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04_採用管理

採用計画

2024年9月23日

採用計画アイキャッチ画像

採用活動を始める前に

経営戦略と人事戦略

採用とは、事業活動に必要な人材を継続的に獲得してゆくことをいい、昨今の採用難の時代においては、その場しのぎの数合わせ的な採用をしていると、せっかく採用した人材が定着しないばかりか、経営環境の変化によって業績が急激に悪化したり、予期せぬコンプライアンス違反を招いてしまったりするリスクがある。よって採用活動に着手するにあたり、まず経営戦略や人事戦略と連動した採用計画の立案が必要となってくる。

経営戦略とは、自社の経営資源をどのマーケットにどれくらいの配分で投入し、いかに効率的に経営目標を達成するか、といった大局的な経営方針であり中長期的な事業計画でもある。特に小売業では、超高齢社会と人口減少社会の進行によって、もはや売上高の大きな伸びは期待できず、また店舗運営に必要なマンパワーの確保も難しくなっていることから、経営戦略と人事戦略の良し悪しが企業の存続に直接的に影響することも少なくない。

小売業の人事戦略

昔からヒト、モノ、カネは経営の3大資源といわれるが、モノ・カネを活かすも殺すもヒト次第なので、経営戦略と人事戦略は表裏一体である。人事戦略とは、採用→教育→評価→処遇といった一連の人事マネジメントにおける自社の考え方や方向性をいう。終身雇用と年功序列などの旧来の雇用慣行が崩壊し、人材の流動化や就労の多様化など、従来の人事マネジメントの常識が通用しなくなってきたことで、人事戦略の重要性は増している。

前述のとおり売上拡大のチャンスが期待できない日本の小売業界では、多くのリテーラーが売上規模の拡大を追求するより、商品回転率や売上総利益、人事生産性などの効率性・収益性KPIをより重視するようになってきている。さらに小売業は労働集約型産業であり、平均的な売上高対人件費率は20%、販管費に占める人件費率は60%になるため、戦略性の無い採用活動は企業の業績が悪化した時にアキレス腱となるリスクをはらんでいるといえるだろう。

利益率の低い小売業は、早期からパート・アルバイト比率アップに取り組んできたが、これらの非正規労働者の多くはその商圏の生活者でもあるため、人材を使い捨てにしたりハラスメントを黙認しているような職場は、いずれ営業活動に悪影響を及ぼす。

人員計画の立案

人員計画をもとに採用計画を決める

経営戦略を受けてどのように人事戦略を策定するのかについては別の記事で詳しく解説するが、ともあれ人事戦略は中長期的な人的資源管理の方向性をまとめたものなので、これをもとに短期的な人員計画を立案する。人員計画は当期の事業運営に必要な人材と人員数を具体的に数値化したものであり、既存の人材だけで人員計画を賄うことができない不足部分について、どのような採用活動を行って補填するのかプランニングしたものが採用計画である。

なお人員計画の立案にあたり、全社レベルで無人チェッカーや自動発注システムの導入による必要人員の削減を図ったり、店舗レベルで人員が厚い部門から人員が薄い部門へ従業員を異動させたり、人員が薄い時間帯から人員が厚い時間帯に店内作業を移行するなどの工夫も必要である。さらに人事部門においては、職員満足度の向上や処遇改善などといった施策を講じて離職率を低減することで、新規に採用する人数を抑制することができる。

人事業界では「離職の防止は最も優れた採用戦略である。」という言葉がある。特に採用コストが高騰している状況下では、新規に人材を採用するコストよりも、従業員の定着率を高める施策にかかるコストの方がはるかに安上がりである。

LSPにもとづく人員計画

LSPとはレイバースケジューリングプログラムの略で、実店舗での販売を主業とするリテーラーにおいて、各従業員の勤務データにもとづいた効率的な人員配置と店内作業の標準化により、人件費を抑制しつつ、販売活動の質を高めることを目的とした人事マネジメントの手法のひとつである。仕事が属人化しがちな従来の適材適所人事と事なり、LSPでは業務ごとに職務要件と必要人時を定義し、そこに人員を割り当てる適所適材人事を前提としている。

小売業では人員計画の立案にあたり、LSPに従って最適な人員配置を検討する。ただし人員計画を確定するにあたり、各現場のLSPから積み上げた必要総人時と、当年度の総額人件費から導き出した最適総人時とのすり合わせが必要である。経営視点からブレークダウンした計画人時と、現場視点から積算した計画人時との間の不整合や矛盾を解消した上で、可能な限りムリ・ムダ・ムラのない人員計画を確定するよう努力すべきである。

人事部門は社内各部署における人事管理に対するチェックやアドバイザリーを行う部署なので、各店舗のパート・アルバイトの募集や、採用面接の案内、採否の通知などは、それぞれの店舗の後方部門の事務員に行わせるべきである。

採用計画のポイント

採用計画の立案に先立って

採用活動は人事部門が単独で行う作業ではなく、経営部門のコントロールの下に、人材を採用したい事業部門が主体となって自部門にふさわしい人材の募集や選考を行い、人事部門は労務コンプライアンスや労働市場のトレンドにもとづく専門的アドバイスを行うことによって、事業部門をサポートするような体制が望ましい。このため採用計画の立案にあたっては、経営部門と事業部門、人事部門の3者の協議によって確定すべきである。

