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005_労働安全のFAQ

【出勤停止】インフルエンザ疑いの歯科衛生士への受診命令。休業手当の支払い義務は?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院に勤務する歯科衛生士から「朝から発熱があるが、予約が入っているので出勤する」と連絡がありました。話を聞くと「家族がインフルエンザなので、自分もそうかもしれない」と言います。

院長として、他のスタッフや免疫力の低い患者様への感染拡大を何としても防がなければなりません。そこで本人に対し、「今日は出勤せず、すぐに病院を受診すること。検査結果が判明して『陰性』であるか、あるいは『就労可能』との診断が出るまでは自宅待機とする」と命じました。

すると本人から「受診にはお金がかかるし、自分の意思で休むわけではない。休んでいる間の給料はどうなるのか」と質問を受けました。

  1. インフルエンザの疑いがある段階での「自宅待機命令」は、法的に給与(休業手当)を支払う必要があるのでしょうか?
  2. 本人が拒否しても、医療機関への受診を「命令」することは可能ですか?また、その検査費用はどちらが負担すべきでしょうか。
  3. もし検査の結果「陽性」だった場合、その後の休業期間の扱いはどう変わりますか?

職場環境を守るための正当な指示だと考えていますが、トラブルを避けるための実務を教えてください。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックのような密接した環境では、感染症対策は「安全配慮義務」の観点からも極めて重要です。しかし、「罹患の確定前」に事業主の判断で休ませる場合は、原則として「休業手当」の支払い義務が生じる点に注意が必要です。

「疑い」段階での自宅待機と休業手当

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。

インフルエンザ等の感染症に罹患したことが医師によって正式に診断される前に、クリニック側が万一の感染拡大に備えて予防的に「自宅待機」を命じることは、事業主側の経営判断(都合)による休業とみなされます。したがって、結果的に感染が認められなかったとしても、検査結果が出るまでの待機期間については、休業手当の支払いが必要となります。

受診命令の根拠と費用負担

事業主には、スタッフが安全で衛生的に働ける環境を整える義務(労働安全衛生法)と、労働者の健康に配慮する義務(労働契約法の安全配慮義務)があります。

  • 受診命令の可否: 感染症の疑いがあり、職場の安全を脅かす恐れがある場合は、安全配慮義務の履行として受診を命じ、出勤を停止させることは可能です。
  • 費用負担: 一般的な私傷病の受診とは異なり、「職場の感染拡大防止」という事業主側の目的で強制的に受診させる場合、その検査費用はクリニック側が負担するのが実務上適切です。

診断確定後の取り扱い(不可抗力の境界線)

医師の診断によりインフルエンザ「陽性」と判定された後は、以下の理由から休業手当の支払い義務はなくなります。

  • 労務提供が不能な場合: 本人の病状により「働ける状態にない」のであれば、それはスタッフ側の事情(私傷病)による欠勤となり、クリニック側に支払い義務はありません。この場合、要件を満たせば健康保険の「傷病手当金」の対象となります。
  • 感染症法に基づく制限: 感染症法に基づき、行政から就業制限や入院勧告が出された場合は、「不可抗力」による休業とみなされるため、休業手当の支払いは不要です。

実務的な解決策:就業規則への規定例

不透明な状況でのトラブルを防ぐため、あらかじめ就業規則に以下の内容を定めておくことが推奨されます。

【規定例の内容】

  • 感染症に罹患した場合は出勤停止とし、その期間は無給とする(傷病手当金の活用)。
  • 感染症の疑いがある者は、診断が確定するまで自宅待機を命じることがある。
  • 「疑い」による自宅待機期間については、平均賃金の60%以上の休業手当を支給する
  • 会社が指定する検査受診にかかる費用は、会社負担とする。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 罹患確定前の「念のための自宅待機」は会社都合の休業となり、休業手当(6割以上)の支払いが必要である。
  • 感染拡大防止のための受診命令は可能だが、その費用は会社負担とするのが妥当である。
  • 「陽性」確定後に、本人が病状により労務提供できない期間は、休業手当の支払いは不要(傷病手当金の対象)となる。
  • 就業規則に「疑い時の自宅待機」と「確定後の出勤停止」のルール(有給・無給の別)を明記しておくことが最大のリスクヘッジとなる。

「無理をして出勤する」ことが美徳とされる文化を排し、疑いがあるときはルールに基づき安心して休める体制を整えることが、結果としてクリニック全体の診療継続とガバナンスを守ることに繋がります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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