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03_賃金計算

賃金に関する法令

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労働基準法の賃金支払5原則

労働者とは、事業主に労働サービスを提供する代わりに賃金を受け取って生計を立てる者をいう。また事業主は、賃金を支払うことで労働サービスを利用して事業活動を行い利益を追求する者をいい、賃金と労働サービスを介した労使間の契約を労働契約という。

このように賃金は労働契約の主要件であり、労働者にとって経済生活を維持する上で不可欠な要素であることから、多くの労働法令において、賃金に関するルールを定めている。特に労働基準法の賃金支払5原則は、他の労働法令にも共通する原理原則となっている。

通貨払いの原則

原則その1 賃金は通貨によって支払わねばならない

通貨払いの原則とは、賃金をキャッシュ以外で支払うことを禁じた規定である。たとえば使用者が資金繰りが厳しいからといって、自社の商品や金券などで賃金を支払うと、換金率の変動や現金化の手数料によって、労働者が本来受け取るはずの賃金の額が目減りする恐れがある。

ただし労働者の同意があれば、賃金を現金手渡しではなく、銀行振込や電子マネーによって支払うことは認められている。なお通勤定期を現物で支給するには、労働組合と労働協約を締結する必要があるため、労働組合のない企業では通勤定期の現物支給はできない。

直接払いの原則

原則その2 賃金は労働者に対して直接支払わねばならない

直接払いの原則は、裏社会の人身取引ブローカーなど、労働契約の当事者以外の者が介入して、他人の賃金をピンハネする行為を禁じたものである。例えば高校生のアルバイトなど、未成年者の賃金を本人に代わって親が受け取ることも禁止している。

なお労働者が病気で休養している場合に、その家族に賃金を手渡す行為や、派遣元の事業主が派遣先の事業主を介して自社の派遣労働者に賃金を支払うことは認められている。

全額払いの原則

原則その3 賃金はその全額を支払わねばならない

事業主が労働者の意向に反して賃金の一部を控除して支払うことは禁止されている。労働者の同意が無くとも賃金から控除することが認められているのは、法令によって賃金から源泉徴収するものとされている社会保険料や所得税、住民税に限られる。

もし法定控除以外に賃金から何らかの控除を行おうとする場合には、事業所ごとに労働者の過半数代表者と賃金控除にかかる労使協定を締結しなければならないが、原則として労働者の福利厚生に関するもので、なおかつ労働者の個別の同意が得られた場合に限られる。

毎月1回以上払いの原則

原則その4 賃金は毎月1回以上の頻度で支給しなければならない

例えば資金繰りに余裕のある月に数ヵ月分の賃金をまとめて支給するような方法は、労働者の経済生活を著しく不安定にするため禁止されている。ただし精勤手当や勤続手当など、1ヶ月以上の算定期間によって支給される手当は毎月払いでなくとも構わない。

年俸制についても、年俸の額を月割にして毎月1回以上支払う義務があるが、毎月1回以上支払われるのであれば12等分する必要はなく、年俸の一部を賞与として支払うことも可能である。

年俸の一部を賞与として支払った場合でも、すでに支給額が確定していることから、時間外割増賃金の計算を行う際には賞与分も含める必要がある。

一定期日払いの原則

原則その5 賃金の支払は特定の日を決めて行わねばならない

給料日は毎月◯日というように特定の日としなければならない。もし給料日を「毎月第3金曜日」とすると、月によって支給日が7日以上変動してしまい、労働者の家計のやりくりが大変になるからである。なお前項同様に精勤手当や勤続手当などは対象外となっている。

賞与については、年度ごとに役員会を開いてその都度、支給日を決めても違法ではない。ちなみに賞与の支給要件を「賞与支給日に在籍する者に限る」とする就業規則は、賞与が報奨的な性格の強いものであれば、有効であるという判例がある。

賃金支払5原則は、基本給のみならず時間外労働や法定休日労働、深夜労働に対する割増賃金、また事業主の都合による休業時の休業手当についても適用される。賃金支払5原則に違反した場合、違反事案1名あたり30万円の罰金刑が科される。

賃金に関連するその他の法令

最低賃金(最低賃金法)

労働基準法は、事業主に対し、労働者に最低賃金以上の賃金を支払う義務を課している。最低賃金は最低賃金法に定められており、時間単価で設定されている。最低賃金には全ての労働者に適用される地域別最低賃金と特定産業に限定して適用される特定最低賃金がある。

自社の賃金単価が最低賃金に達しているかどうか判断するには、労働者ごとの賃金を下表にもとづいて因数分解し、最低賃金の対象となる額を特定し、自社の地域別最低賃金もしくは特定最低賃金と照合する(これらが重複する場合は、金額の高い方を支払う義務がある)。

