
復帰スタッフの社会保険料適正化が重要な理由
産前産後休業や育児休業を取得していたスタッフが職場に復帰するのは、歯科クリニックにとって非常に喜ばしい出来事です。
しかし、育児のために時短勤務や時間外労働の免除などを行い給与が下がると、休業前の社会保険料の金額と実際の報酬額がかけ離れてしまうケースがあります。
このような状況を解決するために、産前産後休業や育児休業を終了した際に標準報酬月額を変更できる制度が設けられています。
この手続きを適切に行うことで、復帰したスタッフの社会保険料負担を軽減し、安心して働き続けられる環境を整えることができます。
本記事では、この制度の概要と具体的な手続きの流れについて、歯科クリニック向けに分かりやすく解説します。
産前産後休業・育児休業終了後の社会保険料の特例とは?
制度の目的と仕組み
産前産後休業や育児休業から復職した後、時短勤務など育児等のために休業前より給与額が下がることは珍しくありません。
そのような場合に、社会保険の標準報酬月額を実際の給与額に見合った金額へ改定できるのが、この「産前産後休業・育児休業終了後の社会保険料の特例」です。
この制度により、健康保険料・厚生年金保険料が適正な額となり、復職したスタッフの経済的負担を軽減することができます。
対象者の条件
- 産前産後休業終了時:産前産後休業終了日に、その休業の対象となった子を養育している被保険者
- 育児休業等終了時:育児休業等終了日に3歳未満の子を養育している被保険者
この制度は健康保険および厚生年金保険を対象としているため、国民健康保険(国民健康保険組合含む)・国民年金は対象となりません。
改定の要件
標準報酬月額を改定するには、以下の両方の条件を満たす必要があります。
- これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じる
- 休業終了日の翌日が属する月以後3か月間のうち、少なくとも1か月における支払基礎日数が17日以上1であること
- 特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上 ↩︎
なお、固定給の変動に伴う通常の標準報酬月額の改定とは要件が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
届出のメリットとリスク
メリット
- スタッフ・クリニック双方の社会保険料負担が軽減される
- 給与額と社会保険料のバランスがとれ、スタッフの安心感が高まる
リスク
- 手続きを怠ると給与額に見合わない過大な社会保険料負担が継続される
手続きの流れ
産前産後休業終了時と育児休業終了時では使用する様式が異なりますが、手続きの流れは基本的に同様です。
提出期限
制度の対象となるスタッフから申し出があった時、速やかに提出します。
この手続きはスタッフからの申出に基づいて行うこととされていますが、制度を知らないスタッフがいることも考えられるため、クリニック側から案内することをお勧めします。
提出先
クリニックの所在地を管轄する日本年金機構事務センターもしくは年金事務所へ、郵送もしくは窓口持参で提出します。
また、電子申請による提出も可能です。
健康保険組合(東京都歯科医師健康保険組合など)に加入している場合は、年金事務所に加え、ご加入の健康保険組合にも算定基礎届を提出する必要があります。
必要書類
産前産後休業終了後と育児休業終了後で使用する様式が異なります。
なお、どちらのケースも添付書類は原則として不要です。
- 産前産後休業終了時:「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業終了時報酬月額変更届」
- 育児休業等終了時:「健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届」
クリニック(事業主)が電子申請で手続きを行う場合は、「事業主を代理とする旨の委任状」の添付が必要です。
様式の入手先
申出書の様式は、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
同サイトには記入例も掲載されているため、記入の際に参考にするとよいでしょう。
手続きのポイントと注意点
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の手続きを忘れずに
育児休業等終了時の手続きとあわせて、厚生年金保険の「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」の手続きを忘れずに行いましょう。
この特例措置により、3歳未満の子を養育する期間中に給与が下がっても、将来の年金額は休業前の給与額に基づいて計算されるようになります。
改定後の標準報酬月額と適用時期
改定後の標準報酬月額は、休業終了日の翌日が属する月以後3か月間(支払基礎日数が17日未満の月は除く)に受けた報酬の平均額に基づいて決定されます。
この標準報酬月額は4か月目から適用開始となり、給与から控除する社会保険料は5か月目から変更となります。
- 【例】復職日が8/10の場合
- 8月~10月の報酬の平均額により、改定後の標準報酬月額を決定。
- 改定後の標準報酬月額は11月から適用され、社会保険料の金額は12月に支払う給与から変更。
国民健康保険組合に加入している場合
国民健康保険組合に加入している場合でも、厚生年金保険に加入していれば、その保険料について月額変更届の対象となりますので、忘れずに手続きを行いましょう。
事務手続きは専門家にお任せください
産前産後休業・育児休業終了時の標準報酬月額変更届は、復帰スタッフの経済的負担を軽減する重要な手続きですが、要件の判定や書類作成には専門知識が必要です。
歯科クリニックの院長先生にとって、日々の診療業務に加えてこうした複雑な事務手続きを正確に行うのは大きな負担になることでしょう。
当事務所では、歯科クリニックに特化した社会保険労務士として、こうした事務手続きを代行し、院長先生が本来の診療業務に集中できる環境作りをサポートしています。
月額変更届の手続きだけなどスポットでのご依頼から継続的な労務管理まで、幅広くご相談をお受けしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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