
スタッフの出産、給与補償はどうなる?
歯科クリニックで働く女性スタッフが出産を控えたとき、院長先生が直面するのが「産休中の給与補償」という悩みです。
「休業中も給与を支払うべきか」「スタッフの生活は大丈夫だろうか」と心配される方も多いのではないでしょうか。
こうした不安を解消する制度が「出産手当金」です。
これは産休中の生活を支える重要な公的給付ですが、加入している公的医療保険によって給付の有無や手続きが異なります。
本記事では、公的医療保険別に出産手当金の制度内容と申請手続きを詳しく解説します。
出産手当金の概要:健康保険と国民健康保険で異なる給付の有無
出産手当金は、被保険者が出産のために仕事を休んだ場合に支給される、産前産後休業(産休)中の生活保障を目的とした給付制度です。
公的医療保険別:出産手当金の給付の有無
出産手当金は、加入する公的医療保険によって給付の有無や支給内容が異なります。
- 健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)
- 一定の要件を満たせば、必ず支給されます。
- 歯科医師国民健康保険組合(歯科医師国保)
- 組合によって給付の有無が異なります。支給される場合でも、組合ごとに支給要件や内容が異なります。
- 市町村の国民健康保険
- 原則として出産手当金の支給はありません。
支給要件と支給額(健康保険)
支給要件
- 妊娠4カ月(85日)以上の出産をしたこと(早産・死産・中絶も含む)
- 出産のために仕事を休み、給与の支払いを受けなかったこと
支給額
1日あたり、「支給開始日以前12か月間の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2」が支給されます(給与(総支給額)のおおよそ3分の2相当)。
支給対象期間
出産の日(予定日より遅れた場合は予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産の翌日以後56日目までを対象として支給されます。
支給要件と支給額(歯科医師国保組合)
歯科医師国保組合の出産手当金は、組合によって支給要件や金額が異なります。
出産手当金の制度の有無も含め、あらかじめ加入する歯科医師国保組合へ確認しておきましょう。
支給要件
出産のために仕事を休んだことのほか、多くの組合では支給対象となる者に一定の要件を設けています。
例として、組合員種別(歯科医師・従業員)により給付の有無が異なるケースや、組合員となってから継続して一定期間が経過していることを求めるケースがなどが見られます。
支給額
あらかじめ定められた給付日額について、90日分を限度として支給するケースが多くみられます。
この場合、給付日額は概ね数千円程度です。
なお、中には一児ごとに定額を支給する国保組合もあります。
出産手当金の手続き
健康保険の手続き
提出期限
出産のために仕事を休んだ日ごとに、その翌日から2年以内に提出します。
提出先
クリニック所在地を管轄する協会けんぽ支部、または加入する健康保険組合に提出します。
申請書の様式
所定の「健康保険出産手当金支給申請書」を使用します。
申請書には、医師・助産師による出産の証明と、事業主(クリニック)による休業および賃金支払状況の証明を受ける必要があります。
添付書類
- 協会けんぽ
- 原則として添付書類は不要です(過去12か月以内に転職している場合や、申請書にマイナンバーを記入した場合など、一部の例外を除く)。
- 健康保険組合
- 組合によっては、出勤簿や賃金台帳の写しなどの添付書類を求められることがあります。
健康保険組合では、協会けんぽと申請書の様式や添付書類が異なる場合があります。必ず組合に手続きの詳細を確認してください。
歯科医師国民健康保険組合の手続き
加入している歯科医師国保組合により取り扱いが異なるため、ここでは一般的な手続きを説明します。
実際の手続きにあたっては、加入する歯科医師国保組合に詳細を確認してください。
提出期限
出産のために仕事を休んだ日ごとに、その翌日から2年以内に提出します。
提出先
加入する歯科医師国保組合に提出します。
申請書の様式
各歯科医師国保組合が指定する「出産手当金支給申請書」を使用します。
組合によりますが、申請書には医師・助産師による出産の証明、事業主(クリニック)による休業や賃金支払状況の証明が必要となることがあります。
添付書類
母子手帳のコピーや出勤簿の写しなどの添付書類を求められることがあります。
出産手当金のよくある質問
手続きはクリニックが行うのですか?
出産手当金は原則、被保険者(スタッフ)が申請者となります。
しかし、事業主による勤務や賃金支払状況の証明が必要となるため、手続きにはクリニック側の協力が必須です。
そのため、実務的には事業主側が申請書の提出を代行するケースも見られます。
なお、歯科医師国保組合によっては、院長先生が提出するよう指定される場合もあります。出産予定日と実際の出産日がずれた場合はどうなりますか?
健康保険では、ずれた日数分もカバーされます。 例えば出産が予定日より遅れた際は、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます 。
一方、歯科医師国保組合では、予定日や実際の出産日に関わらず、支給日数の上限が90日と定められているケースが多くなっています。そのため、産休を取得した全ての日に対し出産手当金が支払われるとは限らない点に注意が必要です。産休が終わった後でないと申請できないのですか?
協会けんぽについては、複数回に分割して申請することができます。
ただし、事務負担を考えると、産休終了後にまとめて申請する、もしくは、産前分と産後分の2回に分けて申請することをお勧めします 。
一方、健康保険組合や歯科医師国保組合では、産休終了後に申請するよう指定されていることがあります。その場合は分割して申請することはできませんので注意しましょう。
煩雑な産休手続きは専門家へ!正確な申請でスタッフも安心
スタッフが産休を取得する際は、出産手当金だけでなく、社会保険料や国民健康保険料の免除、出産育児一時金など、様々な手続きが発生します。
中には今回ご紹介した出産手当金のように、クリニック側の対応が必要な手続きもあります。
院長先生が診療や経営と並行して、これらの慣れない書類作成や制度の確認を行うのは大きな負担ではないでしょうか。
社会保険労務士に依頼すれば、産休に関わる手続きを丸ごと任せられ、申請漏れのリスクも防げます。
また、申請書類も正確に記入できるため、スタッフへの給付もスムーズになり安心感につながります。
当事務所では産育休関連手続きのみのスポット対応も可能です。
煩雑な事務作業から解放され、本来の診療に集中していただくため、ぜひお気軽にご相談ください。
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