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008_そのほかのFAQ

【懲戒条項】文末は「行う」か「行うことがある」か?就業規則の抑止力と柔軟性のさじ加減

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

首をかしげる医師

当院は開院5年目を迎える歯科クリニックで、現在スタッフは12名です。これまで大きなトラブルはありませんでしたが、組織の規律をより明確にするため、就業規則の「懲戒」に関する項目を見直しています。

その際、社労士の先生や事務長と議論になったのが、条文の文末の表現です。

例えば、「スタッフが服務規律に違反したときは、譴責(けんせき)処分を行う」と断定的に書くべきか、それとも「処分を行うことがある」と含みを持たせた表現にすべきか、という点です。

「行う」と書くと、いざという時に必ず処分しなければならないという融通の利かない印象を与えそうですし、逆に「行うことがある」と書くと、基準が曖昧で抑止力が弱まるのではないかと心配しています。

実務上、どちらの表現が適切なのでしょうか?また、スタッフとの無用な摩擦を避けつつ、クリニックの秩序を守るための「言い回し」の工夫があれば教えてください。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックのような小規模な組織において、就業規則はスタッフとの信頼関係を維持しつつ、万が一の非行からクリニックを守るための「唯一の砦」です。懲戒条項の文末表現は、「不正への抑止力」と「個別の事情を考慮できる柔軟性」のバランスをどう取るかがポイントとなります。

「行う」か「行うことがある」か

結論から申し上げますと、法的な効力において両者に決定的な差はありませんが、人事実務上のニュアンスに違いが生じます

  • 「処分を行う」: 非常に断定的な表現であり、クリニックとして「規律違反は決して許さない」という強い意志を示すことができます。不正や非行に対する強い抑止効果を期待する場合は、こちらが適しています。ただし、情状酌量の余地がある場合に「必ず行わなければならないのか」という議論を避けるため、「ただし、情状によりこれを免除または軽減することがある」といった一文を添えておくのが一般的です。
  • 「処分を行うことがある」: 状況に応じて判断するというニュアンスが含まれ、柔軟な対応が可能になります。ただし、この表現を採用する場合は、どのような場合に処分を行い、どのような場合に不問とするのかという基準が不明確にならないよう、客観的な判断を心がける必要があります。

「処分とする」という受動的な表現の活用

表現上の工夫として、「処分とする」という受動的な言い回しを検討する価値があります。

「処分を行う」という能動的な表現は、クリニック(院長)がスタッフに対して攻撃的にアクションを起こすような印象を与え、労使間の緊張を高めてしまうことがあります。

一方で、「懲戒事由に該当したため、就業規則の定めに則って処分とする」という受動的な表現にすることで、「院長が怒って罰を与える」のではなく、「ルールに抵触した結果として、事務的に処遇が決定した」という客観的な印象を与えることができます。これにより、感情的な対立を和らげつつ、厳正な規律運用を印象付けることが可能になります。

法令上の絶対ルール:客観的合理性と相当性

文末の表現をどう選ぶにせよ、実際に懲戒処分を執行する際には、労働契約法第15条(懲戒権の濫用)の壁を意識しなければなりません。

懲戒処分が法的に有効とされるためには、以下の条件をクリアする必要があります:

  • 客観的に合理的な理由があること: 証拠に基づいた事実確認がなされているか。
  • 社会通念上相当であること: 違反の程度に対して処分が重すぎないか。
  • 就業規則に根拠があること: あらかじめ懲戒の種別と事由を明記し、スタッフに周知しているか。

特に歯科現場では、インプラント器材の不適切な扱いや保険診療の記録不備など、診療の質や収益に直結する違反も想定されます。これらに対し、感情に任せた処分ではなく、あらかじめ定めたルールに基づいた「納得感のある対応」を行うことが、ガバナンス維持の要となります。


本件のポイント

気づきを得た白衣の男性
  • 「行う」という表現は規律維持への強い意志と抑止力を示し、「行うことがある」は個別の情状を考慮できる柔軟性を持たせる
  • 「処分とする」という受動的な言い回しを用いることで、院長個人とスタッフの感情的対立を避け、客観的なルール運用を強調できる
  • 懲戒を行うためには、あらかじめ就業規則に「懲戒の種別」と「事由」を具体的に記載し、スタッフに周知しておくことが不可欠である
  • どのような表現を選んでも、処分の執行には「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が必要であり、権利の濫用とならないよう慎重なプロセスが求められる

文言ひとつでクリニックの「姿勢」がスタッフに伝わります。自院の風土や目指す組織像に合わせて、最適な表現を選択してください。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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