
はじめに:歯科クリニックにおける障害者雇用状況報告の義務
「障害者雇用状況報告書は、当院も提出しなければならないのだろうか?」
このような疑問をお持ちの院長先生や事務担当者の方もいらっしゃるかと思います。
結論からお伝えすると、スタッフが数人から十数人程度の単独クリニックであれば、多くの場合、提出義務の対象外となります。
ただし、複数のクリニックを運営する医療法人等の場合は、労働者数が法人単位で計算されるため、報告義務が生じる可能性があります。
また、現在は対象外であっても、将来の法人化や増員を見据えて制度の概要を理解しておくことは、クリニック経営において決して無駄にはなりません。
この記事では、障害者雇用状況報告書の概要と報告の流れを、歯科クリニック・歯科医療法人の実態に即してわかりやすく解説します。
障害者雇用状況報告の概要
制度の趣旨
障害者雇用状況報告は、障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の事業主に対して、毎年の障害者雇用状況を厚生労働大臣へ報告することを義務付ける制度です。
この報告は、国が障害者の雇用実態を把握し、今後の施策を検討するための基礎情報として活用されるほか、ハローワークが事業主に対して助言や指導を行う際の根拠ともなります。
報告義務の対象となる事業主
障害者雇用状況報告が義務付けられているのは、常用雇用労働者数が40.0人以上の事業主です。
ここでいう「常用雇用労働者」とは、週所定労働時間が20時間以上で、かつ1年を超えて雇用される(見込みを含む)労働者をいいます。
なお、週の所定労働時間に応じて、以下のようにカウントします。
- 週所定労働時間が30時間以上の者:1人につき1.0人
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の者:1人につき0.5人
独立行政法人などの一定の特殊法人については36.0人以上が基準となりますが、歯科クリニックには通常関係しないため、以下では40.0人以上を前提に解説します。
歯科クリニックの場合
歯科クリニックが属する医療業については、常用雇用労働者数を計算するにあたって20%の除外率が適用されます。
除外率とは、業種の特性上、障害者の就業が困難とされる職種の割合を考慮し、報告義務の判定基準となる常用雇用労働者数から一定数を控除できる仕組みです。
この除外率を適用した場合、歯科クリニックでは常用雇用労働者数が49.0人以上のときに報告義務が生じます。
そのため、スタッフが数人から十数人程度のクリニックであれば、多くの場合は対象外となります。
一方、常用雇用労働者数は法人単位で算定するため、複数のクリニックを運営する医療法人は注意が必要です。
法人内の各クリニックの常用雇用労働者数を合算した合計が49.0人以上となる場合は、報告義務が生じます。
【具体例】3つの歯科クリニックを運営する医療法人の場合
- Aクリニック:常用雇用労働者数=19.5人
- Bクリニック:常用雇用労働者数=18.0人
- Cクリニック:常用雇用労働者数=12.0人
- 法人全体の常用雇用労働者数=19.5人+18.0人+12.0人=49.5人
- 除外率適用による控除数=49.5人×0.2(除外率20%)=9.9人→9.0人(小数点以下切り捨て)
- 報告義務の判定基準となる数=49.5人-9.0人= 40.5人
→常用雇用労働者数が40.0人以上のため、この医療法人は「報告義務あり」となります。
障害者の法定雇用率引き上げに伴い、2027年6月の報告からは、常用雇用労働者数が37.5人以上(歯科クリニックの場合は46.5人以上)の事業主に報告が義務付けられる予定です。
障害者雇用状況報告の手順
報告の基準日と提出期限
毎年6月1日現在の状況を、6月1日から7月15日までの間に報告します。
提出先
クリニックの所在地を管轄するハローワークに報告します。
なお、複数のクリニックを展開する医療法人等は、各クリニックの状況を法人が取りまとめ、法人の所在地を管轄するハローワークへ一括して報告します。
報告様式
「障害者雇用状況報告書」の様式は、以下の方法で入手できます。
様式は変更されることがあるため、必ず最新のものを確認し、前年のものは流用しないよう注意しましょう
- ハローワークからの郵送
- 対象となる事業主には、5月下旬から6月上旬頃に管轄のハローワークから様式と提出案内が郵送されます。
- 厚生労働省ホームページからダウンロード
- PDF形式およびExcel形式で入手可能です。
- 電子申請で提出を行う場合は、専用のExcel様式を使用する必要がありますので、注意しましょう。
記入にあたっては、様式に同封または厚生労働省ホームページに掲載されている「記入要領」を参照してください。
提出方法
提出方法は、以下の3つから選択できます。
- 電子申請:e-GovアカウントまたはGビズIDを利用します。申請は毎年6月1日以降でないとできません。
- e-GovアカウントまたはGビズIDエントリーを使用する場合は電子署名が必要です(GビズIDプライムは不要)。
- 郵送:管轄のハローワーク宛てに郵送します。
- 持参:管轄のハローワークの窓口へ直接持参します。
添付書類
以下の特例認定を受けている事業主は、認定に係る確認書類を添付する必要があります。
- 特例子会社
- 関係会社特例
- 企業グループ特例
- 事業協同組合等特例
これらの特例を受けていない場合は、添付書類は不要です。
歯科クリニックでこれらの特例を受けているケースは多くないと思われますが、念のため確認しましょう。
よくある質問
複数のクリニックを運営する医療法人ですが、各クリニックごとに報告が必要ですか?
いいえ。報告は法人単位で行います。
医療法人が各クリニックの分を取りまとめ、管轄のハローワークに一括して提出します。障害者を1人も雇用していない場合でも報告が必要ですか?
はい、必要です。
報告義務のある事業主は、雇用している障害者の数が0人であっても、報告書を提出しなければなりません。パートやアルバイトのスタッフも常用雇用労働者数に含まれますか?
週の所定労働時間が20時間以上のパート・アルバイトは常用雇用労働者としてカウントされます(ただし、1年を超えて雇用されている、又はその見込みがあることが条件)。
なお、週20時間以上30時間未満の場合は、0.5人分としてカウントされます。週20時間未満のスタッフは算出の基礎には含まれません。報告を行わなかったり虚偽の報告を行った場合、罰則はありますか?
障害者雇用促進法に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。期限内に正しい内容で提出できるよう、早めに準備を進めましょう。
今は対象外ですが、将来的にクリニックの法人化や増員を予定しています。いつ頃から障害者雇用状況報告の準備をすればよいですか?
常用雇用労働者が49.0人に近づいてきた段階で、制度の詳細を確認しておくことをお勧めします。
報告義務が生じるということは、法定雇用率に基づく障害者の雇用が必要になることも意味しますので、早めの検討が望ましいでしょう。
おわりに:将来の義務化に備え早めの確認を
障害者雇用状況報告は、スタッフ数が数人から十数人のことが多い歯科クリニックにとっては、対象外となるケースが多い手続きです。
しかし、複数のクリニックを運営する医療法人や、今後の増員を見据えている場合には、早めに制度を理解しておくことが重要です。
報告書の作成・提出、あるいは障害者雇用についてお困りの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。


