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005_労働安全のFAQ

【結核疑い】定期健診で「有所見」となった職員。精密検査の受診をどこまで強制できるか?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院は、歯科医師2名、歯科衛生士4名、歯科助手2名が勤務する歯科クリニックです。先日実施した職員の定期健康診断において、勤続5年の歯科衛生士(Aさん)の胸部エックス線検査の結果、「結核の疑い(有所見)」との判定が出ました。

診断書には「要精密検査」と記されており、産業医からも「万が一の院内感染のリスクを考慮し、確定診断が出るまでは診療業務から外すべきである」との助言を受けました。当院のような歯科診療現場では、タービンによる切削時に飛沫(エアロゾル)が飛散するため、もし結核であれば感染リスクが非常に高いと危惧しています。

院長としてAさんに「大きな病院で精密検査を受け、結果が出るまでは自宅待機してほしい」と伝えたところ、Aさんは「自覚症状はないし、病院へ行く時間もお金ももったいない。結果が出るまで休まされるなら、その間の給料はどうなるのか」と不満を露わにしています。

以下の点について、法的な見解を教えてください。

  1. 職員に対し、精密検査の受診をどこまで強制できるのでしょうか。拒否された場合に懲戒処分にすることは可能ですか?
  2. 結果が判明するまでの「自宅待機」期間中、給与(休業手当)を支払う必要はありますか?
  3. 精密検査に要する費用は、クリニック側が負担しなければならないのでしょうか?

ご相談への回答

できるビジネスパースン

医療機関において、スタッフが結核等の感染症に罹患している疑いがある場合、他のスタッフや患者様を守るための「安全配慮義務」と、当該スタッフの「労働権」や「プライバシー」とのバランスが問われます。

精密検査の受診命令と拒否時の対応

事業主は労働契約法上の安全配慮義務に基づき、労働者が安全で衛生的、かつ健康に就労できるよう職場環境を整備する義務を負っています。特に歯科現場では飛沫による感染リスクが高いため、感染症の疑いがあるスタッフに受診を命じることは、業務上の必要性があり合理的と判断されます。

スタッフには事業者が講ずる安全衛生措置に協力する義務があり、正当な理由なく受診を拒否し続ける場合は、就業規則の定めに従って懲戒処分(戒告、けん責等)の対象となり得ます。ただし、強制的な受診はプライバシー侵害となる恐れもあるため、まずは「医療従事者としての社会的責任」や「職場全体の安全確保」の観点から粘り強く説明し、納得を得ることが実務上の鉄則です。

自宅待機期間中の休業手当

ここが最も間違いやすいポイントですが、診断が確定する前の「疑い」の段階でクリニック側の判断により自宅待機を命じる場合、原則として平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う義務が生じます。

  • 確定前(自宅待機): 貴院の都合(感染拡大防止という管理上の判断)で休ませるため、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当します。
  • 確定後(就業制限): 検査の結果、実際に結核と診断され、保健所(都道府県知事)から感染症法に基づく就業制限や入院勧告が出された場合、その期間は「不可抗力」による休業となるため、クリニックに休業手当の支払い義務はありません。この期間、Aさんは健康保険の「傷病手当金」を申請することになります。

検査費用の負担

労働安全衛生法で義務付けられている「定期健康診断」の費用は事業者が負担しなければなりませんが、その後の「精密検査」については、直ちに法令で事業者に負担義務が課されているわけではありません。

しかし、今回のようにクリニック側が「安全管理上、受診しなければ業務に就かせない」と強く命じる性質の検査であれば、「健康確保措置」の一環としてクリニック側が費用を負担するのが適切であり、トラブル防止の観点からも推奨されます。


本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 感染症の疑いがあるスタッフへの受診命令は、安全配慮義務に基づき正当な業務命令として認められる
  • 「結核の疑い」の段階で自宅待機を命じる期間は、休業手当(6割以上)の支払いが必要である
  • 実際に結核と診断され、行政から就業制限がかかった後は、休業手当の支払い義務はなくなる
  • 正当な理由なき受診拒否は懲戒の対象になり得るが、まずは就業規則の整備と丁寧な説明による合意形成を優先すべきである
  • 精密検査の費用をクリニックが負担することで、受診のハードルを下げ、スムーズな確定診断と職場復帰につなげることが、結果として経営リスクの軽減になる

結核は二類感染症に分類され、早期発見と適切な対応が不可欠です。スタッフが安心して検査を受けられるよう、手当や費用のルールを明確に提示し、クリニック全体の安全を守る体制を整えましょう。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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