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03_賃金計算

給与計算

2024年9月15日

給与計算のアイキャッチ画像

給与計算の流れ

給与計算の構造

給与計算の流れをマスターするには、給与明細から給与計算の構造を把握するのが近道である。給与明細は概ね下表のような構成となっているが、要するに給与計算とはこれらの金額をそれぞれ計算し、支給額から控除額を差し引いた残りの額を、給料日までに従業員の指定する金融機関の口座に振り込む一連の作業をいう。

支給額には、賃金改定が無い限り毎月の支給額が決まっている固定給と、残業代などのように月々の勤務実績に応じて支給額が変わる変動給がある。また控除額にも、社会保険料や税金のように法令によって給与から控除することが義務付けられている法定控除と、労使協定を締結することで企業が任意で控除できる法定外控除がある。

給与計算の流れ

今日では、給与の支払いを金融機関口座への振り込みで行うのが一般的である。ゆえに給与計算事務の段取りは、まず当月の給与支給日を決めることから始める。給与支給日を決めたら、次に金融機関への給与資金の送金日を確認する。通常は給与支給日の2営業日前までに送金することになっているので、あらかじめ管理部長と経理担当者に当月の日程を連絡しておく。

給与資金の送金日が決まったら、差し引き支給額の確定期限、控除額の確定期限、支給額の確定期限、勤怠実績の締切日を、それぞれの作業に要する時間から逆算して決定する。各部署の勤怠実績を締め切るにはその部署の所属長の承認が必要なので、勤怠実績の締切日が決まったら、社内ポータルサイトなどを通じて速やかに全社員にアナウンスしなければならない。

なお労働基準法や自社の就業規則を正しく理解していない管理職がいる場合は、管理職研修などを行って、勤怠管理の基本知識をしっかりと教育しておかねばならない(そもそも労働基準法や就業規則を知らない者に、部下のマネジメントをさせるべきではない)。

労働基準法の賃金支払5原則のひとつに「毎月一定期日払の原則」があるが、ここでいう当月の給与支給日の決定とは、本来の給与支給日が土日祝日など金融機関の休業日にあたる場合に、具体的な代替日を決めることを意味する。

給与計算の内容

固定給の確定

固定支給額の代表的なものは、基本給、役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当などであるが、これらの額は人事異動による賃金改定もしくは扶養家族の増減、転居による通勤経路の変更等が無い限り、毎月の支給額は変わらない。ゆえに給与計算ソフトの固定給欄は前月の金額が自動的にコピーされる設定になっており、給与担当者は変更があった箇所のみ改定する。

固定給のチェックを漏れなく行うポイントは、人事異動の発令に先駆けて給与担当者へ人事異動データを共有すること、また家族手当、住宅手当、通勤手当の支給要件に変更があった場合の届出ルールを就業規則に明記し、従業員に周知徹底させることである。

経営者の思いつきで不定期な人事異動が頻繁に行われ、従業員が好き勝手なやり方で届出を行ったりすることが常態化しているような組織では、給与担当者が疲弊してしまうばかりではなく、給与計算ミスが多発する傾向がある。

変動給の確定

変動給は時間外勤務、休日勤務、深夜勤務などに対する割増手当や、欠勤や遅刻早退など不就労時間に対する賃金控除である。割増手当の計算は労働基準法に準じて行うが、控除の方法については減給制裁を除いて労働法令に特段の定めがないため、平均賃金などをベースにあらかじめ就業規則において控除を行う場合および控除する際の単価を決めておく。

なお欠勤や遅刻早退分について、固定給を日割り計算して減額するようなことはしない。固定給を頻繁に変更すると、翌月の給与計算の時に、減額前の額に戻し忘れるといったエラーを誘発してしまうため、固定給は賃金や手当の改定が無い限り変更せず、不就労や懲戒処分もとづく賃金の減額は、あくまでも変動給(マイナス支給)において行うものとする。

欠勤や遅刻早退に対する減額調整を行うものを日給月給制、減額調整を行わないものを完全月給制という。また月給制の場合、例えば固定給は末日締め切り当月25日払い、変動給は末日締め切り翌月25日払いなどとすることが多い。

法定控除の確定

法定控除は健康保険料、介護保険料(40歳以上)、厚生年金保険料、雇用保険料、源泉所得税、個人住民税の5種類であり、控除の対象者と控除する額の計算方法は、それぞれの法令において具体的に定められている。

<社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)>
・計算方法
 従業員の標準報酬月額に応じた保険料のうち、従業員負担額を翌月の給与で控除する。
・納付方法
 従業員負担額と事業主負担額を合算して、月末までに年金事務所に納付する。
・参考サイト
 令和6年度 都道府県別標準報酬月額表(協会けんぽ)
 ※協会けんぽ管掌の健康保険の場合、健康保険の料率は都道府県ごとに異なる
<労働保険料(雇用保険料)>
・計算方法
 給与支給額に雇用保険料率を乗じて得た額のうち、従業員負担額を当月の給与で控除。
・納付方法
 労働保険年度更新の時に、従業員負担額と事業主負担額を合算して納付する。
・参考サイト
 令和6年度の雇用保険料率について(厚生労働省)
※労災保険料は事業主が全額負担するため給与計算において考慮する必要はない。
<源泉所得税>
・計算方法
 源泉徴収税額表をもとに毎月概算額を控除し、年末調整で確定した年税額と相殺する。
・納付方法
 給与控除した額を翌月10日までに税務署に納付する。
・参考サイト
 令和5年分 源泉徴収税額表(国税庁)
<個人住民税>
・計算方法
 市町村役場の納税通知書をもとに6月から翌年5月にかけて月々の給与から控除する。
・納付方法
 給与控除した額を翌月10日までに市町村に納付する。
・参考サイト
 税額の算出方法 個人住民税(札幌市)

