当サイトはアドセンス広告およびアフィリエイト広告を利用しています。

005_労働安全のFAQ

【メンタル不調】適応障害での休職。「労災」か?「私傷病」か?原因切り分けの判断ルート

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院に勤務する歯科衛生士(Cさん・勤続2年)の休職について相談です。先日、Cさんから「適応障害」との診断書が提出され、3ヶ月の療養が必要であるとの申し出がありました。

Cさんは「教育担当の先輩からの指導が厳しすぎた」「急患対応が続いて残業が増え、心身ともに限界だった」と、仕事が原因である(労災である)ことを主張しています。しかし、院長である私や事務長から見れば、指導はあくまで業務の範囲内であり、Cさん自身のプライベートな悩みも影響しているのではないかと感じています。

クリニックとして、以下の点を確認させてください。

  1. 「適応障害」などのメンタル不調が労災として認められるには、どのような基準があるのでしょうか?
  2. 「厳しい指導」と「パワハラ」の境界線、あるいは長時間労働の基準はどこにありますか?
  3. 会社として「私傷病」と判断して対応を進めた場合、後から労災に転嫁されるようなリスクはありますか?

休職期間中の給与や社会保険の手続きにも関わるため、原因の切り分けを正しく行いたいと考えています。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックのような少人数の職場において、スタッフのメンタル不調による休職は、診療体制だけでなく周囲の士気にも大きな影響を与えます。労災か私傷病かの判断は、最終的には労働基準監督署が行いますが、事業主には「労働者の健康確保に必要な範囲で情報を収集し、適切に取り扱う義務」があります。

精神障害の労災認定:3つの要件

うつ病や適応障害などの精神障害が労災(業務災害)と認められるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 対象疾病を発病していること。
  2. 発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による「強い心理的負荷」が認められること。
  3. 業務以外の心理的負荷(個体側要因や私生活のトラブル)により発病したとは認められないこと。

心理的負荷の強度は、本人がどう感じたかという主観ではなく、「同種の労働者」が一般的にどう受け止めるかという客観的な視点で評価されます。

負荷を評価する「ものさし」:長時間労働とハラスメント

労基署は「心理的負荷評価表」に基づき、以下のような出来事がなかったかを検証します。

  • 長時間労働: 発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超える時間外労働があった場合は、心理的負荷は「強」と判定されます。また、月80時間を超える残業が数ヶ月続いている場合も、業務と発症の関連性が強いと評価される重要な指標になります。
  • ハラスメント: 先輩の指導が「業務の適正な範囲」を超え、人格や人間性を否定するような言動、あるいは執拗な非難が含まれていた場合は、パワーハラスメントとして強い負荷とみなされる可能性があります。

私傷病が労災へ「転嫁」されるリスク

当初は「私傷病」として休職を開始したとしても、以下の対応を誤ると後日「安全配慮義務違反」を問われ、実質的に労災と同様の賠償責任を負うリスクがあります。

  • 放置のリスク: 労働者の不調を把握していながら、業務の軽減や配置転換などの措置を講じなかったために病状が悪化した場合は、事業者の過失が問われます。
  • 強引な処分のリスク: メンタル不調による勤怠不良に対し、医学的見地を確認せずに安易に懲戒処分を行うことは、病状を悪化させ、私傷病を労災へ転嫁させるトリガーとなります。

実務的な判断ルート

原因の切り分けとリスク回避のため、以下のプロセスを推奨します。

  1. 客観的事実の整理: タイムカードによる正確な労働時間の集計、および指導の記録(いつ、誰が、どのような内容を伝えたか)を整理します。
  2. 産業医(又は医師)への意見聴取: 産業医がいる場合は面談を実施し、就業環境が病状に与えた影響について専門的な意見を聴取します。
  3. 本人との面談と合意: クリニックが把握した事実と本人の主張を照らし合わせ、双方が納得できる解決策を模索します。
  4. 労基署への相談: 判断が困難な場合は、会社から所轄の労働基準監督署(労働衛生専門官)に状況を説明し、判断を仰ぐことが、安全配慮義務を果たすことにも繋がります。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 精神障害の労災認定は、発病前6ヶ月の「業務による強い心理的負荷」の有無で決まる。
  • 長時間労働(月80~160時間超)や指導の範囲を超えた言動は、強い負荷と評価される。
  • 会社が不調を把握しながら適切な措置を怠ると、私傷病が労災へ転嫁されるリスクがある。
  • 会社が主体となって情報を整理し、産業医や労基署と連携して対応することが、最大のガバナンス対策となる。

スタッフが安心して療養に専念でき、かつクリニックの法的リスクを最小限に抑えるためには、感情的な対立を避け、客観的なデータに基づいた誠実な対応が求められます。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

-005_労働安全のFAQ