人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院に勤務するパートの歯科衛生士(週3日勤務)から、「休みの日に近隣の別の歯科クリニックで働き始めた」と事後報告を受けました。
当院では特に副業を禁止していませんでしたが、先日、急患対応などでどうしても人手が必要になり、彼女に休日出勤を打診したところ、「その日はもう一つのクリニックのシフトが入っているので無理です」と断られてしまいました。
今後もこのようなことが続くと、自院の診療体制に支障が出かねないと危惧しています。以下の点について教えてください。
- 「他院での勤務」は、自院の休日出勤要請を拒否する正当な理由になりますか?
- 副業許可の基準によくある「労務提供上の支障がある場合」とは、具体的にどのような事態を指すのでしょうか。
- 他院と労働時間を通算することで、思わぬ「残業代(割増賃金)」が発生するリスクがあると聞きました。どちらの医院が支払う義務を負うのでしょうか。
ご相談への回答

歯科衛生士不足の中、スタッフの柔軟な働き方を認めることは大切ですが、副業・兼業には「労働時間の通算」や「職務専念義務」など、経営者が把握しておくべき法的ルールが多々あります。結論から申し上げますと、原則として自院(主業先)での労務提供を優先させるべきであり、そのためのルールを就業規則で明確にしておくことが不可欠です。
副業を理由とした休日出勤拒否の妥当性
副業を理由に自院の勤務を拒否できるかどうかは、就業規則の定めや労働契約の内容によります。一般的に、副業・兼業を許可制にする場合、「自院の業務に支障をきたさないこと」を条件に含めます。
労働者にとっても、長期的なキャリア形成の場は主業先である自院にあるべきであり、自院での雇用契約に基づく義務(正当な業務命令としての休日出勤など)を副業のために一方的に放棄することは、本来認められません。ただし、強制的な出勤要請が「事業の正常な運営を妨げる」等の合理的な理由に基づかない場合は、業務命令権の濫用とされる可能性もあるため、事前のルール化が重要です。
「労務提供上の支障」の具体的な判断基準
歯科クリニックの実務において、副業が「労務提供上の支障」にあたると判断されるのは、主に以下のようなケースです。
- 業務の重複・圧迫: 副業のシフトが自院の勤務時間と重なったり、休日出勤要請に全く応じられなくなったりする場合。
- 健康状態の悪化: 他院での過重労働により疲労困憊し、自院での診療補助(スケーリングやアシスト業務)の精度が低下したり、医療事故や労災事故を起こすリスクが高まったりする場合。
- 競合・利益相反: 自院の患者を他院へ誘導したり、自院独自の自費診療のノウハウを他院で流用したりする場合。
- 機密漏洩・風評被害: 自院の患者情報が漏洩するリスクがある場合や、副業先での言動が自院の社会的信用(ブランド)を損なう場合。
労働時間の通算と「割増賃金」の負担責任
労働基準法第38条第1項により、労働時間は事業主を異にする場合であっても通算されます。
- 割増賃金の支払い義務: 2つのクリニックでの労働時間を通算して法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた場合、「後から労働契約を締結した事業主」あるいは「残業を発生させた側の事業主」が割増賃金を支払う義務を負います。
- 実務上の落とし穴: 例えば、スタッフが午前中に他院で4時間働き、午後に自院で5時間働いた場合、通算で9時間となります。この場合、1時間を超えた部分(自院の最後の1時間)について、自院が25%以上の割増賃金を支払わなければならない可能性があります。
※「所定労働時間」は「労働契約締結時期」の先後の順で、また「所定外労働時間」は「残業の開始時刻」の先後の順で、それぞれ通算します。
このように、自院での勤務が「法定時間内」であっても、副業先との通算によって自院に割増賃金の支払い義務が生じるリスクがある点には十分な注意が必要です。
本件のポイント

- 副業を理由に自院の業務(休日出勤含む)を当然に拒否できるわけではない。就業規則で「主業優先」を明文化すべきである。
- 「労務提供上の支障」には、身体的疲労による診療精度の低下や、患者情報の流出リスクなども含まれる。
- 労働時間は他院分と通算されるため、契約順や始業時刻の先後により、自院に想定外の割増賃金支払い義務が生じる恐れがある。
- 副業を許可する際は、「副業先での労働時間」を定期的に報告させ、過重労働(安全配慮義務違反)にならないよう管理・指導する仕組みを整える。
スタッフの副業を認める場合は、単なる「個人の自由」として放置せず、許可申請時に「副業先の勤務条件(時間・内容)」を届け出させるなど、クリニック側がリスクをコントロールできる体制を構築しましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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