住民税は前年の年末調整の結果(市町村給与支払報告)をもとに税額を決定し、翌年の6月から翌々年の5月にかけて徴収する仕組みになっている。つまり前年度の課税所得の無い新卒者などの場合、住民税が控除されるのは入社2年目からとなる。

法定外控除の確定

法定外控除の代表的なものには、勤労者財形貯蓄の積立金や企業型確定拠出年金のマッチング拠出金、個人型確定拠出年金の掛け金などがあるが、これらを給与から控除するには、事業場ごとに労働者の過半数代表者を選出して労使協定(賃金全額払いの例外協定)を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければならない。

なお社内預金の積立金や親睦会費などを給与から控除している企業は少なくないが、雇用を条件とした社内預金や親睦会費の強制は、労働基準法で禁止されている。また自社商品の購入代金を給与控除で支払うような運用も、購入代金が高額になると支払遅延や回収不能など、給与担当者が余計なイレギュラー対応に忙殺されることがあるため推奨しない。

給与資金の送金

最近はインターネットバンキングで給与振込を行うことが一般的だが、給与の水増し支給などの内部不正を防止するため、給与計算の担当者(人事部門)と給与資金の送金担当者(経理部門)を別々にし、またそれぞれの部門においても複数担当制にして、担当者が相互にチェック&フォローできる体制とするのが企業ガバナンスのセオリーである。

給与明細の配布

かつては給与明細書の印刷→封緘→各事業場への発送は給与担当者にとってひと仕事だったが、最近は多くの職場でペーパーレス化が進み、給与計算ソフトと連動したWeb給与明細システムの普及により、従業員個人のスマホから閲覧したり、コンビニプリントなどを介して手軽に明細書を印刷したりできるようになった。

賃金台帳の調製と保存

労働基準法では給与を支給する都度、全ての労働者の賃金台帳を調製し、5年間(当面は3年間)保存することを義務づけている。一方で賃金は税法上の税務書類にも該当し、税法においてはこれらの書類の法定保存期間を7年間としていることから、賃金台帳についても人事部門もしくは経理部門で7年間保存するのが望ましい。

給与計算に関するサービス

給与計算ソフト

給与計算ソフトは製品によって重視する機能が異なるため、自社の従業員数や賃金体系、勤務形態に適したものを選ぶ必要がある。

ただしシステムベンダーの担当者は総じて労働法令や税務に詳しくないため、給与計算のプロだと思って任せきりにすると、使い勝手の悪いシステムを売りつけられる恐れがある。よって実務に精通した社外専門家にアドバイザリーを依頼するのがよい。

勤怠管理システム

労働基準法施行規則では、労働者の勤怠実績は使用者の現認による方法でも良いとしているが、労働安全衛生法施行規則では、勤怠管理は改ざん不可能なシステムを利用して、客観的な勤怠データを収集することを事業主に義務付けている。

また36協定を締結しても、時間外労働には原則として月45時間、年間360時間、1〜6ヶ月間においてそれぞれの平均が80時間以内という上限時間が定められているが、全ての従業員の残業実績と上限時間とのチェックを行うには、勤怠管理システムの導入が不可欠である。

給与計算アウトソーシング

給与計算アウトソーシングサービスはお勧めしない。これらの業者の多くは契約獲得のために、素人のアルバイトの寄せ集めて給与計算をさせることで低廉な価格を謳っているが、顧客側に膨大な検算の手間が生じるため、結局のところ自前で処理するのと何ら変わらない。

また賃金体系や勤務形態の変更があるたびに、アウトソーサーと綿密な打ち合わせが必要となり、これらの変更がスタッフレベルでミスなく安定して処理できるようになるまで数ヶ月の期間を要することがあるため、むしろ給与計算を内製化した方がコスパが良いと思われる。

給与計算のまとめ

給与計算のエラーが減らない理由

給与計算ミスが減らないと嘆く経営者が見落としがちな視点として、自社の賃金体系が複雑怪奇でなおかつ手当の支給要件が曖昧となっていることがあげられる。また経営幹部が古参の部下の機嫌を取るために、お手盛りで規定外の手当を乱発してしまったりなど、給与担当者の努力では改善できない経営的な要素が多分に存在するケースは少なくない。

これは給与計算以外にも共通するが、仕事のできない人ほど物事を複雑にして本質を見えにくくしてしまうものである。しかしアメリカの臨床心理学者のハーズバーグが提唱したように、賃金制度をこねくり回したところで、従業員の不満を解消することはできても、勤め先に対する忠誠心や仕事に対するモチベーションを上げる動機づけにはならない。

給与計算から人事管理の巧拙が見える

これまで給与計算に問題を抱えるいくつかの企業で業務プロセス改善を行った経験から申し上げると、その企業の給与計算の実情を見れば、だいたい経営者や幹部クラスの人事マネジメントに対する考え方やスキルの巧拙が見えてくるものである。

たしかに報酬制度は人事戦略の要だが、前述のとおり不満解消の要素に過ぎないという学説も存在する。むしろ給与計算は労使の信頼関係の基本であるだけに、給与計算ミスによって従業員の不信感や不満を煽ってしまうリスクがある。ゆえに給与計算においてまず何を最優先とすべきか、特に給与計算がうまくいっていない経営者は改めて考えてみる必要がある。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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