人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師2名、歯科衛生士6名、受付・助手3名の計11名が勤務する歯科クリニックです。スタッフのモチベーション向上と公平な処遇を目的として、この度「歯科衛生士人事評価制度」を導入し、詳細な「評価運用基準」と「賃金プロット図」を策定しました。
また、あわせて診療補助の「標準マニュアル」や「接遇マニュアル」も作成し、院内の教育体制を整えています。
事務長から「スタッフが10人を超えているので、新しく作ったこれらの規程やマニュアルもすべて労働基準監督署に届け出る必要があるのではないか」と相談を受けました。
以下の点について教えてください。
- 就業規則本体以外に、別冊で作った「評価運用基準」や「給与テーブル」なども労基署への届出義務があるのでしょうか?
- 「ハラスメント防止規程」を新設した場合の扱いはどうなりますか?
- 診療の手順をまとめた「業務マニュアル」についても、変更のたびに届け出なければならないのでしょうか?
就業規則が膨大になるのを避けるため、細かな基準は別規程にしているのですが、届出の基準がわからず困っています。
ご相談への回答

歯科クリニックの組織化が進むにつれ、就業規則本体だけでなく、評価制度やハラスメント防止などの個別規程を整備することは非常に重要です。結論から申し上げますと、「賃金」や「退職」などの労働条件に直結する規程(委任規程)は、就業規則の一部とみなされるため、労基署への届出が必要です。
「委任規程」という考え方
雇用形態や職種、あるいは評価基準などの詳細をすべて本体の就業規則に盛り込むと、規則が膨大になり使い勝手が悪くなります。そのため「詳細は別途、◯◯規程で定める」として一部を分離させることが一般的ですが、これを「委任規程」と呼びます。
委任規程は、たとえ別冊であっても法的には就業規則と一体を成すものとして扱われるため、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則本体と同様に新規届出や変更届出の手続きを行わなければなりません。
届出が必要な規程の具体例
労働基準法で定められた「必要記載事項」に関連する規程は、原則としてすべて届出の対象となります。
- 賃金・評価に関連するもの: 賃金規程、給与テーブル、昇任昇格規程、人事評価規程、賞与支給基準など。これらは「賃金の決定、計算方法」という絶対的必要記載事項に該当します。
- 休職・労働時間に関連するもの: 育児介護休業規程など。
- 表彰・懲戒に関連するもの: ハラスメント防止規程など。ハラスメントに関する定めは、通常「制裁(懲戒)」の委任規程とされるため、相対的必要記載事項として届出が必要です。
- 福利厚生に関連するもの: 退職金規程、社宅貸与規程など。
「業務マニュアル」と届出の要否
一方で、ご質問にある診療手順をまとめた「標準マニュアル」や「接遇マニュアル」については、扱いの判断が異なります。
- 一般的な業務手順書: 器材の準備、練和の方法、清掃手順などを定めた純粋な「マニュアル(手順書)」は、直接的な労働条件(賃金や労働時間など)を定めるものではないため、原則として労基署への届出は不要です。
- 例外的なケース: ただし、そのマニュアルの中に「手順を守らない場合は懲戒に処す」といった服務規律が含まれていたり、マニュアルの遵守状況が直接的に賃金カット等の制裁に結びついていたりする場合は、就業規則の一部として届出を求められる可能性があるため注意が必要です。
本件のポイント

- 就業規則本体から詳細を委任された規程(賃金規程、評価規程、ハラスメント規程等)は、就業規則と一体であり届出が必須である。
- 常時10人以上の労働者がいる場合、これらの規程を新設・変更する際は、労働者代表の意見書を添えて届出なければならない。
- 労働条件に関わらない「業務マニュアル」は原則届出不要だが、院内教育のために活用し、労働者に周知しておくことが望ましい。
- 10人未満のクリニックであれば届出義務はないが、懲戒権や業務命令権の根拠とするために、規程を作成してスタッフに周知しておくことが重要である。
評価基準を明確にし、正しく届出を行うことは、クリニックの透明性を高め、歯科衛生士などの専門職が安心して長期的にキャリアを形成できる環境づくりにつながります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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