就業規則の目的と効果
就業規則の目的と効果
就業規則とは職場のルールブックであり、労働基準法に則って適法に成立した就業規則は労働基準法に準じる法規範性を有し、使用者と労働者には(就業規則に同意していない者も含めて)就業規則を遵守する法的な義務が生じる。
また上司が部下に対して行使する業務命令権は就業規則を根拠としている。よって36協定を締結しても、それは労働基準法違反に対する免罰効果があるだけであり、部下に残業を命令するためには、その旨を就業規則に定め、あらかじめ全従業員に周知しておかねばならない。
就業規則の作成義務
労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する事業主に対し、就業規則を定めて所轄の労働基準監督署に届け出ることを義務付けている。しかし従業員10人未満の事業場であっても、使用者が労働者を適切に管理監督するためには、就業規則に準ずるものを作成する必要がある。
他にも就業規則を定めることで労働条件と服務規律が明確になり、適正な勤怠管理、公平な人事評価、効果的な人材育成などを実施しやすくなる。結果的に労働者が安心感と納得感をもって働くことができる職場環境を確立し、良質な人材の定着が期待できる。
就業規則に記載すべき事項
就業規則に記載すべき事項には労働基準法で明示が義務付けられている絶対的必要記載事項と、事業場にルールや制度があれば記載しなければならない相対的必要記載事項、そして記載するかどうかはあくまでも事業主の任意とする任意的記載事項の3つがある。
絶対的必要記載事項
- 労働時間に関する事項(始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項)
- 賃金に関する事項(賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項)
- 退職に関する事項(退職の種類、退職の手続き、解雇となる事由など)
相対的必要記載事項
- 退職手当に関する事項(適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期)
- 臨時の賃金(賞与)及び最低賃金に関する事項
- 費用負担に関する事項(労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合)
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償もしくは業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
- 事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項
任意的記載事項(一例)
- 昇進昇格の基準と決定方法
- 人事評価の基準と実施方法
- 福利厚生の種類と利用方法
就業規則の作成方法
STEP1 素案を作成する
就業規則の草案を作成する際は、厚生労働省がリリースしているモデル就業規則を活用するのが最も効率的で安全である。まず現行の就業規則や慣習的に行われている自社の就業ルールを洗い出し、モデル就業規則の様式に当てはめ、あるべき姿と現状とのギャップを把握する。
STEP2 法定記載事項のヌケやモレをチェックする
現行の就業ルールとモデル就業規則を照合して明らかになったヌケやモレあるいは不整合を整理し、労働法令と照らし合わせながらコンプライアンス上の不備や不具合を修正する。可能であればこの作業は社会保険労務士など外部の専門家に相談した方が良い。
STEP3 役員会の承認を得る
就業規則はいったん施行されると、使用者と労働者の双方が規定に拘束されるため、役員会できちんと内容を説明し、他の役員達の承認を得ておく必要がある。また小売業などの労働集約型産業の場合、販売部門の事業部長らの合意を得ておくと、その後の導入がスムーズにゆく。
STEP4 労働者の過半数代表者から意見書を取得する
就業規則は事業場ごとに適用されるため、本部や店舗、配送センターなどにおいて、選挙や互選による方法で労働者の過半数代表者を選出してもらい、就業規則の内容に対する意見書を提出してもらう。なお過半数代表者の同意までは必要なく、反対意見であっても構わない。
過半数代表者の選出作業はGoogleフォームなどを活用すると効率的にゆく。ただし使用者が過半数代表者の選出に介入した場合、その意見書は無効となる。管理職は過半数代表者の選挙に投票できるが、自ら労働者の代表者になることはできない。
STEP5 所轄の労働基準監督署に届け出る
各事業場から労働者の過半数代表者の意見書を取得したら、就業規則届と就業規則および労働者の過半数代表者の意見書をそれぞれ2部(提出用と自社控)を用意し、各事業場を所轄する労働基準監督署に届け出る(届出は本部から一括して発送する方法でも構わない)。
STEP6 全社員へ周知する
就業規則が労働基準監督署に受理されたら、収受印が押された自社控を本部もしくは各店舗の事務所で厳重に保管し、コピーを休憩室に備え付けたり、PDF化して社内ポータルサイトにアップするなどの方法で、就業規則の内容を全ての従業員に周知しなければならない。
事業主は①労働法令の要旨、②就業規則と労使協定の全文を、自社の全従業員に周知する義務があり、従業員であれば誰でも、使用者の許可を得ずに自由にこれらを閲覧できる状態にしておかねばならない(違反には30万円以下の罰金)。
就業規則を変更する時
就業規則は法改正や経済社会情勢の変化にあわせて、定期的に内容を更新してゆくことが望ましいが、原則として就業規則を労働者の不利に変更することは認められない。ただし次の4つについて合理性があり、変更後の就業規則を労働者に周知する場合は例外的に認められる。
- 労働者の受ける不利益の度合い
- 就業規則を変更する必要性
- 変更後の就業規則の相当性
- 労使間における協議の有無
なお事業主は就業規則を変更する際も、事業場ごとに労働者の過半数代表者を選出してもらい、意見書を取得しなければならない。そして改正した就業規則にその意見書を添え、事業場を所轄する労働基準監督署に届け出る義務がある。
もし就業規則の不利益変更によって労使間でトラブルが発生した場合、不利益変更の合理性について立証する責任は使用者側にある。
就業規則のまとめ
「人財」または「人罪」という言葉を好んで用いる経営者は少なくないが、そういった経営者のところの就業規則に限って、抽象的かつ曖昧な内容ばかりで、ルールブックとしてほとんどマトモに機能していないケースは珍しくない。
そこで「なぜ就業規則を変えると会社は儲かるのか?(下田直人著/大和出版)」という書籍の一文を紹介したい。すでに廃盤となった20年前の本だが、その中に記載されている就業規則の6つの原理原則は、経営に有益な就業規則が備えるべき要素を端的に言い表している。
- 自社における従業員の働き方、休みの取り方、賃金のもらい方、辞め方などのルールが明確になっていること
- 就業ルールに関する問い合わせに対して、上司や人事部、経営者が時間を取られることが無いものであること
- ルールが不明瞭であるために、社員の間に不安が広がり、優秀な従業員が離職してしまわないものであること
- 問題従業員が入社してしまった場合には、速やかに会社から去ってもらうことができるようなものであること
- 従業員として取るべき行動、取ってはいけない行動が明確で、自社のブランド化に貢献できるものであること
- どう働けば、どう報いられるのかを明確にし、会社と従業員が目指すゴールを合致させられるものであること