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02_労働安全衛生

労働安全管理体制

2024年8月2日

労働安全管理体制のアイキャッチ

労働安全衛生法の概要

労働安全衛生法の目的

労働安全衛生法は、労働基準法と一体的に運用される主要な労働法令のひとつである。労働安全衛生法において、安全とは業務上の負傷予防を、また衛生は業務上の疾病予防を意味しており、労働安全衛生法はこれらの予防のために次の3つを柱としている。

1,危害防止基準の確立(事業主の講ずべき安全衛生措置の明示)
2,責任体制の明確化(事業場における安全衛生管理体制の構築)
3,自主的活動の促進(健康診断や安全教育、自主検査等の実施)

もともと労働安全衛生法は、労働基準法の条文のひとつに過ぎなかったが、日本社会が高度経済成長時代を迎える頃に、重大な労災事故が多発したため、安全衛生を充実・強化した労働基準法の特別法として、昭和47年に労働基準法から独立分離したという経緯がある。

労働安全衛生法の業種分類

労働安全衛生法は、労働基準法や労働者災害補償保険法と同様に、原則としてあらゆる業種や事業場で働く労働者を対象としている。ただし業種や職種によって、労災事故の発生リスクが異なるため、業種ごとに労働安全衛生法が適用される基準が異なる。

業種分類主な業種
屋外産業的業種(労災リスクが特に高い業種)鉱業、建設業、林業、運送業、清掃業
屋内産業的工業的業種(労災リスクが高い業種)製造業、ガス・熱供給業、水道業、通信業、卸売業、小売業(総合スーパー、家具専門店、ホームセンター、ガソリンスタンド等)、旅館業、自動車整備業ほか
その他業種(労災リスクがあまり高くない業種)金融業、不動産業、飲食業、ホテル・宿泊業、小売業(食品スーパー、コンビニ、ドラッグストア、服飾店等)ほか

小売業における安全衛生管理体制

労働安全衛生法が施行される前までは、各事業場の誰が労働安全衛生を推進するのか責任の所在が不明確だった。そこで労働安全衛生法は、事業主に対し、業種や事業場の規模に応じて、労働安全衛生の責任者を選任する義務を定めている。

総括安全衛生管理者

総括安全衛生管理者は、事業場における労働安全衛生の最高責任者であり、次の事項を実施するために、安全管理者と衛生管理者を指揮監督する。

<総括安全衛生管理者の主な実施事項>
・従業員の危険または健康障害を防止するための措置
・従業員の安全または衛生のための教育・研修の実施
・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置
・労働災害の原因の調査および再発防止のための対策
・職場の全従業員に対する安全衛生に関する方針の表明
・職場の建物や設備の危険性および有害性の調査と対策
・安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善
選任を要する場合・屋外産業的業種=常時使用する労働者が100人以上の事業場
・屋内産業的工業的業種=常時使用する労働者が300人以上の事業場
・その他業種=常時使用する労働者が1000人以上の事業場
選任の期限と方法労働者が上記人数に達した時から14日以内に事業主が選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出する
選任される者の資格等事業場の最高責任者(本部長、店長、センター長、所長等)
配置する時の要件事業場に専属であること
選任すべき人数1名

安全管理者

安全管理者は、事業場の労災事故(負傷)防止のために、次の事項を管理する。また安全管理者は、常に事業場内を巡視し、安全上のリスクを発見した場合は、直ちに危険防止措置を講じる義務を負っている。

<安全管理者の実施事項>
・職場の建物、設備、作業場所、作業方法に危険がある場合の応急措置・防止措置
・安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的な点検および整備
作業の安全についての教育および訓練
・発生した災害の原因調査および対策の検討
消防および避難の訓練
・安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録
選任を要する場合屋外産業的業種および屋内産業的工業的業種のうち常時使用する労働者が50人以上の事業場
選任の期限と方法労働者が上記人数に達した時から14日以内に事業主が選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出する
選任される者の資格等厚生労働大臣の指定する安全管理研修を修了し、産業安全に関する実務経験のある者(大卒2年、高卒4年)
配置する時の要件事業場に専属であること
選任すべき人数原則として1名

衛生管理者

衛生管理者は、事業場の労災事故(疾病)防止のために、次の事項を管理する。また衛生管理者は、少なくとも毎週1回以上の頻度で事業場内を巡視し、衛生上のリスクを発見した場合は、直ちに健康障害防止措置を講じる義務を負っている。

<衛生管理者の実施事項>
・従業員の危険または健康障害を防止するための措置
従業員の安全または衛生のための教育・研修の実施
健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置
・労働災害の原因の調査および再発防止のための対策
選任を要する場合全業種において常時使用する労働者が50人以上の事業場
選任の期限と方法労働者が上記人数に達した時から14日以内に事業主が選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出する
選任される者の資格等第一種衛生管理者免許もしくは第二種衛生管理者免許を有する者
配置する時の要件事業場に専属であること、1000人超の事業場は4名のうち1名を専任とすること
選任すべき人数事業場の従業員数により、50人以上1名、200人超2名、500人超3名、1000人超4名、2000人超5名、3000人超6名を選任

産業医

産業医は、専門的かつ中立的な立場から次の事項を管理し、事業主に対して必要な勧告を行う。産業医は毎月1回以上(事業主から毎月報告を受ける場合は2ヶ月に1回)の頻度で事業場内を巡視し、労働衛生上のリスクを発見した場合は、直ちに健康障害防止措置を講じる。

