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008_そのほかのFAQ

【ガバナンス】院長夫人が人事・経理を兼任。権限集中によるリスクと「相互牽制」の仕組み作り

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院は、院長である私と、スタッフ15名ほどが勤務する歯科医療法人です。開院以来、妻が理事(非常勤)として、人事・労務(給与計算、採用、評価)と経理(資金繰り、業者支払)の双方を一手に引き受けてくれています。

妻は非常に献身的に働いてくれていますが、最近、古参の歯科衛生士から「昇給や賞与の基準が不透明だ!」「院長夫人の個人的な感情で評価が決まっているのではないか?」といった不満が漏れ聞こえるようになりました。

実質的に、妻が単独で人事評価の案を作り、そのまま資金決済まで行っている状態です。

  1. 「人事・経理」の権限が特定の個人(親族)に集中していることは、ガバナンス(組織統治)の観点からどのようなリスクがありますか?
  2. 「私物化」や「個人的な志向の反映」と批判されないためには、どのような組織体系にすべきでしょうか。
  3. 小規模なクリニックで、大企業のような「部門の細分化」は現実的ではありません。効果的な「相互牽制(チェック機能)」の仕組み作りについてアドバイスをください。

ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックのような小規模な組織において、院長夫人がバックオフィス全般を担うのは効率的である反面、ガバナンスや内部統制の観点からは非常に危うい「権限の集中」が起きています。結論から申し上げますと、「給与計算(人事)」と「資金決済(経理)」の実行権限を同一人物が持つことは、内部不正や私物化のリスクを最大化させるため、決裁ルートの明文化と外部監査の導入が不可欠です

権限集中によるガバナンス上のリスク

ガバナンスの本質は「経営の効率性向上」と「健全性確保(チェック・アンド・バランス)」の両立にあります。

  • 内部不正のリスク: 人事の実務(給与算出)と経理の実務(振込決済)を同一人物が直接的な決裁権を持って行う場合、理論上は自身の裁量で不正な資金操作が可能となり、内部統制が機能不全に陥ります。
  • 不公平感によるES(職員満足)の低下: 人事評価が特定の個人の「個人的志向(好み)」に基づいているとスタッフが感じると、組織へのロイヤルティ(忠誠心)が著しく低下します。医療サービスは人的資源が価値を決定するため、ESの低下はダイレクトにPS(患者満足)の低下、ひいては経営悪化へと直結します。

「相互牽制」のための実務的な仕組み作り

小規模クリニックで部門を分けることが難しい場合でも、以下の手法で透明性を確保できます。

  • 職務権限と決裁ルートの明文化: 誰が「起案」し、誰が「確認」し、最終的に院長が「承認」するのかという決裁ルートを規程(経営管理規程等)に明記します。例えば、夫人が作成した給与原案を院長が承認してから振り込むという「ダブルチェック」を仕組み化します。
  • 評価基準(物差し)の可視化: 人事評価において「能力・実績・意欲」の具体的な指標を定め、スタッフとの「人事評価面談」を徹底します。評価結果をフィードバックし、納得感(アカウンタビリティ)を高めることが、個人的志向による私物化という批判を退ける唯一の手段です。

外部専門家(社労士・税理士)の活用

内部での牽制には限界があるため、外部の「第三者の目」を入れることが最強のディフェンスとなります。

  • 経営労務監査の導入: 社会保険労務士などの外部専門家に「経営労務監査」や「就業規則の運用チェック」を依頼します。
  • 会計監査: 年次決算時に税理士等による適正な監査を受けることで、財務の透明性をスタッフや社会に示すことができます。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • ガバナンスは「監督と執行の分離」が基本であり、小規模組織であっても特定の個人への権限集中は避けるべきである。
  • 「給与計算」と「支払い」を同一人が無チェックで行える体制は、ガバナンス上、最もリスクが高い。
  • 「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」の考えに基づき、不透明な人事がスタッフの離職や診療の質低下を招くことを認識すべきである。
  • 職務分掌と決裁権限を規程化し、外部専門家による定期的なチェックを受けることが、健全な組織運営の証(エビデンス)となる。
  • 医療法人は「非営利の社会的公器」であることを再認識し、理事長(院長)はガバナンスの最終責任を負う姿勢が求められる。

優秀な親族が経営を支えることは強みですが、それを「組織のルール」として可視化できているかが、法人のガバナンス能力を測る試金石となります。透明性の高い運営こそが、スタッフの信頼を勝ち取り、地域に選ばれるクリニックを創る土台となります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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