休業休暇と就業制限
産前産後休業
労働基準法は、使用者が、産前6週間以内および産後8週間を経過しない女性を就業させることを禁止している。ただし産前休業は女性が休業を希望した場合に限られ、産後休業は6週間経過後に、本人が就業を希望し、なおかつ医師がそれを認めた場合には就業できる。
妊産婦の就業制限
労働基準法では妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性を妊産婦といい、妊産婦を高所業務や重量物を取り扱う業務等に従事させることを禁止している。また妊産婦が請求した場合は、時間外労働、休日労働、深夜労働もさせることができない。
管理職の女性については、時間外労働および休日労働の就業制限が適用されない(深夜労働のみ就業不可)。
育児休業・子の看護休暇
育児介護休業法では、1歳未満の子を養育する労働者は、子が1歳になるまで育児休業できるとしており、使用者は育児休業の申し出を拒否できない。またパパママ育休プラスを利用すれば1歳2ヶ月まで、保育所の入所待機などの事情があれば2歳まで育児休業できる。
育児介護休業法では、未就学児を養育する労働者は、子の看護や通院など休暇が必要な場合に、育児休業とは別に1年間に5日間まで子の看護休暇を取得することができる。子の看護休暇は有給である必要はないが、使用者は休暇の申し出を拒否できない。
残業制限と時短勤務
育児介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合は、使用者は所定労働時間を超えて就業させることができず、また未就学児を養育する労働者が請求した場合は、深夜労働および月間24時間、年間150時間を超える時間外労働をさせることができない。
また同法では、育児休業を行わなかった労働者のうち、3歳未満の子を養育する労働者が希望した場合は、使用者は所定労働時間の短縮措置を講じなければならない(ただし1日の所定労働時間が6時間以下の短時間労働者を除く)としている。
令和5年には男性の育休取得を促進するために、出生時育児休業制度が創設された。なお記事中の労働者には女性のみならず、男性も含まれる点に注意が必要である。
出産育児に関連した保険給付
出産育児一時金
被保険者である女性が出産すると健康保険から出産育児一時金が支給される。出産育児一時金の額は令和6年8月時点で、出産した子ひとりあたり48万8千円、産科医療補償制度に加入している医療機関で出産した場合は1万2千円が加算され50万円となる。
被保険者が男性で、その被扶養者である女性が出産した場合も、健康保険から家族出産育児一時金が支給される(支給額は被保険者の場合と同額)。なお出産育児一時金は被保険者に支給されるので役員も対象である。また被扶養者である女性は配偶者に限定されない。
出産手当金
被保険者が産前産後休業中に就業しなかった日について、健康保険から休業中の生活保障として出産手当金が支給される。出産手当金の額は休業開始前12ヶ月間の標準報酬月額の平均額×2/3となる。なお被扶養者の産休に対しては出産手当金は支給されない。
余談だが自営業者の加入する国民健康保険では、出産育児一時金は原則として支給するが、出産手当金については、国民健康保険の保険者である各市町村の判断に委ねるとしている(つまり各市町村の条例によってそれぞれが独自に行うことになっている)。
育児休業給付金
育児介護休業法の育児休業をしている労働者で、休業中の賃金が休業前の8割未満に低下した場合に、雇用保険から育児休業給付金が支給される。支給額は、休業180日までは休業前賃金の最高67%まで、180日後は同様に最高50%までとなっている。
自ら出産した女性の場合は、産後休業が終了してから育児休業に移行するが、配偶者が出産した男性の場合は、出産日の翌日から育児休業を取得できる。
出産育児中の社会保険料
社会保険料の免除
産前産後休業中の被保険者(女性)および育児休業中の被保険者(男性も含む)は、健康保険料と厚生年金保険料が免除される。これら社会保険料は事業主と労働者が折半して負担しているが、免除されるのは事業主と労働者の負担額の合計である。
自営業者の場合は、産前産後期間中の国民年金保険料の免除および国民健康保険料の減額の制度があるが、育児介護休業法は労働者を対象としていることから、自営業者が自ら育児休業したとしても、国民年金保険料や国民健康保険料が免除・減額されることはない。
休業休暇終了時の保険料改定
産前産後休業もしくは育児休業が明けて職場に復帰したものの、子の養育のために勤務時間を短縮した場合は、随時改定の要件を満たしていなくても、産前産後休業終了時もしくは育児休業終了時の標準報酬月額の改定を行うことになっている。
これによって定時決定や給与改定の時期を待たずとも、休業明けから最短で3ヶ月目には、低下した賃金の額に応じて標準報酬月額も引き下げられるため、出産もしくは育児を行う労働者の社会保険料の負担が軽減される。
子の養育中の標準報酬月額の特例
前項の産前産後休業終了時・育児休業終了時の標準報酬月額改定および冒頭の育児介護休業法に定める時短勤務に関連して、厚生年金保険法では、3歳未満の子を養育するために時短勤務を行った労働者に対する標準報酬月額の特例を設けている。
これは時短勤務によって標準報酬月額が下がった場合、社会保険料は改定後の標準報酬月額をもとに計算するが、将来老齢厚生年金を受け取る時は、改定前の標準報酬月額をもとに支給額を計算するという特例である。ただし離職後1年を経過するとこの制度を利用できない。
不利益取扱いおよびハラスメント防止
妊産婦の解雇制限
労働基準法は、産前産後休業およびその後30日間は労働者を解雇できないとしている。また男女雇用機会均等法では、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性に対する解雇は、無効とする旨を定めている。
妊産婦へのハラスメント禁止
男女雇用機会均等法は、妊産婦の女性に対するハラスメント行為により、また育児介護休業法では、育児を行う労働者に対するハラスメント行為により、職場環境が害されることのないよう、事業主および使用者に対して雇用管理上の措置を講じることを義務付けている。
出産育児に関する制度まとめ
本記事の内容を大まかに整理すると次のとおりとなる。配偶者が出産する男性労働者や養子を養育する女性労働者の場合は、産前産後休業の部分が、出産の翌日から出生時育児休業と出生時育児休業給付金(最大28日間)に置き換わる以外は、この図のとおりである。
育児介護休業法では、使用者が労働者から妊娠もしくは出産の報告を受けた場合は、本記事で紹介した出産および育児に関する制度の説明を行い、休業や休暇もしくは社会保険料の免除、時短勤務等の意向を確認するための面談を行わなければならないとしている。
一方で妊娠や出産、育児に関する公的な制度は、本記事を見てもわかるように、様々な制度が相互に連携しあって運用されているため、人事担当者であっても正確に網羅している人は多くない。本記事が妊産婦との面談の際に少しでもお役に立つことができれば幸いである。