人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、GW(ゴールデンウイーク)や盆、年末年始などの繁忙期に合わせて「1年単位の変形労働時間制」を導入している歯科クリニックです。1年間のカレンダーをあらかじめ作成し、スタッフにも周知しています。
今年のGWはカレンダー通り5連休とし、その期間の所定労働時間はすべて「0時間」として設定していました。しかし、急患の対応や器材のメンテナンスが必要になり、ある歯科衛生士に連休中の1日に出勤してもらうことになりました。
事務長から、給与計算について以下の質問がありました。
- カレンダー上で「所定0時間」となっている休日(連休中)に8時間働かせた場合、その8時間分はすべて「休日出勤」として、35%以上の割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?
- 「8時間までは通常の時給(1.0倍)でよい」という話も聞きましたが、本当でしょうか?
- 休日出勤してもらった代わりに、別の労働日を休みにする「休日振替」を行う際、何か注意すべき点はありますか?
ご相談への回答

1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ「労働日」と「所定労働時間」を厳格に特定する制度です。そのため、突発的な出勤が発生した際の割増賃金計算は、通常の勤務体系とは異なる独自のルールが適用されます。
所定0時間の日の計算(日単位のルール)
変形労働時間制において、あらかじめ特定された所定労働時間が8時間未満の日(所定0時間の日を含む)については、「法定労働時間(8時間)」を超えた部分から時間外労働としての割増(25%以上)が必要となります。
したがって、カレンダー上で所定0時間となっている日に出勤させた場合、8時間までは通常の賃金(1.0倍)の支払いで足り、8時間を超えた部分についてのみ、25%以上の割増賃金を支払えば法的に問題ありません。※日曜などの「法定休日」に特定していた場合は、全時間に35%以上の割増が必要です。
「週単位の40時間ルール」との兼ね合い
上記はあくまで「1日単位」の判定です。日単位で割増が不要であっても、以下の場合は「週単位」での割増支払いが必要になります。
- その日の労働が8時間以内であっても、その週の他の労働日との合計が週の法定労働時間(40時間)を超えている場合は、その超えた部分のすべてに割増賃金(25%以上)の支払いが必要です。
休日振替の制限と注意点
1年単位の変形労働時間制において、最も注意すべきなのは「一度特定した労働日や労働時間は、後から自由に変更できない」という原則です。
- 振替の困難さ: 使用者が業務の都合により、対象期間の途中で任意に労働時間を変更することは認められていません。
- 不利益変更のリスク: やむを得ず休日を振り替える場合、振替後の週の労働時間が法定労働時間を超えるときは、その超える時間はすべて「時間外労働」となり、割増賃金が必要になります。
- 「相殺」は不可: 出勤した休日分を別の日に休ませて、割増分(0.25倍)だけを支払うといった安易な処理は、1年単位の変形制の趣旨に鑑みて適切ではありません。
本件のポイント

- 所定0時間の日(休日)に出勤させた場合、8時間までは割増なしの「1.0倍」の支払いで足りる。
- 8時間を超えた労働、または週40時間を超えた労働については、25%以上の時間外割増賃金が必要である。
- 1年単位の変形労働時間制では、対象期間(1年)の途中で、会社側が一方的に労働日や時間を変更することは原則としてできない。
- 振替休日を適用する場合でも、週40時間を超過するリスクや、日単位での残業判定が残るため、正確な勤怠集計が不可欠である。
長期連休があるからこそ、変形労働時間制のメリットを活かした運用が重要ですが、突発的な出勤が発生した際は「日・週・期間」の3段階でのチェックを怠らないようにしましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。