人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師や歯科衛生士など計12名が勤務する歯科医療法人です。この度、正社員として5年間勤務してきた歯科衛生士が、育児との両立のために働き方を見直したいと希望されました。
話し合いの結果、来月から「正社員」としての雇用契約を一旦終了し、同じクリニックで「有期契約の時短パート(週3日勤務)」として新たに契約を結び直すことになりました。
現在、電子契約システムや給与計算ソフトのマスターデータの更新作業を進めていますが、新たな雇用契約書を作成するにあたり、以下の3点について実務上の扱いを教えてください。
- 新しい契約書の「採用年月日」欄には、5年前の「最初の入社日」を記載すべきでしょうか。それとも、パートとして再契約する「来月の開始日」を記載すべきでしょうか。
- 雇用区分が「正社員」から「パート」へ変わることで、雇用保険や社会保険の資格は一旦喪失し、再取得の手続きが必要になりますか。
- 年次有給休暇の付与日数や退職金の算定において、正社員時代の期間はリセットされてしまうのでしょうか。
スタッフからは「パートになるとこれまでのキャリアが途切れてしまうのか」という不安の声も出ており、正確な事務処理と説明を行いたいと考えています。
ご相談への回答

歯科クリニックにおいて、育児や介護、あるいは定年再雇用に伴い、正社員からパートタイマー等へ「雇用区分」を変更するケースは非常に多く見られます。実務上、最も重要なのは「労働契約の継続性」と「システム上の管理日」を切り分けて考えることです。
「採用年月日」と「契約開始日」の記載方法
雇用契約書における日付の記載については、「最初の雇入れ日」を維持しつつ、書面上の契約期間の始期を「新たな労働条件での開始日」とするのが最も合理的です。
法的な「採用年月日」とは、あくまで最初に労使関係が生じた日(5年前の入社日)を指します。しかし、システム運用や電子契約の管理上、全ての契約書に一律に5年前の日付を入れてしまうと、今回の「雇用区分の変更」がいつ行われたのかが判別しづらくなります。
実務的な対応としては、雇用契約書に「雇入れ日:平成〇年〇月〇日(最初の入社日)」という項目を設けて勤続年数の通算を明示しつつ、今回の契約内容については「契約期間:令和〇年〇月〇日(再契約日)〜」と記載することをお勧めします。
社会保険・雇用保険の資格の継続性
同一のクリニックで1日の空白もなく勤務が継続している場合、原則として社会保険や雇用保険の資格を一旦喪失させる必要はありません。
- 健康保険・厚生年金保険: 実態として使用関係が中断することなく存続しているため、資格は継続します。ただし、正社員からパートへの変更に伴い、労働時間が「週の所定労働時間の4分の3未満」となり、かつ短時間労働者の適用要件(週20時間以上等)も満たさなくなる場合は、その時点で資格喪失手続きが必要となります。なお、報酬が著しく低下する場合は「随時改定(月変)」の対象となります。
- 雇用保険: 「週の所定労働時間が20時間以上」であれば、そのまま被保険者資格を継続します。離職票を作成するわけではないため、雇用区分の変更だけで手続きが発生することはありません。
※ただし、60歳以上の方が退職後即再雇用される場合に限り、年金額の即時改定を目的とした「同日得喪(資格喪失と取得を同日に行う特例)」が認められています。
勤続年数の通算管理(有休・退職金)
スタッフの方が最も懸念されている「これまでのキャリアのリセット」については、法律上、雇用区分の変更にかかわらず、全ての勤続年数は通算されなければなりません。
- 年次有給休暇: 労働基準法上の「継続勤務」として扱われます。例えば、正社員として5年勤務した後にパートへ転換しても、有給休暇の付与日数は「勤続5.5年」の区分(比例付与ならその週日数に応じた日数)で算定します。正社員時代の未消化分もそのまま引き継がれます。
- 退職金: 規程に別段の定めがない限り、正社員期間とパート期間を通算して算定するのが原則です。もし一旦精算して支払う場合は、税法上の「退職所得」としての取り扱いに注意が必要です。
実務上のアドバイス:月初の「1日」に統一する
契約変更のタイミングは、可能であれば「月の初日(毎月1日)」に統一することを強く推奨します。 中途半端な日付(例:15日付け等)で雇用区分を切り替えると、その月の社会保険料の算定や、給与計算における「日割計算」の発生、さらには月額変更届の判定期間などが非常に複雑になり、事務ミスを招く原因となります。1日付けでの更新に揃えることで、給与ソフトや社会保険の管理が格段にスムーズになります。
本件のポイント

- 「採用年月日(最初の入社日)」は通算管理のために維持し、契約書には「新たな契約期間の始期」を明記して区別する。
- 雇用区分が変わっても、実態として1日の空白もなく勤務が続く限り、社会保険・雇用保険の資格は原則として継続される。
- 年次有給休暇や退職金の算定根拠となる勤続年数は、正社員からパートへ変更になってもリセットされず、全期間を通算しなければならない。
- 事務手続きの煩雑さを避け、正確な月額変更届(随時改定)などを行うために、契約の切り替えは「月の1日」に設定するのがベストである。
スタッフの方には「雇用形態は変わっても、これまでの当院への貢献(勤続年数)は法的に守られている」ことを丁寧に説明し、安心して新しい働き方に移行できるよう配慮することが、定着率の維持につながります。
当サイトは診療所運営に関する法令や制度などを、できるだけ平易な表現で簡潔に解説することを目的としています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ処理願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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