人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師2名、スタッフ6名が勤務する個人経営の歯科クリニックです。これまで退職金制度は設けていませんでしたが、福利厚生の充実と、万が一の経営悪化時にスタッフを守るため、就業規則を改定して退職金規定を新設することにしました。
ただし、原資に限りがあるため、自己都合退職や定年退職には支給せず、「経営難による人員整理(整理解雇)や倒産などの『会社都合』で退職してもらう場合に限って支給する」という限定的な内容にしたいと考えています。
ここで事務長から、「雇用保険の手続きでは、定年退職も会社都合(事業主都合)に近い扱いになると聞いたことがある。もし規定に『会社都合』とだけ書くと、定年退職時にも支払わなければならないと解釈されるリスクはないか」と指摘を受けました。
以下の点について教えてください。
- 退職金規定において、定年退職が「会社都合」とみなされないための適切な表記方法はありますか?
- 就業規則の作成義務がない規模ですが、個別の労働契約書で退職金の条件を補足することは有効でしょうか?
- 定年後に「再雇用」として継続勤務してもらう際、一旦退職金を清算(打ち切り支給)する場合の税務上の注意点を教えてください。
ご相談への回答

小規模な歯科クリニックにおいて、退職金制度を「会社都合」に限定して設計することは、経営リスクに備える合理的な判断といえます。しかし、言葉の定義を曖昧にすると将来の紛争の種になります。結論から申し上げますと、雇用保険の定義との混同を防ぐため、規定上に「定年退職を除く」旨を明記し、個別の契約書で詳細を補足するのが最も安全です。
雇用保険上の「離職理由」との混同を避ける
事務長様が懸念されている雇用保険の実務では、離職理由は大きく3つに分類されています。
- 離職以外の理由(死亡、在籍出向など)
- 自己都合退職、定年、契約期間満了など
- 事業主の都合による離職(解雇、退職勧奨など)
このように、雇用保険上も「定年」は「事業主の都合(会社都合)」とは明確に区別されています。 しかし、民法や労働契約法の解釈において、定年制は「会社が定めた年齢による契約の終了」という側面を持つため、単に「会社都合」とだけ記載すると、スタッフから「定年も会社が決めたルールなのだから会社都合だ」と主張される余地が残ります。トラブルを未然に防ぐため、「会社都合退職(人員整理、倒産等。但し、定年退職を除く)の場合に支給する」と明記しておくことが推奨されます。
就業規則と労働契約書の役割分担
常時10人未満の事業場であれば就業規則の作成・届出義務はありませんが、自発的に作成する場合、退職金は「相対的必要記載事項」となります。
全スタッフに共通する「支給の有無や大枠のルール」は就業規則に定め、個々のスタッフごとの「具体的な支給額の算定方法や特別な条件」については、個別の労働契約書(雇用契約書)で補足する運用が有効です。これにより、勤続年数や職種(歯科衛生士、歯科助手など)に応じた柔軟な設定が可能となります。
定年後再雇用時の「打ち切り支給」と税務
定年退職後、1日の空白もなく「再雇用」として継続勤務してもらう際、定年時点までの退職金を一旦清算して支払うことがあります。これを「打ち切り支給」と呼びます。
- 税務上の扱い: この支払いは、税務上も「退職所得」として認められます。退職所得は他の所得と分離して課税され、「退職所得控除」を差し引くことができるため、スタッフにとって大きな節税メリットがあります。
- 控除額の計算: 勤続年数(1年未満は切り上げ)に応じた控除額が適用されます。例えば勤続10年の場合、400万円までの退職金には所得税がかかりません。
- 「5年ルール」の注意点: 2回目(最終的な退職時など)に退職金を支払う際、前回の支払いから5年以内であると、退職所得控除額が重複して適用されないよう調整が必要になる場合があります(いわゆる5年ルール)。
本件のポイント

- 雇用保険上の定年退職は「会社都合(事業主都合)」には該当しないが、就業規則には念のため「定年退職を除く」と明記するのが安全である。
- 退職金の支給条件を「会社都合」に限定する場合、経営悪化による人員整理など具体的な事由を列挙しておくことが望ましい。
- 個別の労働契約書での補足は、スタッフごとの細かな条件設定を行う上で法的に有効な手段である。
- 定年時の退職金清算は「退職所得」となり、スタッフの所得税・住民税の負担を抑えられるメリットがあるが、数年後に再度の支払いがある場合は税務上の調整規定に注意が必要である。
退職金規定の整備は、歯科衛生士などの専門職が将来の安心を感じ、長く定着するための強力なツールとなります。言葉の定義を明確にし、誠実な合意形成を図ることで、クリニックの信頼性を高めていきましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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