<産業医の実施事項>
・健康診断、面接指導等の実施および従業員の健康保持のための措置
・作業環境の維持管理、作業の管理など従業員の健康管理に関すること
・健康教育、健康相談その他従業員の健康の保持増進を図るための措置
・労働衛生教育に関すること
・従業員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置

事業主は、管理職を含めた全ての従業員の毎月の勤務実績を収集し、週80時間を超える時間外労働および休日労働をしている者をリストアップして、産業医に報告しなければならない。また産業医の業務や面接指導の申し込み方法について、従業員に周知する義務もある。

選任を要する場合全業種において常時使用する労働者が50人以上の事業場
選任の期限と方法労働者が上記人数に達した時から14日以内に事業主が選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出する
選任される者の資格等厚生労働大臣指定の産業医研修を修了した医師
配置する時の要件最寄りの医療機関の産業医に委嘱する方法でも可。ただし労働者が1000人以上の事業場もしくは深夜業を行っている労働者数500人以上の事業場の場合は専属とすること
選任すべき人数1名、労働者数が3000人超の事業場は2名

安全衛生推進者

安全衛生推進者(衛生推進者)は、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者を選任する義務のない小規模な事業場のうち、常時使用する労働者数が10人以上の事業場において選任し、次の事項を管理する。

<安全衛生推進者の実施事項>
・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること
労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること
健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること
・安全衛生に関する方針の表明に関すること
・安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること
選任を要する場合安全衛生推進者〜屋外産業的業種および屋内産業的工業的業種で労働者数が10人以上50人未満の事業場
衛生推進者〜その他業種で労働者数が10人以上50人未満の事業場
選任の期限と方法労働者が上記人数に達した時から14日以内に事業主が選任し、事業場に掲示する等の方法で選任した者の氏名を労働者に周知する
選任される者の資格等産業安全および労働衛生に関して一定の実務経験のある者(大卒1年、高卒3年)
配置する時の要件事業場に専属であること
選任すべき人数1名

安全衛生委員会

安全管理者の選任義務のある事業場では安全委員会を、また衛生管理者の選任義務のある事業場では衛生委員会を、それぞれ毎月1回以上開催し、事業場における労災防止対策や快適な職場環境の形成のための取り組み等について、協議しなければならない。

安全委員会

安全委員会のメンバーは、総括安全衛生管理者(事業場の責任者)、安全管理者、労働安全の経験者、各売場の部門長などで、事業主が指名する。小売業では総合スーパーや家具専門店、ホームセンターなど大きな商材を扱う業態が該当する。協議事項は次のとおりである。

・危険防止基本対策
・労働災害の原因調査と対策(安全関係)
・安全管理規程の作成
・安全リスクの調査と対策
・安全に関するPDCAの実施
安全教育計画の作成

衛生委員会

衛生委員会のメンバーは、総括安全衛生管理者(事業場の責任者)、衛生管理者、産業医、労働衛生の経験者、各売場の部門長などで、事業主が指名する。小売業では食品スーパーやドラッグストアなど比較的小さな商材を扱う業態が該当する。協議事項は次のとおりである。

・健康障害防止基本対策
・労働災害の原因調査と対策(衛生関係)
・衛生管理規程の作成
・衛生リスクの調査と対策
定期健康診断等の異常所見者への対策
長時間労働者の健康障害防止対策
・労働者の精神的健康の保持増進対策

なお、安全委員会と衛生委員会の両方を開催しなければならない事業場においては、これらをまとめて安全衛生委員会としても構わない。委員会を開催したら議事録を作成し、遅滞なく事業場の従業員に周知するとともに、3年間保存する義務がある。

労災事故が多発している事業場

所轄官公署の権限

労働安全衛生の責任者を選任しているにもかかわらず、労災事故が多発しているような事業場の場合、都道府県労働局長は、事業主に対して、総括安全衛生管理者の職務執行の状況や方法について勧告することができる。

あわせて所轄の労働基準監督署長は、例えば安全管理者や衛生管理者が不適任だったり、マンパワーが足りていないと思われる場合には、事業主に対して安全管理者や衛生管理者の解任もしくは増員を命ずることがある。

特別安全衛生改善計画

厚生労働大臣は、直近3年間に複数の事業場で重大な労災事故を何度も発生させた事業主に対し、特別安全衛生改善計画の作成および提出を指示することができる。この場合、事業主及び指定された事業場の従業員は、その計画に従って改善活動を行わねばならない。

もし事業主が特別安全衛生改善計画を作成しなかったり、作成した改善計画どおりに労災防止に取り組もうとしない場合には、厚生労働大臣はその旨について是正勧告するとともに、事業主の名前と一連の経緯について公表する。

なお特別安全衛生改善計画の指定を受ける前の段階として、都道府県労働局長は、その事業場の施設について、労災防止のための総合的な改善措置を講じる必要があると判断した場合に、安全衛生改善計画の作成を指示することができる。

労働安全管理体制のまとめ

労働安全衛生法は、労働基準法と一体的に運用される労働法令の根幹をなす法令だが、労働安全衛生法の存在すら知らないという使用者は意外に多い。しかし自社において労働安全管理体制を組織し、適切に運営してゆくことは、人事マネジメントの基本中の基本である。

特に小規模なリテーラーであっても、そのほとんどが安全衛生推進者もしくは衛生推進者の選任義務に該当すると思われるため、本記事を参考に、今一度、自社の労働安全管理体制を見直してみることをお勧めする。

本記事の労働安全衛生に従事する責任者は、企業ごとではなく、事業場(本部、店舗、配送センター)ごとの労働者数に応じて選任しなければならない。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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