人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院に勤務するスタッフ2名の勤怠と勤務態度について相談です。
- 歯科衛生士(勤続3年): この半年ほど、当日欠勤や遅刻が目立ちます。理由を聞いても「体調が悪い」「なんとなくクリニックに行きづらくなった」といった曖昧な返答ばかりです。病院を受診するよう促しましたが、本人は「受診したが特に病名などは言われなかった」と主張し、休職も退職も拒否しています。
- 歯科助手(勤続1年): 勤務中、診療の合間や受付での居眠りが非常に多いです。院長や主任が何度も厳重注意をしていますが改善されません。問い詰めると「睡眠障害という病気のせいだ」と言い始めました。
診療に支障が出ており、他のスタッフからも「不公平だ」と不満が噴出しています。就業規則に基づき、「職場規律を乱す行為」として戒告などの懲戒処分を検討していますが、法的に問題はないでしょうか。
ご相談への回答

歯科クリニックにとって、スタッフの勤怠不良や居眠りは診療の質と安全に直結する深刻な問題です。しかし、背景に「メンタル不調」や「睡眠障害」といった疾患が疑われる場合、安易に懲戒処分を強行することは、クリニック側に大きな法的リスクをもたらします。
懲戒処分を急ぐべきではない理由
不就労や勤務不良の背景にメンタル疾患等の可能性がある場合、以下のリスクを考慮しなければなりません。
- 安全配慮義務違反: 病状を把握せずに懲戒処分を下すことで、スタッフの病状をさらに悪化させた場合、クリニックの安全配慮義務違反を問われる恐れがあります。
- 私傷病から労災への転嫁: 疾患の原因が「上司の指導」や「業務過多」にあると主張された場合、医学的な裏付けなしに懲戒を行うことは、私傷病を業務災害(労災)へと転嫁させるトリガーになりかねません。
歯科現場における安全確保の重要性
特に居眠りや集中力の欠如については、単なる規律の問題だけでなく、医療事故の防止という観点から迅速な対応が求められます。歯科現場では注射針や切削器具などの鋭利な器具を扱うため、居眠りによる不注意は「針刺し事故」などの重大な損害を誘発するリスクが高いからです。
クリニックは事業主として、他のスタッフや患者を守るために、直ちに「事故を防止するための措置」を講じる義務があります。
実務的な対応ステップ
懲戒処分を検討する前に、以下のプロセスを確実に踏むことが推奨されます。
- 診断書の提出依頼: 本人の主張が事実か確認するため、医療機関の診断書の提出を求めます。
- 医師(産業医)による意見聴取: 診断書に基づき、産業医等による面接指導を実施します。専門的な見地から「現在の健康状態で適切な労務提供が可能か」を客観的に判断してもらいます。
- 就業上の措置の決定: 医師の意見を勘案し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を検討・実施します。
- 休職命令と自然退職: 措置を講じてもなお業務遂行が困難であれば、療養のために休職を命じます。休職期間が満了しても復職できない場合は、懲戒解雇ではなく、雇用契約の終了としての「自然退職」として処理するのが法的に妥当な流れです。
本件のポイント

- メンタル不調や睡眠障害が疑われる場合、懲戒による改善は期待しづらく、かえって不当な懲戒(懲戒権の濫用)として訴えられるリスクが高まる。
- 産業医面談を通じて健康状態を客観的に把握し、労働契約上の「労務提供の義務」を果たせる状態かどうかを確認することが不可欠である。
- 医療事故防止の観点から、居眠り等が見られる場合は即座に作業内容の見直し等の安全確保措置を講じるべきである。
- 休職命令に従わない場合は懲戒の対象になり得るが、まずは「改善の機会」を組織的に与えたというエビデンス(面談記録や指導記録)を残すことが、最大のリスクヘッジとなる。
感情的な対立を避け、医学的・客観的な根拠に基づいて段階的な対応を進めることが、健全なクリニック運営を守るためのガバナンスの要です。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。