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001_労働契約のFAQ

【就業規則適用】本院と分院で異なる規則。応援勤務時の実態と適用優先順位の注意点

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院は、都心にある「本院」のほかに、地方に「分院」を展開している歯科医療法人です。本院と分院では、地域の労働市場や求める役割が異なるため、それぞれ別個の就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出ています。

分院の就業規則は、主に地域に根ざした定型的な診療補助業務を想定しており、本院に比べて給与水準や手当の構成を低めに設定しています。一方、本院の規則は高度な専門性や分院の管理能力を求めるため、高い報酬体系となっています。

最近、人材確保の都合から、本来は「分院採用」として分院の条件で契約した歯科衛生士や事務スタッフを、長期にわたって本院の応援(実質的な異動)に出すケースが増えています。本人は分院所属のままですが、実際には本院のスタッフと同じ業務内容、同じ責任範囲で働いています。

事務長からは、「雇用契約上の所属が分院なのだから、分院の(低い)給与体系を適用し続けても問題ないはずだ」と言われています。しかし、現場からは「同じ仕事をしているのに給与が違うのはおかしい」という不満も出始めています。

以下の点について教えてください。

  1. 勤務の実態が本院にある場合でも、所属(契約)が分院であることを理由に、分院の就業規則を適用し続けることは法的に可能でしょうか?
  2. 実態と異なる規則を適用し続けることで、どのような法的リスクや実務上の問題が生じますか?
  3. 本院と分院で適切な労務管理を行うために、どのような改善策が考えられるでしょうか?

ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックにおいて、複数の拠点を展開する場合の人事管理は非常に複雑です。結論から申し上げますと、労働基準法における就業規則の適用は「事業場(場所)」単位が原則であり、勤務実態を無視して形式的な所属のみで規則を使い分ける運用には、法的なリスクが伴います。

就業規則適用の原則:事業場単位の考え方

労働基準法は、企業単位ではなく、工場や事務所、店舗など、独立性のある「事業場」を単位として適用されます。歯科クリニックの本院と分院が場所的に離れており、それぞれが独立して診療を行っている場合、それらは別個の事業場となります。

就業規則はその事業場で働く全労働者に適用されるローカル・ルールです。たとえ採用時の契約が「分院」であっても、応援勤務が一時的なものではなく、実態として本院の指揮命令下で常態的に勤務しているのであれば、法的には本院の就業規則が適用されるべきと判断されます。

想定される法的リスクと実務上の課題

実態と異なる低い報酬体系の規則を適用し続けることには、以下のリスクがあります。

  • 労働基準法違反のリスク: 本来適用されるべき本院の規則(より有利な条件)があるにもかかわらず、分院の規則を適用することは、実質的に本院の就業規則で定められた基準に達しない労働条件で働かせていることになります。これは労働基準法および労働契約法に抵触し、差額賃金の支払いを命じられる可能性があります。
  • 労働契約法(均衡考慮の原則)への抵触: 労働契約法第3条では、労働契約は「就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきもの」と定めています。同じ本院で同じ業務に従事しているスタッフ間で、合理的な理由なく所属だけを理由に処遇差を設けることは、この原則に反します。
  • 「同一労働同一賃金」への対応: 正社員間であっても、職務の内容や責任、配置の変更範囲が同じであるなら、不合理な待遇差は認められません。分院採用という「雇用身分」に近い理由のみで処遇を下げることは、法的な正当性を説明するのが困難です。
  • モチベーションの低下と離職: 実務上の最大のリスクは、スタッフ間の不公平感によるモラルの低下です。特に歯科衛生士のような専門職は横のつながりも強く、不合理な格差は優秀な人材の離職に直結します。

実務的な改善策の提案

本院・分院体制における合理的な人事制度を構築するために、以下のステップを推奨します。

  • 職務記述書(JD)の整備: 単なる場所の差ではなく、「本院での業務」と「分院での業務」で求められるスキルや責任にどのような差があるのかを明確に定義(職務要件定義)します。この「職務の差」こそが、待遇差を設ける際の唯一の合理的根拠となります。
  • 応援・異動に関するルールの明文化: 就業規則に、本院から分院(あるいはその逆)への応援勤務に関する規定を設けます。「一定期間を超える応援の場合は、異動先の規則を適用する」あるいは「応援手当により格差を調整する」といった、実態に即したルール作りが必要です。
  • 「地域手当」等の導入による調整: 基本給の体系を統一した上で、物価水準や住宅事情の異なる地域での勤務に対し「地域手当」などの名称で差を設けることは、合理的な区別として認められやすい手法です。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 労働基準法上の就業規則は、形式的な所属ではなく「実際に働いている場所(事業場)」のものが適用されるのが原則である。
  • 勤務実態が本院にあるスタッフに、合理的な理由なく低い分院の条件を適用し続けることは、労働契約法の「均衡考慮の原則」に抵触するリスクがある。
  • 「同一労働同一賃金」の観点からも、職務内容や責任に差がないのであれば、所属のみを理由とした待遇格差は不合理とみなされる可能性が高い。
  • トラブルを防ぐためには、職種や役職ごとの役割(JD)を再定義し、実態に即した人事異動や給与調整のルールを整備することが不可欠である。

歯科クリニックの多店舗展開において、ガバナンスとコンプライアンスを維持するためには、場所にとらわれない「職務に応じた公平な処遇」への転換が求められています。

当サイトは診療所運営に関する法令や制度などを、できるだけ平易な表現で簡潔に解説することを目的としています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ処理願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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