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02_労働安全衛生

労災保険給付の概要

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労災保険制度の目的

労災保険とは?

労働者が業務に起因して負傷したり病気になったりすることを労働災害(労災)といい、人事管理の実務において労災と私傷病と区別している。その理由は労災は労災保険から、私傷病は健康保険から、療養費や休業補償などの保険給付が行われるためである。

労災は業務遂行中に被災した場合の業務災害と通勤中に被災した場合の通勤災害があり、業務災害も通勤災害も労災保険から必要な保険給付が行われる。なお労働基準法では業務災害に限り、事業主に対して被災労働者への経済的補償を義務付けている。

一方で事業主の資力不足によって被災労働者への補償が滞ることのないように、労災保険が事業主の災害補償義務を代行することになっている。労災保険制度は強制加入かつ保険料の全額を事業主が負担することになっているのはこのためである。

業務災害に対する保険給付を◯◯補償給付といい、通勤災害に対する補償を◯◯給付という。この記事では◯◯(補償)給付のようにひとまとめにして解説してゆく。

労災保険の種類

労災保険は被災した労働者の傷病、休業、障害、介護、死亡などに対して保険給付を行い、過重労働による脳疾患や心疾患予防のために2次健康診断等給付を行う。さらに保険本体の付帯事業として、被災労働者の社会復帰促進等を目的とした特別支給金の給付も行っている。

労災保険制度一覧

労災保険給付の概要

給付方式のちがい

労災保険から行われる各種給付は、給付方式によって次の4つに分類される。まず大まかに現金給付と現物給付の2つ、そして現金給付は日払い、年払い、一時金払いの3つとなっている。

  1. 現金給付① 日払方式の保険給付(軽症者への短期的な保険給付)
  2. 現金給付② 年金方式の保険給付(重症者への長期的な保険給付)
  3. 現金給付③ 一時金方式の保険給付(一括清算を目的とする保険給付)
  4. 現物給付 (医療行為や介護サービス、健康診断そのものを提供する)

ちなみに前項の表を給付方式ごとに整理しなおすと次のようになる。

給付単価のちがい

労災保険給付の額は、原則として給付基礎日額(単価)×法定の給付日数(数量)によって算定される。そして給付基礎日額は、まず原則的な給付基礎日額を算定し、給付方式ごとに定められた諸々の調整を行って確定する。

原則的な給付基礎日額>
原則的な給付基礎日額=労災発生日以前の3ヶ月間の賃金総額÷同3ヶ月間の暦日数
原則的な給付基礎日額の計算方法は、労働基準法の平均賃金と概ね同じだが、労災保険法に定める給付基礎日額の計算は、①円位未満の端数切り上げ、②最低保証額に満たない場合は自動的に最低保証額(自動変更対象額)を適用する点において異なる。
<日払方式の給付基礎日額>
初回の保険給付は原則的な給付基礎日額により計算し、2回目からは四半期ごとの毎月勤労統計の平均給与の増減に応じて、原則的な給付基礎日額をスライド改定する。以後は直近の改定を行った四半期と、現在の四半期を比較して、スライド改定の有無を判断する。

⚠1月〜12月の四半期ごとに、毎月勤労統計の平均給与が±10%を超える変動があった場合に、翌々月の四半期から現在の給付基礎日額に変動率を乗じてスライド改定する。
<年金方式の給付基礎日額>
初回の保険給付は日払方式と同じだが、2回目からは保険年度ごとに毎月勤労統計の平均給与を比較し、±1%でも増減があれば翌年度の8月から給付基礎日額のスライド改定を行う(年金方式は常に初回の保険年度と現在の保険年度の平均給与を比較する)。

⚠労働保険年度=毎年4月〜翌年3月。
<一時金方式の給付基礎日額>
一時金方式の給付基礎日額の計算方法は、年金方式の給付基礎日額と同じだが、スライド改定の有無は、労災に遭った日の属する保険年度と保険給付の受給権を取得した日の属する保険年度を比較して判断する。

年金方式の給付基礎日額と、保険給付の開始から1年6ヶ月経過した日払い方式の給付基礎日額は、それぞれスライド改定を行った後に、年齢階層別の最低限度額・最高限度額表に照らし合わせ、もし不足や超過があれば被災した労働者の年令に応じた限度額が適用される。

厚生労働省のホームページより転載

年金方式の給付基礎日額は毎年8月1日時点の年令、日払方式の給付基礎日額は保険給付を受けようとする四半期の初日の年令をもとに、年令階層別の最低限度額・最高限度額表を適用する。

