです。
- 労働条件の明確化による労使トラブル防止
賃金、労働時間、休日、休暇など、働く上での基本的なルールを明確にし、従業員全員に公平に適用することで、無用な誤解や不満を防ぐ - 職場秩序の維持とクリニック運営の安定化
遅刻・欠勤、ハラスメント、個人情報漏洩などの禁止行為や服務規律を定めることで、職場のモラルを健全に保ち、診療の質を向上させる - 労務コンプライアンスによる法的リスク回避
労働基準法や労働安全衛生法など、労働関連法令に準拠した自院の人事ルールを明文化し、事業主に課せられたコンプライアンスを果たす
就業規則の効果
経営マネジメントとは、限りある経営リソース(ヒト・モノ・カネ)を効果的に運用しつつ、利益の極大化を追求することです。医療業は公益性が強く非営利が原則ですが、適正利潤を確保しないことには医療経営を維持できませんので、やはり経営マネジメントは不可欠です。
医療業は労働集約型産業で、医療従事者や事務員の質が診療サービスや医療経営の質に直結しますが、経営リソースのうち、人材ほど育成に時間と労力を要し、不確実性の高いものはありません。しかし就業規則を定めることで効果的かつ安全に人材を活用できるようになります。
<就業規則の3つの効果>
- 公平性の確保
全ての従業員に対する公平な取り扱いの基準を確立します。属人的な人事評価を防ぎ、誰でも平等に有給休暇や育児休業を取得できるようになります。またその結果、従業員満足度や定着率が向上します。 - 職場秩序の維持
規律違反に対する抑止力とないトラブル発生時の適正な対処を可能にします。懲戒ルールを規定することで、従業員はルール違反を認識し、問題行動を慎むようになり、無用なトラブルも回避できます。 - 管理コスト削減
採用から退職までの手続きを標準化することで、管理業務の負担を軽減できます。入退職や休職のたびに、どのように処理すべきか検討する手間が省け、相談や問い合わせへの対応もスムーズになります。
歯科クリニックに就業規則は必要なのか?

就業規則作成義務のある事業場
労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する事業場について、就業規則の作成と所轄の労働基準監督署への届出を義務付けています。一方、厚生労働省の医療施設調査(令和5年版)によると、平均的な歯科クリニックの従事者数(事務職含む)は5名となっています。
従って多くの歯科クリニックでは就業規則を作成する法的な義務はありません。実際のところ医療業に限らず多くの小規模事業者は就業規則を定めることを嫌がります。その理由は色々あるでしょうが、法的な義務がないとはいえ、果たして本当にそれで良いのでしょうか?
就業規則を定めないことによるリスク
長年人事部で勤務してきた当方の経験から申し上げると、就業規則を定めていないと次のような経営リスクが顕在化します。特に国家資格者を中心とした専門職集団の医療業においては、就業規則の不備が事業継続の根幹にかかわる深刻な事態を招いてしまうこともあります。
1.労働トラブルや紛争リスクの増大
- 解雇・懲戒処分の無効化リスク
解雇や懲戒処分(減給、出勤停止など)は、原則として就業規則にその根拠となる事由や種類が明記されていないと、正当性が認められません。特に問題行動を起こした従業員に対して適切な対応ができず、職場秩序の維持が困難になります。 - 労働時間・賃金をめぐる紛争
残業代の計算方法、休憩時間、休日、年次有給休暇の取得ルールなどが不明確になり、労働条件通知書にも一貫性がなくなります。院長先生と従業員との間に労働条件に対する認識の不一致が生じ、賃金未払いなどの訴訟リスクが高まります。 - 休職・復職をめぐるトラブル
私傷病による休職要件・期間あるいは復職時の手続きや判断基準が定まっていないと、復職判断を誤って労災に移行したり、休職期間満了時の扱いをめぐってトラブルに発展しやすくなります。通報により監督官の臨検を招く場合もあります。 - ハラスメント、情報漏洩、副業などの管理不能
禁止事項や罰則、社内の手続きが明確でないため、従業員の不適切な行為(ハラスメント、個人情報漏洩、過度な副業による本業への支障など)に対する抑止力や対処法がなくなり、院長先生であっても人事マネジメントが制御不能に陥ります。
2.労務管理の非効率化とコスト増加
- 統一的な服務規律の欠如
従業員ごとに適用されるルールが異なったり、認識にズレが生じたりして、公平な人事管理が難しくなります。遅刻・早退時の減給計算や有給休暇の取得について、従業員あるいは時期によって扱いにバラつきが生じると、職場の雰囲気が悪化します。 - 人事評価・給与計算基準の不明確化
昇進・昇給・降格の基準、人事評価の基準などが不明確なため、属人的な判断になりやすく、従業員の不満や不信感を招きます。勤怠管理や給与計算の基準が曖昧になり、毎月の処理に余計な時間がかかるのみならず賃金未払いのエラーも生じます。 - 従業員からの問い合わせ対応の非効率化
従業員からの休暇や労働条件に関する問い合わせに対して一貫性のある回答が困難になり、その都度、院長先生が個別に判断する手間が発生します。問い合わせに対する回答に一貫性や整合性がないと、従業員の間に経営層に対する不信感が募ります。
3.企業イメージと人材への悪影響
- 優秀な人材の獲得が困難に
ルールが不明確でトラブルが多発している組織は、社会的な信用を失い、優秀な人材から敬遠されます。ハローワークや民間の人材紹介会社に求人を依頼しようとする場合も、法令に準拠した採用条件を明示できないと、求人の取り扱いを拒否されることもあります。 - 離職率の上昇・モチベーション低下
ルール不在は「会社への不信感」や「不公平感」につながり、従業員のモチベーションの低下や離職率の上昇を招く可能性があります。普段の勤務において、評価される行動と処罰される行動がわかりづらいため、従業員は常に院長先生の顔色を伺うようになります。
4.民事上の損賠賠償リスク
- 安全配慮義務違反
労働契約法は、従業員が安全で衛生的に就労できるような職場環境を整備し、維持することを使用者に義務付けています。この違反に対する罰則はありませんが、安全配慮義務違反によって労災事故が生じた場合、経営者が損害賠償責任を負う可能性があります。
労働基準法と就業規則の大きなちがい

法的効力の優先順位
労働者を使用する際に、労使間に適用されるルールには、労働基準法や就業規則、労働契約書などがありますが、これらの優先順位は効力の大きい順番に次のようになっています。
労働基準法>就業規則>労働契約
この順位によると、就業規則に適合しない労働契約は無効であり、労働基準法に適合しない就業規則は無効であるということです。なお労働基準法は使用者に対する禁止事項や遵守事項を定めたものですが、就業規則は従業員の就業ルールであることをよく認識しましょう。
就業規則は事業者を守る盾だ!
つまり労働基準法が労働者を1人でも使用する事業者に対して強制的に適用される法令である以上、院長先生をはじめとする事業主の側においても、就業規則を定めておくことで、労使それぞれの権利と義務のバランスを保っておく必要がある…といえなくもありません。
こういった法的な構造を考えると、従業員が10人未満だからといって就業規則を作成しないというのは、歯科クリニック経営において極めてリスキーなことです。正規の手続きにより定められた就業規則は法規範性を備えるので、作成しないという選択肢はありえないでしょう。
最後にもうひとつ付け加えると、院長先生が自院の従業員に対して業務命令権を行使するには、就業規則に服務規律を明記し、従業員に周知させておく必要があります。就業規則の根拠なしに業務命令権や懲戒権、解雇権を行使することはできませんのでご注意ください。
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