はじめに

社労士の山口です。私は社労士として独立・開業する前に、およそ7年の間、2つの医療法人グループにおいて、人事マネジメントの実務に携わってまいりました。そしてその時に気になったのは、医療業界において休憩時間が適正に管理されているのか?ということでした。
患者さんの生命と健康をお預かりする医療現場において、医療スタッフをはじめとする従業員の休憩時間をどのように位置づけ、適正に管理していくべきかということは、経営の安定と質の高い医療サービスの提供に直結する重要なテーマです。
そこで本日は、私の医療業界時代の経験と社労士としての専門的識に基づき、歯科クリニックにおける休憩時間の適正な管理について、院長先生方にぜひ知っておいていただきたい法律知識と運用のノウハウなどをお届けいたします。
適正な休憩管理が医療の質を担保する

医療従事者は、一瞬の判断ミスが患者さんの生命や健康に直結するため、常に強い緊張感に晒される専門職です。特に歯科診療においては、狭い口腔内において高度な手技と精密な治療が要求されるため、数ある診療科の中でも疲労が蓄積されやすい診療群に入るでしょう。
午前中の診療で難易度の高い処置をこなしたために過度の疲労やストレスが蓄積した場合、充分な休憩を取らず、午後からの業務にそれらのネガティブな要素をそっくりそのまま引きずってしまうと、結果として予期せぬ医療過誤を招くリスクが高くなります。
労働基準法の定めによって事業主には労働者に休憩を与える義務があります。一方で適切な休憩はスタッフの心身をリフレッシュさせ、集中力と判断力を回復させるための必要不可欠な措置でもあります。単なる法令上の義務ではなく、医療の「質」を担保する基盤なのです。
したがって職員が安心して、自発的に休憩時間を取得できる職場環境を整備することは、院長先生の大切な責務の一つだと言えるのではないでしょうか。質の高い医療サービスを地域社会に提供し続けるためにも、本記事にて休憩の意義を再認識していただけると幸いです。
医療業界に根強く残る休憩しづらい空気

私自身、かつて医療機関の労務管理を担当していた経験から申し上げますと、いくつかの現場では、法定の休憩ルールが適正に遵守されていない、あるいは形骸化している…と思わざるを得ない、残念な事例が散見されました。
「患者様を待たせてはいけない」「診察時間内に仕事を終えねばならない」といった責任感、あるいは「滅私奉公」を旨とする職場風土が、スタッフに「休憩は悪」という無言のプレッシャーを与えているのではないかと思ったりもしましたが、実際のところはどうでしょうか…。
また事務スタッフの場合、昼休み中に電話当番(診療予約)や来客案内(MRや医療機器メーカーの営業など)をさせられている事例は珍しくありません。お昼休みとは完全に名ばかりで、実態は業務の合間に慌てて昼飯をかきこむ…といった職場は少なくないはずです。
このような「休憩時間の不適正な運用」は、未払い賃金の問題だけでなく、スタッフの健康被害やモチベーションの低下を招き、結果として離職率の上昇という経営リスクに繋がります。もし可能であれば、自院の休憩の実態を調査し、コンプラチェックすることをお勧めします。
労働基準法における休憩の原則と例外

休憩時間の原則
労働基準法第34条では、事業主や使用者に対し、法令に定める方法によって労働者に休憩時間を与える義務を課しています。その基本となるルールは次の3つです。
- 休憩時間の原則
労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えること - 一斉付与の原則
休憩時間は全ての労働者に一斉に与えること - 自由利用の原則
休憩時間は労働者に自由に利用させること
休憩時間の例外
- 休憩時間の原則
農業や水産業、管理監督職(始業と終業および休憩の時間を自己の裁量で自由に決定できる立場の者に限る)、機密の事務を取り扱う者(社長秘書等)、監視または断続的労働に従事するものは、労働時間および休憩に関するルールは適用されません。 - 一斉付与の例外
運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、郵便通信業、保健衛生業、接客娯楽業などは一斉付与の例外(交代で休憩を取得)が認められています。なおこれらの業種であっても未成年者(学生バイト等)は一斉付与が適用されます。
休憩に関するよくある誤解

休憩時間の管理において、使用者が勘違いしやすいのが休憩時間に対する捉え方です。冒頭でも述べましたが、お昼休みに電話番や来客対応などの「待機」を命じられている時間は、休憩時間を与えたことにならず、労働時間とみなされます。
たとえ院長先生が「電話応対する時以外は自由に過ごしてよい」と伝えても、いつかかってくるかわからない電話のために、自由に外出できないような時間は休憩時間とは認められません。昼休みのついでに事務員に電話番をさせるケースは、最も多い誤解の一つです。
次に従業員の側に多い勘違いですが、自由利用の原則の「自由」とは、休憩時間中は一切の業務から解放される自由をいうのであって、休憩時間中だからといって、就業規則や服務規律から逸脱するような行動の自由(=好き勝手な行為)まで保証するものではありません。
また制服を着用したままお弁当を買いに近所のコンビニなどに出かけるような行為も慎むべきです。制服を着て外出することで、院内に感染リスクをもたらす恐れがあるばかりではなく、職場を特定されることで、カスタマーハラスメントを招き寄せてしまうこともあります。
まとめ

法令に則った休憩時間の付与は、労務コンプライアンス違反を回避できるのみならず、スタッフの心身の疲労を回復し、診療サービスの質や生産性を向上させます。休憩時間の管理を通して公私の別を明確に区別することで、内部不正を防止する効果も期待できます。
休憩時間の管理は時間外労働や年次有給休暇に比べて些細な論点かもしれません。しかし昔から一事が万事と申します。また職場の信頼関係はこういった小さなルールの遵守を積み重ねることによって醸成されるものです。もし自院の運用で不安などあればお気軽にご相談下さい。
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