人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師3名、歯科衛生士5名、歯科助手・受付4名が勤務する歯科クリニックです。この度、労務管理の適正化を図るため、給与計算ソフトの設定と「賃金台帳」の記載項目を見直しています。
現在、当院では1名の勤務歯科医師と、現場リーダーである「歯科衛生士長」を、労働基準法上の「管理監督者」として扱っています。彼らは月給制(固定給)であり、残業代(時間外手当)の支給対象外としているため、これまでは賃金台帳の「労働時間数」や「残業時間数」の欄を空欄、あるいは「ー(バー)」で処理してきました。
しかし、事務長から「管理監督者であっても、賃金台帳には労働時間を記載する義務があるのではないか」という指摘を受けました。
以下の点について詳しく教えてください。
- 残業代を時給換算して支払う必要がない歯科医師や管理職についても、賃金台帳に「労働時間数」を記載することは法的な義務なのでしょうか?
- もし記載が必要な場合、具体的にどの項目を記入しなければなりませんか?また、残業時間などが「0(ゼロ)」の場合、どのように表記するのが適切でしょうか?
- 労働安全衛生法上の「労働時間の客観的把握」との関係についても、実務上の注意点があればアドバイスをお願いします。
歯科現場では「院長やリーダーにタイムカードを打たせるのは失礼にあたるのではないか」という心理的な抵抗感もあり、正確な法実務を整理したいと考えています。
ご相談への回答

歯科クリニックにおいて、専門職である歯科医師やリーダー格の歯科衛生士の勤怠管理をどのように行うかは、ガバナンスとコンプライアンスの両面で非常に重要なテーマです。結論から申し上げますと、管理監督者であっても、賃金台帳への「労働時間数」の記載は法的な義務であり、省略することはできません,。
賃金台帳への記載義務と法的根拠
労働基準法第108条および同法施行規則第54条では、賃金台帳に記入すべき「法定事項」を定めています,。これには、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、そして「労働時間数」が含まれます,。
労働基準法第41条により、管理監督者は「労働時間、休憩、休日」に関する規定の適用から除外されますが、これはあくまで「残業代(時間外・休日手当)の支払い義務」が免除されるという意味です。賃金台帳の作成義務そのものを免除する特例は存在しないため、支払う賃金の形態(固定給か時給か)にかかわらず、実際に何時間働いたのかを台帳に記録しなければなりません。
賃金台帳に記載すべき具体的な項目
管理監督者として扱うスタッフについても、以下の項目を賃金台帳に遅滞なく記入する必要があります。
- 労働日数および労働時間数: その期間中の総出勤日数と、休憩時間を除いた総労働時間を記入します。
- 深夜労働時間数: 管理監督者であっても、深夜労働(22時〜翌5時)に対する割増賃金の支払い義務は免除されないため、この時間帯の労働時間数は必ず把握し、記載しなければなりません。
- 「0(ゼロ)」表記の工夫: 該当しない項目(例えば管理監督者の「時間外労働時間数」など)は、単なる空欄にすると「記入漏れ」なのか「対象外」なのかが判別できません。実務上は、実績がゼロの場合は「0」と記入し、最初から制度の対象外である項目については「ー(バー)」や「/(スラッシュ)」を用いるなど、第三者が一目で判断できる表記を工夫することが推奨されます。
労働安全衛生法上の「客観的把握義務」との関係
現在の人事労務管理において最も注意すべきなのは、2019年4月に施行された改正労働安全衛生法です。この法律により、事業主は管理監督者を含むすべての労働者に対し、タイムカードやICカード等の客観的な方法で労働時間を把握し、その記録を3年間保存することが義務付けられました。
歯科医師や衛生士長の過重労働による健康障害(脳・心臓疾患やメンタル不調)を防ぐため、月80時間を超える時間外労働が発生した場合には産業医への報告や面接指導が必要となります。賃金台帳に労働時間を正確に記載することは、こうした「健康管理義務」を適切に履行していることを証明する唯一の手段となります。
本件のポイント

- 労働基準法上、管理監督者であっても賃金台帳への「労働時間数」の記載は省略できない法定義務である。
- 管理監督者であっても「深夜労働」の割増賃金は支払う必要があるため、深夜帯の労働時間は必ず別枠で集計し、記載しなければならない。
- 賃金台帳は「賃金計算の根拠」を示す書類であり、固定給であっても算定の基礎となった労働日数と時間数の裏付けが必要である。
- 労働安全衛生法により、すべてのスタッフの出退勤をタイムカード等の客観的な方法で記録・把握することが義務付けられている。
- 正確な時間管理は、スタッフの健康を守るだけでなく、「名ばかり管理職」との指摘を受けた際のリスクヘッジや、労働基準監督署の調査への対応に不可欠である。
「医師やリーダーだから管理不要」という古い慣習を改め、デジタルツール等を活用してスマートに時間を記録する体制を整えることが、信頼される歯科クリニック運営の土台となります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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