人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師3名、スタッフ10名が勤務する歯科クリニックです。今年1月に採用した歯科助手(Aさん)の対応について相談させてください。
Aさんは入社直後から、勤務態度が悪く、シフトの勘違いによる遅刻や、無断での早退が相次ぎました。再三にわたり改善指導を行いましたが、面談の中で記憶障害のような兆候が見られたため受診を促したところ、医師から「うつ病」との診断を受けました。
本人と再度面談した際、Aさんは「今の職場環境に馴染めず不調が出たが、仕事は続けたい。休職もしたくない」と主張しています。そこで当院では、心機一転して頑張ってもらうために、2月24日から別の分院へ配属を変更することを決定しました。
しかし、現在Aさんが所属している現場のリーダー(歯科衛生士長)からは、「今の不安定な状態で出勤されても、教育に時間を取られ、他のスタッフの精神的負荷も大きい。新しい配属先へ行くまでは来ないでほしい」と強く要望されています。
そのため、新しい分院へ異動するまでの約2週間、Aさんに対し「自宅待機」を命じることにしました。Aさんは就労の意思を示していますが、クリニック側の受入体制の都合で休ませる場合、給与(休業手当)を支払う必要はありますか?
ご相談への回答

歯科クリニック経営において、メンタル不調を抱えるスタッフの就労可否の判断は、安全配慮義務と業務効率の観点から非常にデリケートな問題です。結論から申し上げますと、本人が就労可能であると主張しているにもかかわらず、クリニック側の受入体制の不備や教育的配慮の限界を理由に自宅待機を命じる場合、原則として平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う法的義務が生じます。
「使用者の責めに帰すべき事由」による休業
労働基準法第26条では、「使用者の責めに帰すべき事由」によって労働者を休業させた場合、休業期間中に平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないと定めています。
今回のケースでは、Aさんは「働ける」と主張しており、労務の提供が可能な状態です。これに対し、「教育に時間がかかる」「現場のスタッフが対応できない」といったクリニック側の管理・運営上の都合で就労を拒否することは、法的には「使用者側の都合による休業」とみなされます。したがって、自宅待機を命じている期間については、休業手当の支払いが必要となります。
「出勤停止」という名の懲戒処分には要注意
現場の要望を汲んで、単に「来なくてよい」と伝えるだけの対応は、実質的な「懲戒処分(出勤停止)」とみなされるリスクがあります。
懲戒処分として無給での出勤停止を行うためには、就業規則に定められた懲戒事由に該当し、かつその処分が客観的に合理的で社会通念上相当である必要があります。本人の病状(うつ病)が原因でミスが起きている場合、それを直ちに懲戒事由として扱うことは「懲戒権の濫用」と判断される恐れがあるため、安易な処分は避けるべきです。
安全配慮義務と産業医・主治医との連携
本人が「働ける」と言っていても、実際に就労させることで病状が悪化するリスクがある場合、クリニックは安全配慮義務に基づき、就業を制限するなどの措置を講じる責任があります。
しかし、クリニック側の独断で「就労不能」と決めつけることはトラブルの元です。主治医の診断書に「就労可能」とあっても、歯科現場の具体的な業務負荷(高い集中力を要する診療補助など)に耐えられるかどうかは別問題です。可能であれば、産業医や精神科の専門医に対し、分院での新しい業務内容を提示した上で、医学的見地からみた「適切な就業上の措置」について意見聴取を行うことを強くお勧めします。
もし専門医から「一定期間の安静(休業)が必要」との意見が出れば、それは「本人都合の欠勤(または休職)」となり、休業手当の支払い義務は生じません。
本件のポイント

- 本人が就労可能であり、クリニック側の「受入体制の不備」や「現場の負担」を理由に休ませる場合は、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要である。
- 「教育が困難だから」という理由での出勤停止は、就業規則に基づかない限り、不当な懲戒処分とみなされるリスクがある。
- 私傷病(うつ病)が原因であっても、無理に就労させて病状が悪化した場合、クリニック側の安全配慮義務違反(労災への転嫁)を問われる恐れがある。
- 本人の主張だけでなく、主治医や産業医から「歯科現場の具体的な業務に耐えうるか」という視点での意見を聴取し、客観的なエビデンスに基づいて就業の可否を判断すべきである。
スタッフの定着と安全な診療体制を維持するためには、法的な支払い義務を整理した上で、医学的根拠に基づいた「納得感のある対応」を積み重ねることが肝要です。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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