労災保険給付の概算額

現金給付①(日払方式)

休業(補償)給付
労災による療養のため休業し、会社から賃金を支給されない場合に、4日目から休業状態もしくは無給状態が解消されるまで、休業した日ごとに日払いの給付基礎日額の60%が労災保険から支給される(実務上は月単位で保険給付を労働基準監督署に請求する)。

現金給付②(年金払方式)

傷病(補償)年金
休業(補償)給付を受給している労働者が、1年6ヶ月を経過しても休業および無給の状態が続いており、なおかつ労災保険法施行規則に定める傷病等級第1級〜第3級に該当した場合に、年金払いの給付基礎日額に法定の日数を乗じた額が、年金で給付される。

障害(補償)年金
労災により、労働者が労災保険法施行規則に定める障害等級第1級〜第7級の障害に該当した場合に、年金払いの給付基礎日額に所定の日数を乗じた額が、年金で給付される。

遺族(補償)年金
労災によって労働者が死亡した場合に、年金払いの給付基礎日額に、受給権者(法定の受給要件を満たす遺族)の人数に応じた日数を乗じて得た額が、年金で給付される。

年金の支給方法は、年額を2ヶ月単位で6分割して偶数月の15日に前2ヶ月分を給付する(国民年金や厚生年金保険も同じ)。

現金給付③(一時金方式)

障害(補償)一時金
労災により、労働者が労災保険法施行規則に定める障害等級第8級〜第14級の障害に該当した場合に、一時金払いの給付基礎日額に所定の日数を乗じて得た額が一括で給付される。

障害(補償)差額一時金
障害(補償)年金を受給している労働者が死亡した時に、これまで受給した日数が法定の上限日数に満たない場合は、上限日数から受給済の日数を差し引いた残りの日数に一時金の給付基礎日額を乗じて得た額が遺族に一括で給付される。

障害(補償)差額一時金の給付日数

遺族(補償)一時金
労災によって労働者が死亡した時に、遺族(補償)年金の受給資格を満たす遺族がいない場合は、一時金の給付基礎日額の1,000日分を他の遺族に一括で給付する。

遺族(補償)年金を受給していた遺族が受給資格を喪失した時に、これまで受給した日数が1,000日分に満たない場合は、1,000日から受給済の日数を差し引いた残りの日数に一時金の給付基礎日額を乗じて得た額が一括で給付される。

葬祭料(葬祭給付)
労災により、労働者が死亡した場合に、葬祭を行う者に対して次の額のいずれか高い方を、葬祭料(葬祭給付)として給付する。

  • 一時金払いの給付基礎日額×30日+315,000円
  • 一時金払いの給付基礎日額×60日

現物給付

療養(補償)給付
労災による負傷や病気に対する診察、検査、手術、入院、薬剤などの医療費を、医療サービスとして保険給付する。

療養(補償)給付の現物給付が行われるのは労災指定病院を受診した場合に限られる。労災指定病院以外の保険診療病院を受診した場合は、いったん医療費を全額立替え、後日に労働基準監督署に還付請求する(現物給付→現金給付に切り替わる)。

介護(補償)給付
傷病(補償)年金もしくは障害(補償)年金の受給者で、傷病(障害)等級第1級〜第2級に該当し、常時もしくは随時介護を要する者に対して、介護サービスとして保険給付する。

2次健康診断等給付
脳血管疾患、虚血性心疾患を予防するために、労働安全衛生法に定める定期健康診断において所定項目の全てに異常所見のあった労働者に対し、2次健康診断として保険給付する。

労災保険給付の概要まとめ

労災保険の受給要件や給付内容は厚生労働省のホームページに、給付ごとに詳細に記載されているが、労災保険制度はボリューミーかつ健康保険や厚生年金保険、国民年金などと給付内容が重複しており、日頃実務に携わっていない者が各論から入ってゆくと混乱するだろう。

労災保険制度は、保険料の全額を事業主が負担するため被保険者という概念がない、といった独特さがあるが、一方で労災保険の年金制度は厚生年金保険や国民年金の制度設計時の手本とされた完成度の高い制度でもある。

特に複雑怪奇な厚生年金保険は、人事労務の実務家であっても苦手意識を持っている人は少なくないが、労災保険制度の原理原則を知ることで、厚生年金保険制度なども理解できるようになるだろうと思われる。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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