最低賃金の対象となる賃金(厚生労働省)公式サイトより転載

未払賃金に対する遅延利息(賃金支払確保法)

賃金支払確保法では、事業主が退職者の賃金(退職手当を除く)を退職日までに支払わなかった場合、年14.6%の遅延利息を支払う義務を定めている。ただし最後の給料日が退職日の後になる場合は、最後の給料日までに支給されなかった金額に対して遅延利息が発生する。

未払賃金の立替(賃金支払確保法・労働者災害補償保険法)

事業主が破産した時に、もし労働者に対する未払賃金があれば、賃金支払確保法にもとづき、労災保険の付帯事業のひとつである未払賃金立替払事業から、下表に応じた一定の額が立替払いされる(ただし未払賃金の総額が2万円未満は対象外)。

賃金の先取特権(民法)

事業主が裁判所に破産を申し立てると、裁判所が選任した破産管財人が倒産事業の残余財産を調べ、債権者の持ち分に応じて財産分与を行って事業を清算するが、従業員の未払賃金には先取特権があるため、他の債権者へ弁済に優先して支払いが行われる。

減給の制裁(労働基準法)

業務上のミスや遅刻などの服務規律違反に対する罰金を賃金から控除することは、罰金を減給処分として就業規則に明記し、労働者に周知している場合には可能である。ただし減給できる額は1日あたり平均賃金の1/2以下、1ヶ月あたり総支給額の1/10以内という上限がある。

一方で職場に迷惑をかけたことに対する損害賠償や損失補てんとして定額の罰金を日常的に徴収することは、労働基準法の損害賠償予定の禁止、労働契約法の懲戒権の濫用、民法の報償責任の原則に抵触する可能性が高く、認められない。

民法の報償責任の原則とは、事業主は労働者を就業させることで利益を得ているのだから、労働者の業務上のミスによって生じた損失についても、事業主が負うべきというルールである。

賃金の事務処理に関するルール

賃金と報酬

労災保険や雇用保険などの労働保険料を算定する時は給与のことを賃金といい、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料を算定する時は報酬というが、これは労働保険が労働者のみを対象としているのに対し、社会保険は法人の役員も被保険者としてるからである。

なお給与という用語は、税法における課税標準額(収入から経費を控除した後の課税対象額)の算定ベースとなるものを指す。たとえば「年末調整の手引」「源泉所得税のあらまし」などにおいて用いられている。

端数処理

賃金計算の過程で行われる端数処理は、労働基準法の賃金全額払いの原則に違反しないものとされている。ただし無制限に認められている訳ではなく、次のルールにもとづいて端数処理した場合に限られる。

  • 1ヶ月間の時間外勤務、休日出勤、深夜勤務等の合計時間
    →1時間未満の端数を30分未満切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる
  • 1ヶ月間の時間外手当、休日手当、深夜手当等の合計金額
    →1円未満の端数を50銭未満切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる
  • 1ヶ月間の賃金の支払い総額
    →100円未満の端数を50円未満切り捨て、50円以上を100円に切り上げる

賃金計算ミスの訂正

賃金計算のミスによって過払いしてしまった賃金を、翌月に支払う賃金で相殺することは、相殺する時期、相殺する金額、相殺する方法が不当に労働者の経済生活を脅かすものでない限り、賃金全額払いの原則には違反しないものとされている。

労働基準法の賃金全額払いの原則の趣旨は、労働者に支払うべき賃金はきちんと全額支払え、というものだが、過払い分の相殺は単なる計算ミスの訂正なので根本的に意味合いが違う。従って過払い分の相殺にあたって労使協定を締結する必要もない。

給料日が土日祝日の場合

給料日が土日祝日など金融機関の休業日の場合は、休業日前もしくは休業日後に支払えば、賃金の一定期日払いの原則に違反しないものとされている。このようなケースでは休業日前に支給する事業主が一般的だが、休業日前でなければならないという決まりはない。

賃金に関する法令まとめ

冒頭で述べたように賃金は労使関係の基本中の基本であり、厳しいことを申し上げると、賃金に関するコンプライアンスすらまともに遵守できないような事業主や使用者は、そもそも労働者を使用して事業活動を営む資格など無い。

ゆえに本記事を参考に賃金に関するコンプライアンスを再認識するとともに、実務担当者をしっかり教育し、また内部不正防止のために複数担当者によるチームプレーで賃金計算や支払事務を行うことを推奨したい。

なお賃金の支払いが遅延した場合には、信用調査会社が会員企業に対して「◯◯社 遅配」などといった注意喚起のメールを配信することがあり、自社に対する信用不安から融資の一括返済、リース契の解除、取引条件の変更などを要求されるリスクがあるので注意が必要である。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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