本記事では採用計画において具体的に検討すべき事項を次のとおり列挙した。なおこれらの事項の多くは採用の都度、個別に検討するのではなく、例えば賃金規定、職務分掌規定、職務権限規定、昇進昇格規定などにおいて、あらかじめ制度化されていることが前提である。

採用計画で検討すべきこと

雇用条件

  • 職種〜管理職、高度専門職、販売職、事務職など
  • 役職〜事業部長、地区ブロック長、店長、販売課長、主任、一般職など
  • 配属〜経営企画部、商品部、管理部、店舗(および売場部門)
  • 雇用区分〜正社員、パートタイム、学生アルバイトなど
  • 等級号俸〜雇用区分ごとの等級号俸表より既存社員との均衡を考慮して決定

職務要件

  • 資格〜日商販売士、日商簿記、食品衛生責任者、衛生管理者、TOEICスコアなど
  • スキル〜リテールマーケティング、チームマネジメント、生鮮品の商品化など
  • 経験〜店舗運営に携わった経験◯年以上、鮮魚売場の経験◯年以上など
  • 人物像〜チームプレイで成果を追求できる方、快活明朗に接遇応対できる方など

採用方法

  • 採用区分〜職種や役職ごとの採用難易度に応じ、A)難しい、B)普通、C)易しい等に区分
  • 採用ツール〜前項A)→人材紹介、B)→求人広告、C)→ハロワなど最適なツールを選択
  • 募集時期〜大幅な組織改編に先立つ新規採用の場合は募集を開始する時期に留意する
  • 採用時期〜いつまでに採用計画を達成するのか採用活動の期日も決めておく

選考方法

  • 選考プロセス〜職種や役職、雇用区分に応じて筆記試験の有無や面接回数を決めておく
  • 選考場所〜選考プロセスとあわせて選考場所(就活会場、本部、店舗等)も決めておく
  • 選考担当〜選考プロセスと選考場所の検討に際して選考試験の実施担当者も決めておく
  • 採用決定〜職種や役職、雇用区分に応じて採否の決定権者とプロセスを明確にしておく
  • 個人情報〜応募者の履歴書の管理方法、不採用時の履歴書の取り扱いなどを決めておく

コスト・コントロール

  • 想定年収〜既存社員とのバランスを考慮した上で募集人材の想定年収を見積もっておく
  • 採用コスト〜募集人材の想定年収に対し、採用ツールの利用料が適切な水準か検証する

受入方法

  • インテグレーション〜採用者を早期に配属先に馴染ませるために必要な配慮を検討する
  • OFF-JT(入社時研修)〜経営方針の共有や就業規則の説明など集合教育の段取りの立案
  • OJT(実務トレーニング)〜配属後の現場実習や実務指導の計画と指導担当者を決める
  • 受入準備(庶務)〜社員証や制服、ロッカーなどの手配を誰がいつまでに行うか決める

キャリアパス

  • キャリア形成の方針〜採用した人材にどのようなキャリアパスを提示するのか検討する
  • 昇進・昇格の条件〜キャリアパスに昇進・昇格が予定される場合はその条件を整理する
  • 転勤・配置転換の可能性〜転勤や配置転換が予定される場合はその時期と範囲を整理する
  • 予定される教育研修コース〜キャリア形成のために実施すべき教育支援の内容を整理する

リスクマネジメント

  • 内定辞退〜内定辞退された場合の代替案(第2候補の採用、募集継続)を予め検討する
  • 採用条件の引き上げ要求〜年収アップについて交渉された場合の許容範囲を決めておく
  • 既存社員の離職〜新規採用によって既存社員が離職してしまうリスクがないか検討する

有能な人材ほどエンプロイアビリティ(人材市場で通用するスキル)を重視するため、企業側がどのようなキャリアパスとキャリア形成のための支援プログラムを用意しているのか強い関心を持っている。

採用計画のまとめ

「いい人材が採用できない」という企業に限って、行きあたりばったりの採用活動を行い、採用面接では応募者に入社後のキャリアパスを明示できていない。こういう企業は決まって「まず色々な部署で幅広く経験を積んでもらってから…」などと言い訳をするが、有能な人材ほど「この会社に入ったら、都合よく使い回しにされ、専門スキルなど身につかないまま、中高年になった頃に突然リストラされそうだ。」と直感的に見抜く。

採用はマーケティング活動であり、採用面接は求人者と求職者の商談の場でもある。特に労働サービスは、売り手と買い手のニーズとシーズが合致して商談(採用)が成立するものだが、製品の商談であっても自社製品の特徴や競合品との違い、購買後のアフターサービスについて買い手にPRするはずである。ゆえに採用活動にも製品仕様書よろしく採用計画書があって然るべきであり、採用計画は欠員からではなく、経営戦略から導き出されるものである。

現在は労働力人口の減少と高齢化、人件費の高騰などによって採用活動はどんどん難しくなってきている。だからこそ経営戦略から落とし込んだ綿密な採用計画が必要不可欠なのだが、令和時代の採用計画の立案においては、性別や年齢、前歴ににとらわれない柔軟な雇用と、完成品の人材ばかりを求めるのではなく、程度の良さそうな仕掛品の人材を発掘し、採用してから自前の教育制度で完成品に仕上げてゆくといった発想の転換も必要だろう。

参考文献
・販売士ハンドブック発展編(日本商工会議所・全国商工会連合会 編)
・ビジネスキャリア検定試験 人事・人材開発2級(中央職業能力開発協会 編)

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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