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02_労働安全衛生

労働災害

労働災害アイキャッチ

労働災害と私傷病

労働災害と私傷病

労働者が負傷したり疾病にかかる要因には業務上のものと業務以外のものがある。人事においては、業務上の傷病を労働災害、業務以外の傷病を私傷病として区別している。業務上と業務外を区別する理由は、療養や休業、障害、死亡等に対する保険制度が異なるからだ。

労働者災害補償保険法(以下労災保険法という)に定める労働災害には、業務に起因して被災する業務災害と通勤に起因して被災する通勤災害、そして複業や副業している者が複数の職場の業務に起因して被災した場合の複数事業労働者災害の3種類がある。

適用される社会保険

労働災害に被災したことによる療養や休業、障害、死亡に対する保険給付は労働者災害補償保険法にもとづき労災保険から行われる。そして業務外の事由による療養や休業、障害、死亡、さらに出産に対する保険給付は健康保険法にもとづき健康保険から行われる。

なお経営者は健康保険には加入できるが、労働者ではないので労働者災害補償保険の対象外である。ただし従業員5人未満の小規模法人の経営者が、一般の労働者と同じ作業に従事することによって業務上の傷病となった場合は、健康保険から保険給付を行う特例がある。

個人事業主(自営業者)は国民健康保険に加入するが、国民健康保険は業務上だろうと業務外だろうと全て保険給付を行う制度となっている。また労災保険には一定規模以下の法人であれば経営者も特別加入できる制度もある(第1種特別加入者)

業務災害と通勤災害

業務災害

業務災害は業務遂行中に、業務に起因して負傷したり病気にかかったりすることをいう。業務遂行中とは、直接的に作業に従事している時間のみをいうのではなく、事業主の支配下にある時間をいい、作業服に着替える時間や休憩時間、終業後の片付けの時間も含む。

業務に起因するとは、業務を行う上で想定されるリスク全般をいい、事業場の施設や設備などの管理状況が原因で生じた負傷や傷病も含まれる。ただし業務上の傷病については、労働基準法施行規則に具体的に列挙されているものに限られる点に注意が必要である。

なお最近は長時間の過重労働による脳血管疾患や虚血性心疾患、また職場のハラスメントに起因する、うつ病などの精神疾患が労災認定されるケースが増えている。参考までに労災保険法に定めるこれらの認定基準について次のとおり紹介しておく。

脳血管疾患・虚血性心疾患と長時間労働の関連性が強いと判断される基準
・発症前6ヶ月間において、長期間の過重労働に就労した場合
・発症前の1週間において、短期間の過重業務に就労した場合
・発症前から前日の間に、異常な出来事(重大な労災事故等)に遭遇した場合
※長期間の過重労働とは、発症1ヶ月前に月100時間を超える時間外労働もしくは発症前6ヶ月間のうち2ヶ月を平均して80時間を超える時間外労働をいう。
うつ病などの精神疾患と長時間労働の関連性が強いと判断される基準
・発症1ヶ月前に月160時間を超える時間外労働があった場合
・発症2ヶ月前に月120時間を超える時間外労働があった場合
・発症3ヶ月前に月80時間を超える時間外労働があった場合

通勤災害

通勤災害は、通勤中に負傷したり傷病にかかったりすることをいい、たとえば通勤中に自動車事故に遭ったり傷害事件に巻き込まれたりすることなどがあげられる。また通勤災害の傷病については、労災保険法施行規則に通勤災害の認定基準のみ定められている。

なお通勤とは、就業に際して自宅と職場の間の合理的な経路を継続的に往復することをいい、例えば帰宅途中に職場の同僚と居酒屋に立ち寄ったりした場合は、通勤行為の逸脱とされ、逸脱以後の移動については通勤行為とはみなされない。

帰宅途中にスーパーで食材を購入する、子供を保育園に迎えにゆくなどの行為は通勤行為の中断とされるが、これらは労働者の日常生活にとって必要な行為であるため、中断を終えて通常の通勤経路に戻った後は、通勤行為とみなされることになっている。

複数事業労働者災害

複数事業労働者災害とは、複業や副業など、複数の事業主に使用される者が、業務中に負傷したり傷病にかかったりした時に、どちらの業務に起因する労働災害なのか特定できない場合に、複数事業労働者災害として、労災保険から必要な保険給付を行う制度である。

複数事業労働者災害は、まずそれぞれの事業主の業務と労働災害との因果関係の有無を判定し、特定業務との因果関係が認められれば業務災害として保険給付するが、そうでなければ業務災害の保険給付の不支給決定を行った上で、複数事業労働者災害として保険給付する。

労災保険制度には、過去3年間の業務災害発生の度合いに応じて翌年度の労災保険料率を増減するメリット制という仕組みがあるが、複数事業労働者災害は労災事故の発生元がはっきりしないため、メリット制の算定対象外となっている。

労働災害のまとめ

労働災害が発生したら

健康保険法は「労働災害については保険給付を行わない」と明記しているので、使用者は労働者が労災事故に遭った場合は、労働者個人の健康保険証を使って医療機関を受診させるのではなく、医療機関の受付で労災事故により受診したい旨をきちんと伝える義務がある。

また私傷病とは異なり、労災事故は医療費の全額が労災保険から支給されるが、これはあくまでも労災指定病院を受診した場合に限られる。やむを得ず通常の保険医療機関を受診した場合は、いったん医療費の全額を支払った上で、後から労災保険に還付請求する。

ところで医療費を立て替えるのは労働者と使用者のどちらか?という問題だが、少なくとも業務災害については労働基準法に使用者の災害補償義務を定めており、労災保険が労働基準法の使用者の補償義務を代行する制度である以上、使用者が立て替えるのが筋だろう。

ただし労災保険の還付金は労働者個人の金融機関口座に直接振り込まれるため、後から労働者と使用者との間でトラブルにならないように、労災保険から労働者の金融機関の口座に入金があったら、使用者に全額を返還する旨の覚書を交わしておく必要がある。

労災認定するのは使用者ではない

これまで20年間にわたって人事部門で働いてきた経験から言えば、労災事故かどうかを使用者が判定できるものと大きな勘違いをしている経営者や管理職は少なくない。しかし労災事故の認定をするのは使用者ではなく所轄の労働基準監督署長である。

労災事故が発生した場合に、使用者が労働者に労災を伏せて医療機関に申告するよう指示することは、労災保険法や健康保険法の原則から逸脱するのみならず、労働基準法の災害補償責任を忌避する行為であり、さらに労働安全衛生法に定める死傷病報告の虚偽報告にも抵触する。

これらのコンプラ違反に対しては、使用者に懲役刑や罰金刑などの厳しいペナルティが科されることは言うに及ばず、小売業などCSRを推進して顧客イメージを大切にするBtoCビジネスでは、消費者離れなどの商売上のデメリットが生じるリスクもあることも申し添えておきたい。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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