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07_傷病時の制度

療養(補償)給付

2024年9月28日

療養補償給付のアイキャッチ画像

療養(補償)給付の概要

制度の目的

療養(補償)給付は、労働者が業務災害もしくは通勤災害により負傷したり病気になったりした時に、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)にもとづき、療養のために必要とする医療サービスを、労災保険が費用を負担することによって提供するものである。

療養のために必要な医療サービスとは、主に診察、検査、処置、手術、薬剤、手術、リハビリなどで、救急車による患者搬送や訪問看護サービスも含まれる。これらは私傷病により健康保険を利用して医療機関を受診した時の各種給付と概ね同じ内容となっている。

労災保険法では、業務災害に対する保険給付を「◯◯補償給付」、通勤災害に対する保険給付を「◯◯給付」というが、本記事ではまとめて「◯◯(補償)給付」とする。

対象となる労働者

国家公務員や地方公務員、法人の経営者、個人事業主、個人事業の家族従業者、家事使用人などを除き、労災保険の適用事業所で働いている労働者であれば、正規雇用か非正規雇用か、また年令や性別、国籍などを問わず、誰でも療養(補償)給付の給付対象となる。

なお上記の適用除外者が労災にあった場合は、国家公務員や地方公務員は公務員共済から、個人事業主および家族従業者などは国民健康保険から給付が行われる。また一定規模以下の中小企業の経営者であれば、労災保険に特別加入できる制度もある。

民間事業者の場合、常時5人未満の労働者を使用する農業と水産業、常勤の労動者を使用しない林業を除き、全ての事業所に労災保険が適用される。

療養(補償)給付の内容

給付される額

療養(補償)給付は、原則として医療サービスの提供そのもの(現物給付)によって行われる。また療養(補償)給付は医療費の全額なので、被災した労働者は医療機関の窓口で一部負担金を支払う必要はないが、現物給付を受けるには労災指定病院を受診する必要がある。

やむを得ない事由により労災指定病院以外の医療機関を受診した場合は、いったん医療費の全額を立替払いし、追って所轄の労働基準監督署を経由して労災保険に療養の費用(還付金)の請求を行う。つまりこの場合の療養(補償)給付は現物ではなく現金で行われる。

労災認定に時間を要する場合は、先に健康保険証で医療機関を受診して一部負担金を支払い、労災認定された後に、支払った部分について労災保険に還付請求できる。

給付される期間

療養(補償)給付は、医療機関に所定の給付申請書を提出することで請求し、通常は労災認定されることを前提に初診日から療養(補償)給付が行われる。もし事情あって療養の費用を請求した場合は、概ね請求月の翌月に労働者個人の金融機関口座に給付金が振り込まれる。

療養(補償)給付は被災した労働者が療養を必要とする状態が続く限り行われ、労動者が退職した場合でも引き続き労災保険から給付が行われる。療養(補償)給付の受給権が失権するのは、傷病が治癒した時(障害状態になった場合を含む)と労働者が死亡した時である。

給付の事務に関すること

請求手続き

療養(補償)給付の具体的な請求手続きは、請求の目的に応じた所定の様式を、それぞれの担当先に遅滞なく提出することによって行う。なお書面上は被災労動者が申請するような表現になっているが、専門知識の乏しい労動者に代わって事業主が事務を処理する義務がある。

<労災指定病院を受診したとき>
・業務災害〜療養補償給付たる療養の給付申請書(第5号)
・通勤災害〜療養給付たる療養の給付申請書(16号の3)
 ⇛受診する医療機関の窓口に提出する
<労災指定病院以外の医療機関を受診したとき>
・業務災害と通勤災害共通〜療養(補償)等給付たる療養の費用請求書
 ⇛事業場の所轄労働基準監督署に提出する
<受診する労災指定病院を変更するとき>
・業務災害〜療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(第⑥号)
・通勤災害〜療養給付たる療養の給付をうける指定病院等(変更)届(16号の④)
 ⇛所定の届出を変更後の医療機関に提出する

療養の費用の請求に際して、いったん医療費の全額を立替払いする必要があるが、業務災害についてはそもそも事業主に災害補償義務があること、また被災労働者の経済的負担なども考慮して、事業主が立替金を支払うのが望ましい。

療養(補償)給付金は労働者個人の金融機関口座に振り込まれるため、事業主が医療費を立替えるにあたって、事業主と労動者との間で立替金返還にかかる覚書などを交わしておくと後日の金銭トラブルを防止できる。

費用の負担

療養(補償)給付は療養に要する費用の全額に対して給付されるため、健康保険のような一部負担金はない。ただし通勤災害による療養給付については、初診時に限り一部負担金として200円を被災労働者から徴収することになっている。

なお一部負担金の徴収は初回の休業給付金から控除する方法で行われるため、休業給付を受給しない(療養のために休業しない)場合は、一部負担金は徴収されない。また被災した労動者が3日以内に死亡した場合も、一部負担金は徴収されない。

労災保険料は事業主が全額負担することになっているため、労動者には保険料の負担も生じない。

療養補償給付まとめ

健康保険制度との比較

冒頭で療養(補償)給付の内容は健康保険と概ね同じであると述べたが、参考までに公的医療保険の各種制度と労災保険の療養(補償)給付を比較すると次のとおりとなる。

各種公的医療保険制度の比較表

なお労災保険制度の付帯事業として行われている特別支給金は、療養(補償)給付などの現物給付に対しては設定されていない。

労災保険給付と特別支給金の対応表

労災隠しは使用者失格

労災保険は民間事業におけるあらゆる事業場に適用される強制加入の制度であり、そこで働く全ての労動者が労災保険から保険給付を受けることができる。そして最も重要なことは、労災の認定は使用者ではなく、事業場を所轄する労働基準監督署長が行うということである。

それにも関わらず、屁理屈をこねまわして労災隠しを行おうとする姑息な使用者は少なくないが、業務災害についてはそもそも事業主の災害補償義務を労災保険が代行していること、そして毎年高額な労災保険料を納めているのだから、労災保険を使わない手はない。

なお労災事故の多い事業者は労災保険法のメリット制によって翌年度の保険料率がアップすることがあるが、だからといって労災を隠蔽するのは愚物の所業である。むしろ労災事故を減らすことに経営資源を傾注することこそ、賢明な経営者の態度というものではないだろうか。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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