人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当法人は、本院のほかに地方で分院を展開する歯科医療法人です。近年の深刻な歯科衛生士不足と近隣競合校の進出、さらに技工料の高騰により分院の経営が悪化し、苦渋の決断ながら分院を閉鎖することになりました。
現在、当該分院には以下のスタッフが在籍しています。
- 正社員(歯科医師・歯科衛生士)
- 嘱託職員(定年後再雇用・有期契約)
- パート職員(無期雇用)
- パート職員(有期契約)
法人としては、有資格者の正社員は本院へ配置転換して雇用を維持したいと考えていますが、歯科助手や受付を担うパート職員については、全員に退職(解雇)をお願いせざるを得ない状況です。
1年前には告知を行い、閉鎖日まで勤務を継続してくれたスタッフには特別インセンティブの支給も検討していますが、以下の点について法的なリスクと実務上の留意点を教えてください。
- 整理解雇の有効性: 「パート職員から優先的に解雇し、正社員を残す」という人選基準は法的に認められますか?
- 有期雇用の雇い止め: 有期契約のパートであれば、契約満了をもって終了とすれば問題ないでしょうか?
- 失業給付への配慮: 閉鎖に伴う離職者が、ハローワークで「特定受給資格者」として有利に基本手当(失業保険)を受給できるようにするための実務的なサポートはありますか?
ご相談への回答

診療所の閉鎖に伴う人員削減は、スタッフの生活に直結する重大な問題です。特に小規模な歯科クリニックでは、雇用形態による区別がトラブルになりやすいため、裁判例でも確立されている「整理解雇の4要件」を遵守しつつ、誠実な対応が求められます。
整理解雇が有効とされる「4要件」の壁
経営難等による人員削減(整理解雇)が法的に有効とされるためには、次の4つの要件をすべて満たさなければなりません。
- 人員削減の必要性: 分院閉鎖や経営悪化により、人員を減らさざるを得ない客観的な状況があること。
- 解雇回避努力: 役員報酬のカット、新規採用の停止、希望退職者の募集、配置転換の検討など、解雇を避けるための経営努力を尽くしたこと。
- 人選の妥当性: 「なぜその人が解雇対象なのか」という基準が客観的で公平であること。単に「パートだから」という雇用形態の差だけで優先的に解雇対象とすることは、業務内容や勤続年数に照らして不当とされるリスクがあります。
- 手続の妥当性: 労働者に対して誠実に説明を行い、充分に協議すること。
貴院の場合、正社員を配置転換する一方でパートを解雇する方針について、その職務の専門性(歯科医師・衛生士 vs 助手)や法人全体の人員計画に基づき、「正社員を残すことの合理性」を客観的に説明できるようにしておく必要があります。
「有期雇用=雇い止め可」という誤解
有期契約のスタッフであっても、何度も契約更新を繰り返している場合や、採用時の経緯から「次も更新される」と期待することに合理的な理由がある場合は、無期雇用と同様の扱い(整理解雇の法理)が適用されます。 3回以上の更新、または雇入れから1年を超えて継続勤務しているスタッフについては、契約満了の30日前までに予告し、請求があれば具体的な理由(分院閉鎖等)を明記した証明書を交付しなければなりません。
「特定受給資格者」としての失業給付への配慮
事業所閉鎖に伴う離職は、ハローワークにおいて「特定受給資格者」に該当し、自己都合退職に比べて基本手当の給付日数や待機期間が大幅に優遇されます。 事業主として以下の配慮を行うことで、スタッフの離職後の経済的不安を軽減し、円満な合意形成を図ることが可能です。
- シフト調整による要件確保: 雇用保険に未加入のパートがいる場合、閉鎖までの期間に週20時間以上の契約に変更して加入させます。
- 賃金支払基礎日数の確認: 離職前12ヶ月間のうち、賃金支払基礎時間が80時間以上(または基礎日数11日以上)ある月が6ヶ月以上あれば、受給資格を得られます。
- 離職証明書の正確な記載: 離職理由には「事業所の廃止(分院閉鎖)」等の事業主都合であることをありのまま記載します。離職理由の最終判定はハローワークが行いますが、会社側が「事業主都合」として手続きを行うことが大前提です。
退職金と「3倍返し」のリスク
退職金を支給する場合、就業規則に「会社都合退職」の規定を設けることで、税務上の「退職所得控除」をフルに活用でき、スタッフの手取り額を実質的に増やすことができます。 一方で失業給付を多く受け取らせるために「架空の勤務実績」を申告することは不正受給に該当します。発覚した場合、支給額の3倍を納付させられる等の重いペナルティ(3倍返し)が法人にも及ぶため、あくまで実態に基づいた適正な管理を徹底してください。
本件のポイント

- 「パート優先の解雇」には客観的な合理性が必要であり、雇用形態以外の基準(業務内容の代替可能性等)も精査すべきである。
- 有期契約スタッフでも、長期間の勤務実態があれば無期雇用と同様に整理解雇の4要件をクリアしなければならない。
- 離職者が「特定受給資格者」となれるよう、閉鎖までの期間に適切な雇用保険加入とシフト調整を行うことが、最大の誠意となる。
- 解雇予告手当(30日分以上)の支払いやインセンティブの提示により、労使協議における「手続の妥当性」を高める。
- 正確な離職票の作成と、失業給付の仕組みを丁寧に説明することが、スタッフとの信頼関係を維持し、訴訟等の法的リスクを回避する鍵である。
苦しい経営判断だからこそ、去りゆくスタッフに対していかに誠実に「次の一歩」への架け橋を提示できるかが、医療法人としての品格とガバナンスを問われる局面となります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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